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2013/11/25

仮説から理論を構築する過程で大切なこと

最近、地球の歴史や恐竜に興味を持っているのだが、『決着! 恐竜絶滅論争』を読んで、自然科学における仮説から理論を構築する手法について、気づいた点があったのでメモ。

【参考】
【読了本】『決着! 恐竜絶滅論争>』 定説はなぜ「定説」たり得たのか - 読んで、観て、呑む。 ~押川閑古堂日乗~

書評 「決着! 恐竜絶滅論争」 - shorebird 進化心理学中心の書評など

後藤和久『決着! 恐竜絶滅論争』 - logical cypher scape

【1】恐竜の絶滅の原因は、隕石による衝突だ、という仮説が1980年代に提唱された。
その仮説の斬新さに異論反論も多かったが、隕石特有の物質であるイリジウムが恐竜絶滅のタイミングに大量に発生している地質的証拠が大きな証拠としてあがった。
さらに、1991年に、メキシコのユカタン半島でチチュルブ・クレーターが見つかったことで、隕石衝突説が決定的となった。

しかし、その後、デカントラップと呼ばれる火山噴火説が恐竜絶滅の原因として根強く世間に流布されており、隕石衝突説ではない、という反論があたかも広がっているように思われた。

そこで、『決着! 恐竜絶滅論争』の著者は、改めて、恐竜絶滅の原因は隕石衝突説であると主張するために、定量的な証拠を元に論理的に説明する試みをおこなった。
下記が、2010年にサイエンスに掲載されたその旨の総説論文であり、『決着! 恐竜絶滅論争』はその論文の解説である。

The Chicxulub Asteroid Impact and Mass Extinction at the Cretaceous-Paleogene Boundary

【2】『決着! 恐竜絶滅論争』を呼んで面白かった点は、科学者の間で、火山噴火説と隕石衝突説を討論している過程で、仮説がどのように理論として構築され、決定されていくのかが分かりやすかったことだ。

火山噴火説を唱える科学者は、隕石衝突説に反論するだけで、次から次へと判明してくる地質学的証拠に対し、年代推定があいまいだ、とか、別の解釈もできる、などと反論していた。
しかし、火山噴火説では、イリジウムの異常濃集がどうしても説明できず、チチュルブ・クレーターが恐竜絶滅のタイミングで作られて、その衝突の余波による大津波や大地震や大火事の証拠に対して、自説を補強できるだけの説明ができなかった。
単純に反論するだけでは、自説の正当性にはつながらないのだ。

ある仮説が提唱され、それに反論するグループが出ることで、最初に仮説を提示したグループはもっと多くの証拠や定量データを示さなくてはならない。
もしそれができなければ、その仮説は正当性がなく、支持を失う。
多くの証拠や定量データを背景に、論理的に説明できる仮説だけが、その後の歴史に残る。

自然科学の理論を読んだり勉強する時に面白いのが、仮説をめぐる奥深い議論だ。
数多くの証拠や定量データをどのように解釈し、どのように仮説を補強するのか。
そして、自説に対する反論に対し、証拠や定量データを使って、どのように反撃するのか。

仮説が理論へ変化する過程は、そのようなたくさんの反論で鍛えられて、歴史に残るようになる。
反論に言い返せないような仮説は、理論にはならない。
だから、仮説を理論へ格上げするために、補強するための資料をもっと集めるために、証拠を探しに出かけたり、定量データを集めようとする。
そのために、たくさんの論文を書く必要があるわけだ。

【3】そのやり方は、ソフトウェア工学でも同じ。
ある時代のあるチームのあるプロジェクトでの経験則が、他の場所でも通用するように、再現可能になるようにするには、経験則を補強するような定量データを集めて、論理的に説明できるようにすることだ。

ソフトウェア工学は、自然科学というよりも社会科学の一部として捉えた方が良いと思えるフシがある。
だから、ソフトウェア工学はとてもあいまいな基盤の上の理論にすぎないように思える。
でも、経験則を一つの実践知として、形式知として、まとめ上げるのは有意義な活動であると思う。

チケット駆動開発も、当初は現場から生まれた経験則に過ぎなかったけれども、実践知として再現可能な理論体系へまとめ上げることは可能だと思っている。
今はまだあいまいな知識や経験談で散在しているけれど、それらを体系的にまとめることは可能だろうと思っている。

【追記】
最近の地球科学の本は、高校時代に習った内容と比べると、最近10年間で内容が大きく変わっている。
新しい証拠や斬新な仮説がどんどん出て、従来の静的な地球ではなく、スノーボールアース仮説のように地球が完全に凍結してしまったとか、スーパープルームで火山の大噴火が古生代末期に起きて地球上の生物の95%以上が死滅してしまったとか、色んな仮説が出てきている。
読んでいて、ハラハラドキドキするくらい面白い。

個人的には「凍った地球―スノーボールアースと生命進化の物語 (新潮選書)」や「地球環境46億年の大変動史(DOJIN選書 24)」が、初心者にも読みやすくてお勧めだと思う。


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