自動車・半導体・防衛産業から読み解く、業界を制する設計思想
SIerから製造業に飛び込み見えてきたのは、業務を根本から支配する設計アーキテクチャの存在だ。
自動車のECU、半導体の巨大サプライチェーン、防衛産業のキルチェーン。
これら業界を制する概念を紐解き、アーキテクチャ主導による製品開発の重要性と本質を考えてみる。
【参考】
More Effective Agile ソフトウェアリーダー になるための28の道標 | Steve McConnell, 長沢 智治(監訳), クイープ |本 | 通販 | Amazon
アジャイルサムライ 達人開発者への道 | Jonathan Rasmusson, 西村 直人, 角谷 信太郎, 近藤 修平, 角掛 拓未 |本 | 通販 | Amazon
カイゼン・ジャーニー たった1人からはじめて、「越境」するチームをつくるまで | 市谷 聡啓, 新井 剛 |本 | 通販 | Amazon
作る、試す、正す。 アジャイルなモノづくりのための全体戦略 | 市谷 聡啓 |本 | 通販 | Amazon
【1】SIerで長年働いてきて、製造業に入ってみると、彼らの業務を支配する設計アーキテクチャを知りたくなってくる。
製造業のそれぞれの業界で使われる製品固有の前提、制約条件を元に、彼らはどんなルールに支配されているのか?
【2】たとえば、自動車ならば、ECUのアーキテクチャになるだろう。
(Gemini翻訳)
車ECU(Electronic Control Unit)は、自動車のエンジン、ブレーキ、エアバッグなど様々なシステムを電子的に制御する「車載小型コンピューター」です。センサーから得たデータをもとに最適な動作を計算し、1台の車に約100個搭載されることもあります。現代の車には不可欠な「頭脳」です。
ECUの主な特徴と役割
役割(自動車の「頭脳」): エンジンの燃料噴射・点火制御、ブレーキ(ABS)、パワーステアリング、車線維持支援など、安全・快適・性能を包括的に管理します。
構成: マイクロコントローラ、メモリー(ROM/RAM)、入出力インターフェースで構成され、厳しい耐熱・耐振動設計が施されています。
連携: 車載ネットワーク(CAN)を介して、それぞれのECUが連携して動作します。
種類: エンジン系、シャシー系、ボディ系(ライト、ドア)、情報系(ナビ)など、機能ごとに分散しているほか、これらを統合する「統合ECU」の採用も進んでいます。
近年は、自動運転や電動化の進展に伴い、より高度な処理能力を持つECUの重要性が高まっています。
では、ECUを支配するアーキテクチャにはどんな種類があるのか?
(Gemini翻訳)
自動車の脳にあたる「コンピューター(ECU)」の配置ルールは、進化とともに3段階あります。
・ドメイン型:役割ごとのチーム制。「走る」「止まる」など機能別に脳を分ける方式です。機能が増えるほど配線が複雑になり、車が重くなるのが弱点です。
・ゾーン型:場所ごとのエリア制。「右前」「後ろ」など車の場所で脳をまとめます。近くの部品を最短の配線でつなぐため、線を劇的に減らして軽量化できます。
・セントラル型:一極集中制。車の中央に超高性能な「1つの脳」を置き、全てを指揮します。スマホのようにソフトの更新だけで車の性能を後から進化させやすくなります。
現在は、配線を減らしつつ高度な制御を行うため、2と3を組み合わせた形が主流になりつつあります。
最近では、自動運転(AD)や走行制御(ADAS)が全てのECUを指示・制御する必要があるために、ADやADASの機能を持つ統合ECUが必須となるセントラル型アーキテクチャが主流になっていると思う。
ハード面でもソフト面でもアーキテクチャ設計が以前よりも遥かに重要な印象だ。
昔は、トヨタやホンダが「ハードの部品のすり合わせ」により1つの自動車を作っていた印象。
しかし、今は、SDVという「車のAPI化やOTAでソフトウェアによるハード制御などの実装に近い設計手法」になったために、20~50個ものECUを結合して、性能、品質、セキュリティなどを担保するのは、昔ながらの「すり合わせ」では実現不可能。
「すり合わせ」という複数チームのコミュニケーション活動による解決ではなく、ハード面でもソフト面でも「アーキテクチャにより自動車の構造をすり合わせる」へ時代が変わったと考える。
だから、MBSEのような「アーキテクチャ主導の製品開発」が重要になってきたと考える。
※OTA=いわゆるスマホのソフトウェアアップデート機能みたいなもの。自動車用語特有。
自動車の組込ソフトウェア開発が難しい理由は、3つあると思う。
1・ECUというハードとソフト双方を結合した部品を作った後に、さらに複数のECUを統合して初めて1台の自動車が完成するので、結合・統合テストで非常に苦労する。
2・自動運転(AD)や走行制御(ADAS)のように、全てのECUに指示制御する統合ECUが初めて出現したために、従来のハード中心のゾーンアーキテクチャからソフトウェア主導のアーキテクチャに変わったので、ソフトウェア開発力が弱いメーカーは非常に苦しい。
3・A-SPICE、機能安全、サイバーセキュリティのような監査プロセスを踏んで品質担保を保証する必要があるので、ソフトウェア開発チームはソフトウェア開発だけでなく、監査ドキュメント作成の作業負荷も増えている。これらの規格をOEMメーカーがTier1の部品メーカーに要求するため、開発現場はいつも人手不足で作業が大変な印象。
自動車のアーキテクチャ設計で面白い点は、分散アーキテクチャから集中型アーキテクチャへ移り変わってる流れであり、マイクロサービス設計の発想とは異なる点だ。
理由は、自動運転機能が自動車の全ての機能に関わるので、集中型アーキテクチャでオーケストレーションせざるを得ない。
残念ながら、日本のOEMメーカーは、この流れに全く沿っていない。
中国メーカーとテスラに負けていると言えるだろう。
【3】一方、たとえば、半導体ならば、どんな設計アーキテクチャが重要なのか?
