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2011/04/24

簿記に現れる権利と責務の概念

簿記を習っていると、簿記の中に権利と義務という概念が含まれているのが分かる。
考えたことをラフなメモ書き。
間違っていたら後で直す。

【元ネタ】
当座借越(とうざかりこし) -わかりやすい 簿記

【1】当座預金の勘定は、当座勘定と当座預金・当座借越勘定の2パターンがある。
普通は、当座預金で小切手の振出など、当座借越で当座預金がマイナス値(貸方残高)になった場合などを記録する。
時々、当座という一つの勘定で記録する場合がある。
当座勘定の場合は、借方が当座預金の残高、貸方が当座借越の残高をセットする。

この当座勘定の説明を受けた時、当座勘定の借方は当座預金、つまりお金を受け取る権利を意味していて、貸方は当座借越、つまりお金が足りないので返す義務があるという意味と教わってなるほどと思った。
同様に、他の仕訳でも、資産はお金を受け取る権利、負債はお金を支払う、又は返却する義務という意味が込められている。

つまり、他人とのやり取りで権利や義務が発生する場合、それはお金になる。
権利を商品にして売る商売は、保険や証券、受取手形、売掛金、仮払金などがあるだろう。
義務を商品にした場合、社債や借金のように、お金を借りることで返却する義務が生まれる。

権利はペーパー資産になりやすい。
お金を将来返す場合は必ず利子が発生する、利子が発生すると金融取引になると教わった。
利子がつくから、お金がある人はお金を貸す。
最近は、金融取引がIT化されてペーパー資産を簡単に膨らますことができるので、IFRSのように、お金を企業に投資する投資家重視の会計基準が必要になってきたのだろう。

簿記3級で面白かったのは、「権利」と「義務」の話がよく出ること。
例えば、個人商店の従業員が給料を前払いしてもらった場合、個人商店側は一時的資産として立替金を借方に発生させて仕訳する。
つまり、個人商店は「従業員から給料日になれば立替金を返してもらう権利」がある。

あるいは、社員が出張旅費を会社から前払いしてもらった場合、会社は金額不明の資産として仮払金を借方に発生させて仕訳する。
つまり、会社は「社員が出張から帰ったら報告させる権利」がある。

この簡単な例から類推したのは、ビジネスとは「権利の売買」が基本ではないか、ということ。
身近な例では、野球やサッカーのスタジアムの命名権ビジネス。
名前を付ける権利を売っているのだ。
あるいは、コンサートや劇団四季、宝塚歌劇のチケットは、それらを鑑賞する権利を売っている。
小室哲哉は、自分の曲の著作権がないのに他人に売って、逮捕された。
IT技術者なら、ソフトウェアの著作権も相当するだろう。

とにかく、取引の中で、権利があれば、それはビジネスにできる。
ビジネスのどこに権利があるのか、それを探り、稀少性を高めれば売れる。

【2】権利が資産、義務が負債という概念は、複式簿記の発祥地であるイタリアの海上貿易から生まれた。
東方貿易の航海のための資金を、資産家が出資金を出して、航海から帰ったらその利益を分配する仕組みから生まれたと聞いている。

権利が資産、義務が負債という概念について興味ある事象はいくつかある。
一つは、民主主義と資本主義が密接に関係していること。
欧米の歴史をふりかえると、政治的自由は私有財産の保護と共に生まれた。
商業貿易から得られた私有財産を更に投資して回収するための仕組みの背後には、権利が資産、義務が負債という簿記の概念が隠れている。

お金の貸し借りを社会のルールの一つとして尊重する法体制や商業取引がなければ、経済は発達しない。
弾言 成功する人生とバランスシートの使い方」でも、モノがカネ化するということは、社会が安全で他人を信頼できるインフラがあるからできるのであり、盗みや詐欺の方が割が合わないように社会は発達してきたのだ、という文章がある。
つまり、他人(とそのお金のやり取り)を信頼できる社会ほど個人の利益を生みやすい仕組みを歴史を通じて発展してきたのだ。

お金の貸し借りからうまれた権利と義務の概念と政治へ拡張すれば、自然に民主主義へ発展する。
特にイギリスでは、自由と私有財産が密接に絡みながら民主主義が発達していった経緯を辿ると、簿記を基盤とした経済のルール化は民主主義に寄与しているように思える。

最近の歴史でも、韓国や台湾のように、当初は軍事政権による開発独裁体制であったとしても、経済が発展していくと、文民政権が選挙で選ばれる体制へ変化した経緯が見られた。この流れの背後にも、資本主義と民主主義が密接に関係している理由が隠されている気もする。

もう一つは、日本では江戸時代の頃から金融取引が発展していた歴史を持っていること。
大阪堂島の米相場の先物取引がまさにそうだ。
また、日本独特の手形という債権・債務も、金融取引の歴史を背負っている。
だから、明治になって外国から複式簿記が輸入された時も、すぐに理解して普及できる余地があったのではないか?

日本では福沢諭吉が簿記を作った人だ。
「簿記」という言葉はBook Keepingをそのまま音訳したものと言われている。
人事屋が書いた経理の本―MGから生まれた戦略会計マニュアル」によれば、福沢諭吉は日本最初の簿記の本「帳合之法」を書いたが、その内容は、彼の独創的著述であり、彼が簿記の本質を非常に良く理解していた、と言っている。
彼のおかげで、日本はすぐに近代化できて、今の製造業のように優れた産業を作れたのではないか?

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コメント

こんにちは。簿記の歴史はおもしろいですね。トリビアですが、たいていの銀行の預金通帳では、出金が左に、入金が右に書いてあります。これは、預金通帳の起源が、銀行の勘定元帳の写しだからなんですね。出金は銀行にとっては「借方」だから左なんです。

投稿: keis | 2011/04/24 17:25

◆keisさん
なるほど、銀行勘定は普通の会計と異なるという意味はそこにあるわけですね。

簿記で現れる権利という概念がビジネスになるという事実が面白かったのでメモ代わりに書いておきました。

投稿: あきぴー | 2011/04/24 21:08

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