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2014/08/30

「プロフェッショナルCIOの教科書」の感想~調整型CIOは必ず失敗する

ユーザ企業のCIOを目指す人やCIOにこれから担当する人にとっては、良本だと思う。
CIOの失敗事例やCIOの使命、CIOに必要なスキルや考え方が具体的に提示されており、網羅的に書かれているのが良い。
情報システム構築を伴う業務改革や内部統制を統括する部門長の仕事の内容がよく分かる。

逆に言えば、CIOに近い仕事をしていない人の観点では、面白みに欠けるだろう。
書いてある内容が当たり前に思えてしまうからだ。

でも、CIOに近い仕事をしている人ならば、失敗事例はそうだよとうなずくだろうし、アインシュタインの式を真似た改革の公式「E=gi^2」には感心するだろうし、ERPの問題点とカスタマイズの回避策についても同感するだろう。

また「調整型CIOは必ず失敗する」という指摘も、経験上すごく同感する。
いくら利用部門と妥協して業務システムを導入しても、目的や投資対効果を明確に決めてないと、結局「動かないシステム」をたくさん作ることになってしまうから。
技術者上がりのCIOで技術にこだわり過ぎると、システムの導入自体が目的になってしまい、導入効果や現場への浸透が二の次になりがち。

以下、感想をメモ。

【1】けものみち:理由の分からない複雑な業務手順。
例えば、業務システムで複雑な返品機能があり、現場から悲鳴が出ていた。
その理由は、以前の現場で、営業マンが売上ノルマ達成のために、不正な受注を入力して、後から大量の返品が発生した事件が何度もあり、その対策のために返品機能が複雑になったから。

けものみちは、システム化の妨げになる。

【2】基幹システムの勘所
【2-1】会計システムの勘所:
①勘定科目の見直し
 →法改訂やIFRS対応
②会計PKG製品の流用
 →保守費用の削減
③財務会計と管理会計を区別
 →財務会計は法令を元に社外報告。管理会計は社内で使うので、目的を明確化する。
④データの誤りは、上流の業務で直す
 →販売管理システムの不始末、生産管理システムの不始末を会計システムで解決しない。会計監査で粉飾の指摘を受ける。

【2-2】販売管理システムの勘所:
①システム使用場面の明確化
 →営業マンが出先でモバイル端末を使うのか、事務員が社内で使うだけなのか、EDIで発注データを連携するのか。
②売上計上のタイミング
 →普通は出荷基準。
 →例えば、製品倉庫から営業倉庫への倉庫移動を売上計上した会社は、会計監査で粉飾の指摘有り。
③締め戻し処理の考慮
 →例:請求締め後に、取引先の要望で請求書の再発行など。
④システムごとのコード体系を整理統合

【2-3】生産管理システムの勘所:
①基準情報の精度を求める
 →MRPに入れる情報を正しくする。
 →例:リードタイムや所要量。BOMや工程の情報。
 →情報の精度が低いと、「計画と活動指示」の機能を現場が使いこなせなくなる。
②現場での情物一致を徹底させる
 →システム上のデータが現場で違う。
 →例:在庫や原材料手配。
 →現場ではシステムを信用しなくなる。
③販売予測と生産計画を連携する
 →MRPの精度を上げる
 →営業部門と製造部門が互いに信用しないと実現は難しい
④基準生産計画(MPS)の変更管理は柔軟にする
 →市場の変化や製造の歩溜まりで変更がよく発生する
⑤納期回答業務の機能を重視する
 →製品を在庫として持つのはリスク大。不良在庫、死蔵在庫になりやすい。
 →そこで、MTS、BTOやMTOで対応する会社が多い。
 →すると、受注や引き合いで、顧客や取引先に正確な納期を回答するのが重要

【2-4】人事システムの勘所:
①雇用形態の多様化
 →契約・派遣・時短などの社員もいる。育休や有休もある。
②個人情報への配慮
 →社員情報も個人情報保護法の対象。
③給与体系や手当の配慮
④PKGソフトの流用
 →システム維持作業を削減

【2-5】ワークフローシステムの勘所:
①外部システムとの役割や連携
②業務改革そのものにつながる
 →業務フローの見直しと最適化。意思決定の迅速化。ペーパーレス化。冗長な手続きや不要な業務を廃止。

【2-6】EDIの勘所:
①社外システムの活用
②客や仕入先にデータ入力させる
 →システムの使いやすさの追求
③社外の業務プロセスも含めた業務改善

【2-7】SCMの勘所:
①予測情報を全社で共有
 →計画立案業務を支援。販売・受注情報の精度を上げる。
②実績情報をタイミングよく収集する
 →計画業務へフィードバックして支援する