半導体の製造工程は、高度に専門化されて細分化されていて、巨大なサプライチェーンと化している。
もはや1社で全ての工程をカバーできる代物ではない。
最先端の半導体技術、ナノレベルの微細加工や洗浄の製造技術、超高純度の素材を必要としている。
半導体製造工場を1つ建てるだけでも数兆円掛かるのではないか。
半導体の製造工程では、高度に専門化された製造装置や超高純度の素材が使われる。
それら製造装置、素材を製造するメーカーは、各工程で5社未満に限られる。
日本なら、東京エレクトロン、スクリーン、信越化学などがあるだろう。
一般に、半導体製造において、最も重要とされる「露光(リソグラフィ)工程」を担い、圧倒的な市場シェアを誇るオランダの企業はASMLだろう。
ASMLが製造するEUV露光装置は1台あたり数百億円にのぼる超高額機器。
究極の、すり合わせ技術の塊。
ASMLだけで、半導体製造工程の付加価値の半分くらい占めているのではないか。
彼らのお客はTSMCやサムスン、インテルなどの巨大ファウンドリー。
彼らがどんどん積極投資するから膨大な売上になる。
だからこそ、今は、半導体に絡む株式投資をしたら、すぐに億万長者になれるだろう。
半導体製造工程のサプライチェーンを知り尽くすことが、半導体業界を理解できる鍵になる。
すべての技術、設計はサプライチェーンの細分化された工程に深く埋め込まれているからだ。
【4】では、防衛産業において、重要な設計思想、アーキテクチャ設計の思想は何だろうか?
重要なアーキテクチャ設計の思想は「Kill Chain」になるだろう。
防衛産業や軍事用語における「キルチェーン」とは、標的の発見から攻撃の実行、そしてその効果の判定に至るまでの一連の軍事プロセスを「チェーン(鎖)」に見立てた概念だ。
キルチェーンは一般的に「F2T2EA」と呼ばれる6つの段階で構成される。
Find(発見): 敵や標的がどこにいるかをセンサーや偵察で探知する。
↓
Fix(特定): 標的の正確な位置情報や動向を割り出し、特定する。
↓
Track(追跡): 移動する標的を継続的に監視・追跡する。
↓
Target(照準・目標選定): どの兵器で攻撃するのが最も効果的かを選択し、照準を合わせる。
↓
Engage(交戦・攻撃): 実際にミサイルや戦闘機などで攻撃を実行する。
↓
Assess(評価・戦果確認): 攻撃が成功したか、標的が破壊されたかを評価する。必要であれば再攻撃のプロセスに戻る。
Geminiに聞いたら、
「この概念の根底には、「一連のプロセスのうち、どこか一つの輪(段階)を断ち切る(破壊・妨害する)ことができれば、敵の攻撃全体を無力化できる」という考え方があります。逆に言えば、自軍の攻撃を成功させるためには、この鎖を素早く、かつ途切れることなく最後まで完遂する必要があります。」
「キルチェーンは「敵のプロセスをどこで断ち切るか」「自軍のプロセスをいかに高速で回すか」を考えるための基本となるフレームワークです。」
と言っていた。
つまり、F2T2EAの6つの工程のいずれかを断ち切ると、後続の工程に進めなくなり、ターゲットを撲滅できなくなる。
一方、F2T2EAの6つの工程を拘束に回すほど、攻撃力が増して、相手側の攻撃を防御しやすくなるだろう。
このキルチェーンと、アジャイル開発に出てくるOODAは非常に相性が良い。
OODAの4つのステップがキルチェーンの6つの工程に対応付けられるからだ。
Geminiに聞いたら、
アジャイル開発において「市場の変化に素早く適応する」ことが目的であるように、キルチェーンにおけるOODAの目的は「相対的なスピードで優位に立つこと」です。
自軍が敵よりも速くOODAループを回し続けると、敵の「Observe」と「Orient」は常に古い情報に基づいたものになります。結果として敵は混乱し、誤った「Decide」を下すか、意思決定そのものが麻痺します。これにより、物理的に敵を完全に破壊しなくても、敵のキルチェーンを機能不全に陥らせることが可能になります。
と言っていた。
つまり、アジャイル開発はスピードを重視するが、OODAの概念に即することにより、分析と学習が加速されるわけだ。
「More Effective Agile ソフトウェアリーダーになるための28の道標」にOODAの解説があるのだが、僕は今まで腑に落ちなかった。
なぜOODAがアジャイル開発と密接に関係するのか分からなかった。
しかし、キルチェーンの観点で考えれば、OODAは非常に理解できる。
OODAはまさに、相手国を攻撃し殲滅させるための設計思想なわけだ。
【5】自動車の「ECUアーキテクチャ」、半導体の「専門家されたサプライチェーン」、防衛産業の「キルチェーンとOODA」はまさにその業界を制するアーキテクチャの設計思想だろう。
これらの概念を元に考えることで、より詳細な機能要件や性能要件も理解できるようになるだろう。
これらの概念をさらに深堀りしてみたい。


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