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2008/01/05

量子革命がコンピュータ革命を引き起こした

埃を被った本棚から懐かしい本「サイエンス21」を見つけた。
21世紀の科学を予想する2000年に出た本。
当時、夢中で読んだ記憶がある。
その頃の感想を思い出しながら書いてみる。

【1】学習する機械は夢を見る

1980年代、物理学者ホップフィールドが、神経科学のニューラルネットワーク分野で、

脳の中にあるニューロンを格子の中の原子のように扱えるか?

という量子力学の発想を取り入れて革命を起こした。
その当時、人工知能の分野には系統だった組織原理がなく、バラバラの知識の集まりに過ぎなかった。

彼のアイデアでは、原子がエネルギーが最小になるように自らを配置するように、ニューラルネットワーク回路もそのエネルギーを最小にしなければならない。
つまり、「学習」は最も低いエネルギーを発見する過程なのだ、と。

脳内のニューロンネットをでこぼこの地形にボールを転がしている状況にたとえてみよう。

ボールはどこか一つの谷に落ちるように、絶えず最も低いエネルギーの状態(谷)を探している。
つまり、転がっているボールとは、複雑な学習過程の喩えになる。
このアイデアを発展させると、谷は「記憶」に相当する。

このモデルから、強迫観念とは、一つの谷が非常に大きくなって、近くの谷を全て飲み込んでしまった状態とも言える。

更に、このモデルが面白いのは、脳内のニューラルネットワークが夢を見始めるという発見。

ニューラルネットに多くの谷(記憶)を入れると、機能低下を起こす。
つまり、それぞれの記憶をスムーズに思い出せなく始める。

実際の記憶に相当しない好ましくないさざ波(擬似記憶、つまり夢)が地形の表面に出る。
この擬似記憶を取り除くために、故意に地形に小さな乱れを作ると、ボールは谷から投げ出されて再び転がり始める(眠りに相当する)。

眠ったり、夢見たりを何回か繰り返した後、ニューラルネットは機能低下が止まり、同じ速度で全ての記憶を思い出せるようになった(起きるに相当する)、と。

この発見の意味は、高度に発達したニューラルネットはその記憶を処理するために夢を見なければならない。
ニューラルネットに大きな負荷がかかりすぎると、夢と言う現実と異なる記憶が出てくる。
そんな夢を取り除くために眠る、と。

このアイデアは衝撃を受けたし、この発想をシステム開発で生かすとどうなるだろうか?
学習する組織、成長する開発者は、学習するにつれて、谷を増やしていく。
でも、いつかはその谷に飲み込まれてしまうことがあるだろうか?
そうならないように、夢を見るように、一度学習してできた谷を全てなくすようなプロセスが必要ではなかろうか?

そんなプロセスは、XPで言えば、週40時間労働なのかもしれない。
休息は必須なのだ、と。

【2】量子コンピュータこそ究極のコンピュータ

1980年代、ファインマンが、

コンピュータはどれくらいまで小さくなりえるか?

というアイデアで、量子コンピュータを考えた。
つまり、コンピュータを原子の大きさまで小さくした加算器と見なしてみよう、と。

例えば、沸騰した液体、二つの粒子の衝突といった事象という量子物理学の興味深い問題にチューリングマシンでは答えを出せない。
つまり、量子物理学で出てくる経路積分は無限大を計算する必要があるからだ。

彼の発想の根本は、量子の問題は量子コンピュータで計算させればいい、というもの。

量子コンピュータの理論は90年代の数学で聞いたことがある。
象徴的な結論は、量子コンピュータは全ての暗号を解くことができる、というもの。
すなわち、全ての素因数分解を解くことができることを意味している。
本当に実現されてしまうと、安全なクレジットカード決済などは全て意味がなくなってしまう。

今は量子コンピュータは、頭の中にある空想の産物に過ぎない。
でも、過去の歴史を見るように、いつかは実現されるだろう。

その時、P=NP問題なども量子コンピュータで全て解けてしまうのだろうか?

【3】量子力学がバイオテクノロジー、コンピュータ科学の思想を根本的に書き換えた

量子力学はコンピュータ、人工知能を完全に書き換えた。
更に、バイオでも同じ現象がある。

1944年、量子物理学者シュレディンガーが「生命とは何か?」で、

生物は原子の量子論で解明できる。
分子配列の中に閉じ込められた「遺伝暗号」(彼の造語)によって生命は支配されている。

と大胆に断言して革命を起こした。
そこから、DNAの2重らせん構造の発見、DNA塩基配列の調査が始まる。

#ちなみに、「生命とは何か?」は岩波新書で出版されていて、専門知識がなくても初心者でも読めるレベルです。
#でも古本しかないのか。。僕は図書館で借りて読んだ記憶しかない。。

これらの事象を振り返ると、20世紀前半に生まれた量子力学が全ての科学とその現象を根底から覆して、新しいモデルを作り出したことが分かる。

サイエンス21では「量子革命がコンピュータ革命、バイオ革命を引き起こした」と言い切っている。

更に、サイエンス21では、2020年、2050年の未来も予想しているけれど、当たっているような外れているような所もあり、結構面白い。

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