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2013/07/12

KPIで経営を見える化する

グロービスMBAアカウンティング」は内容が難しいけれど、「MBAアカウンティング教室」の方は内容は浅いけれど幅広く書かれていて、初心者としては読みやすかった。
MBAアカウンティング教室」を読んだ感想をメモ。
ラフなメモ書き。

【1】アカウンティングには財務会計と管理会計の2種類がある。
財務会計はPL・BS・CSなどの会計帳票があり、株主や会計士など社外の人の為に作る。
管理会計は、会社内部向けのKPI(メトリクス)を出力するためにある。
使う人は社員だ。

【2】「MBAアカウンティング教室」では最初に、米国のプロ野球の話がある。
いつも負けていた球団に対し、OPS(出塁率+長打率)やアウト寄与率など独自のKPIを導入して、従来の野球で使われていた打率・本塁打数・防御率などの数値(KPI)に頼らず、勝つために選手の能力を的確に評価するようにした。
その手法(サイバーメトリクス)によって、お金のない弱小チームを一躍し優勝候補に育て上げた。
この話は映画「マネーボール」、メジャーリーグのアスレチックスが発端。

元々、野球は数字と相性が良い。
選手に対して、管理会計によるKPI(メトリクス)を上手に使って、野球チームを変えたということ。
この手法を応用すると、KPIを経営に使えば、どうなるか?

【3】管理会計の運用サイクルは下記になる。

・戦略に合わせて測定する指標(KPI)を定める。
・出てきた数字を共有し、見る化する
・数字を元に経営や現場での意思決定に活かす
・PDCAを回して、常に業績向上を目指す

つまり、管理会計は、KPIというメトリクスを使って現場の担当者のモチベーションを喚起し、業績向上に結びつける手法と言える。
MBAアカウンティング教室」では、KPIを使った具体例が紹介されていて面白い。

例えば、星野リゾートでは、顧客満足度のアンケートを収集し、顧客満足度と関連性のある項目を徹底的に分析して、リピート率や客単価を増やしている。

京セラではアメーバ経営という独自のKPIが有名。
アメーバ経営では、アメーバという小集団に損益責任を持たせる。
KPIとしては、人件費を引かない利益を指す差引売上、差し引き売上を従業員の総労働時間で割った時間当たりの差し引き売上を増やすことを目指す。
通常は、利益は、売上から人件費を差し引くものだが、そのようなKPIにすると、優秀な人は人件費が高いから不要だ、と人件費カットへ歪んだ方向に行きやすい。
だから、人件費は気にしなくていいから、それを差し引く前の利益を最大化するように、というメッセージを社員に送っている。

すると、だらだら時間をかけて売上を上げても時間当たりの差し引き売上は上がらないから、生産性を上げる方向に社員は動く。
例えば、営業マンはしっかり準備し、見込み客を見極めて、極力短時間で商談をまとめあげるようになる。

ノードストロムというアメリカの百貨店では、時間当たりの売上を重視する。
従業員は、丁寧な接客を心がけて、リピート購入を目指そうとする。
普通、百貨店では、面積単位の売上や利益が重視されるが、別のKPIで従業員の方向性を決めている。

3Mは、総売上に占める新製品の比率を重要なKPIに定めている。
このKPIによって、新しい独自製品を生み出そうとする姿勢を従業員に求めている。
Googleの20%自由労働と同じような効果を求めているわけだ。

【4】KPIの長所は見える化。
経営や現場の状況をある観点で数値化した指標を用いることで、経営者や担当者に気づかせる。
KPIによって、現場の担当者の行動を変化させる。
しかし、KPIというメトリクスにも短所はある。

一つは、KPIを収集して集計するコストが大きいことだ。
現場の担当者の作業中に数値を採取し、その数値を集計する手間がかかる。
だから、収集や集計にあまりコストをかけず、ややアバウトでも運用できる方がいい。