【2-8】ERPの勘所:
①メリットとデメリットは表裏一体
 →ERPのベストプラクティス導入は、自社に合わない場合もある。
  ERPを自社の業務に合わせると、ERPカスタマイズ費用が発生する。
②SOAの考え方が広がっている
 →一つのERPで全社の業務をカバーできない。統合DBの実現は無理。
 →複数のERPを組合せる。
 →しかし、業務単位の部分最適になりやすい。

【3】改革の方程式:E=gi^2

①E:業務の効果(Effect)
②g:業務改革(gyoumu)
 →業務の最適化。組織改編など。

③i:意識改革(ishiki)
 →社員の意識。変えようとする意識。
④i:情報改革(Information)
 →・改革の必要性を伝える。社員の動機づけ。
  ・業務改革の情報を伝達。活用できる業務情報を伝達。
  ・業務改革、意識改革のPDCA支援。状況のフィードバック。

【3-1】経営者がCIOによく投げかける発言「高い投資をしたシステムが何故活用されないのか?」。
「使い勝手が悪い」というユーザ部門の声は表面的であり、業務改革や現場への動機づけ(意識改革)が徹底されていないから。

【4】DMMによる業務の棚卸し

【4-1】DMM:1つの業務を8つの業務へ詳細化するために、8個のボックス形式にする。
 人がひと目で分かるのは6~8個。
 約3~5階層まで細分化する。

ザックマンフレームワークの考え方に似ている。
例えば、全社→販売→出荷→・・のように業務を細分化し、最下層の業務に対し、業務フローを書く。

【4-2】業務マニュアルの作り方
①見える化する
 →業務の暗黙知を見える化。考え方、用語、動作など。
②基準を作る
 →・標準を示す。例:業務手順
  ・幅を示す。例:チェックリスト
  ・考え方を示す。例:方針や理念。
③基準を守ることができるようにする
 →ポイントやコツ。例外業務や事例。評価する仕組み。
④ベストパフォーマーを作る
 →習熟度レベルで道筋を見える化する。プロセスチャンピオンを増やす。

【5】改革の失敗パターン

【5-1】経営トップがリーダーシップを示そうとしない
【5-2】経営者の意識が一枚岩ではない

【5-3】社内プロジェクト活動への疲労感が強い
 →経営者は業務改革にやる気満々。
  しかし、推進役は業務多忙で疲弊している。
  現場も業務改革についてこない。

【5-4】社員の意識が不足している
【5-5】社内に抵抗勢力がいる

【5-6】社内のけものみちが温存されている
 →例1:盲目的な月末在庫の削減
   あるメーカーでは、在庫削減の改革のために、現場は意図的に月末に在庫を置かなくなり、欠品が増えた。
   すると月末に出荷できない受注が出て、月末は取引できない雰囲気が出た。
   在庫削減活動による局所最適化が、販売機会のロスを招いた。

 →例2:計上部門が違う売上は計上部門ごとに入力する
   あるサービス業では、以前は、商品群ごとに対象とする顧客に重複はなかったので、売上データ入力は、商品群ごとに担当する部門が入力するルールだった。
   その後、同一顧客に複数の商品群の商品を提供するようになったが、従来の運用ルールが変わらない状況のまま放置された。
   その結果、顧客が複数の商品やサービスを一度に購入した場合、担当部門ごとの請求書が届き、支払方法も請求書ごとに異なるようになってしまい、顧客満足度が落ちた。
 
 →例3:同一商品でも営業部ごとに異なる商品コードを使う
    あるメーカーは、以前は、市場別のサブブランド戦略を取っていたために、同一商品でも営業部が異なれば、別の商品コードで売上管理していた。
    しかし、サブブランド戦略が廃止されたのに、同一商品でも営業部ごとに異なる商品コードを使う運用は残ったままになっていた。

【5-7】改革の浸透努力が不足している
【5-8】改革の手段が目的化
【5-9】ITソリューションの効果を過信している
【5-10】現場にITアレルギーがある
【5-11】改革推進のノウハウが欠如している

【5-12】調整型CIOは失敗する
 →妥協を取り付けても、情報改革の目的は果たせない。
 →期待効果と実現性のポジショニングマップで、優先度を付ける

【6】ERPやパッケージソフトを上手く使う
基幹システムをスクラッチ開発する会社は稀。

【6-1】成功のポイント:
①コード体系の全社統一
 →ERPは統合DBが前提。
  CRMやBIなど他システムへも不具合をもたらす。

②情報の精度を高める
 →データを重複なく一元管理する必要あり
 →十分な人手と期間を割り当てる。人間系の手作業とシステム化の業務を分ける。

【6-2】ERPカスタマイズの問題と回避策

①カスタマイズの失敗は深刻な事態を招く
②カスタマイズ要件の採否のポイント:
 ・情報改革に期待する効果の貢献度
 ・カスタマイズ無しでERP標準に合わせた業務の実現可能性
③ERP導入業者の見極め
 ・ITベンダの支援が必要
 ・カスタマイズ要件とのフィットギャップ分析できる能力があるか否か

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