2つ目は、測定方法はあまり変えないこと。
KPIの数値がコロコロ変わるようでは、誰も信用しなくなるし、分析した結果から得られる結果が少なくなる。

3つ目はKPIの鮮度とタイミングを重視すること。
せいぜい日次で収集して集計して、すぐに現場で使える方が良い。
そうでなければ、KPIは現場では使われないだろう。

そんなKPIの話を聞くと、ソフトウェア開発のメトリクスにとても似ている。
テスト密度、バグ密度などのメトリクス、信頼度成長曲線、管理図などの品質管理技法は、管理会計の手法とその目的にとても良く似ている。
ソフトウェアメトリクスによって、ソフトウェアの品質が分かる。
だが、ソフトウェアメトリクスは、収集や集計のコストがとてもかかる。
実際、開発者にExcelシートへ記入させて、それをExcelマクロで集計するやり方が従来はとても多かった。

そして、管理会計のKPIとソフトウェアメトリクスの大きな違いは、KPIは従業員を鼓舞する面が大きいのに対し、ソフトウェアメトリクスは開発者のモチベーションを下げるような性質の項目が多いこと。
バグ数やテスト密度、LOCなど、開発者をもっとイノベーティブに行動させようとする動機に欠けている。
むしろ、開発者を萎縮させたり、その数値を改ざんさせたいと思わせたりする方が強い。

ソフトウェアメトリクスは、開発者の動機を高めるような方向へ作り変えるべきではないか?

【5】「MBAアカウンティング教室」で興味深いのは、TOCのスループット会計の説明があったこと。
従来の会計の問題点は、在庫のムダが多くなりがちなこと。
仕入から製造まで、原材料や仕掛品は資産として計上される(原材料//買掛金など)。
そして、販売した時点で、製品は売上に変わる。(売上原価//売上)

つまり、従来の会計手法では、製品が売上計上されるまで、在庫は資産として計上されてしまうため、在庫をたくさん作るほど利益が出るように見えてしまうことだ。
工業簿記で出てくる全部原価計算では、特にそうなりがち。
在庫を増やして1個あたりの製品原価が小さくなるように見えて、逆にたくさんの負債を抱えてしまうわけだ。

MBAアカウンティング教室」では、80年代に隆盛を誇った日本の半導体産業が90年代以降落ちてしまった理由の一つは、全部原価計算に固執したコスト計算で在庫を積み上げてしまったのに対し、アメリカではEVA・BSC・ABCなどの手法を用いてコスト計算を根本的に変えて徹底的にコストを下げた点にあるのではないか、と指摘している。

TOCのスループット会計では、その問題点に対し、スピードを重視した会計基準を考える。
つまり、製品1個あたりの売上よりも単位時間あたりの売上を重視する。
より多くの売上を上げるには、生産性を挙げることが重要であり、TOCでは、制約となるボトルネックの生産性に依存している。
TOCによれば、ボトルネックとなる工程の生産性を上げて稼働率を高める方が、時間当たりの利益が増える。

すると、ボトルネックでない工程や機械の生産性がいかに高くても、ボトルネックとなる工程の生産性が低ければ、それら生産性の高い工程や機械は遊休資産になっている。
遊休資産は資産と言えども、機械であればリース代もかかっているし、ボトルネックのせいで稼働率の低い工場も水道代や電気代などの費用がかかっている。
つまり、機械や工場のように利益を生み出していない遊休資産にも実はコストがかかっている事実を示唆しているのだ。

MBAアカウンティング教室」ではスループット会計を活用しやすい分野として、人の質が効率に大きく依存するIT業やサービス業で有効であると述べている。
確かに、開発者の生産性は人によって10倍以上の差があるわけだから、ボトルネックは特定の人に偏りがちだ。
だからこそ、時間当たりの売上や利益を増やすために、ボトルネックとなる部分に注力するやり方が有効なのだろう。

【6】他にも活動基準原価計算(ABC)や損益分岐点分析(CVP分析)などの話も興味深かった。
管理職や経営者の立場になると、こういう知識は知っていて当然になるので、「MBAアカウンティング教室」のような読みやすい本で浅く広く知っておくのは有益だと思う。

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