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2011/05/07

在庫管理に現れる簿記の概念

簿記に出てくる商品有高帳は、在庫管理を表す。
在庫管理についてラフなメモ書き。
間違っていたら後で直す。

【元ネタ】
販売管理システムの「会計3要素」: 設計者の発言

情報システムをDOA的にチェックする|HATのブログ

【1】以前、渡辺さんから「SCM(Supply Chain Management)とは結局、在庫管理の事なんですよ」と聞いて、なるほどと思った。
以前、羽生さんの記事で読んだ「在庫は商品の集合が示す状態であり、商品のインスタンスは無関係」を連想する。

在庫は商品の集合が示す状態: プログラマの思索

小売業でも商品を仕入れて販売するとき、必ず倉庫に保管する。
製造業でも、工場で作った製品(完成品。いつでも販売可能。仕掛品とは異なる)は倉庫に保管される。
倉庫に保管する場合、電気代も人件費もかかるし、食材ならば腐るリスクもあるから専用の冷蔵庫まで必要だ。
ビジネス的には、在庫数量は少ないほどいいし、在庫回転率が高いほど、売上が伸びていることを意味する。

だから、トヨタ生産方式のようなJIT(Just In Time)、かんばんがもてはやされたわけだ。
とはいえ、今回の震災で部品の在庫がなくて製品が作れないリスクも出てきたけれど。

在庫管理では受払という言葉が頻繁に出てくるが、「受入(入庫)」「払出(出庫)」を意味している。
渡辺さんの本でも受払という言葉が出てくる。

簿記では、商品有高帳で受払を管理する。
商品有高帳は、倉庫にある商品の数量と原価を記録する。
月末締めに売上原価を計算して売上総利益を出力するためにある。

商品を仕入れたら受入、商品を売り上げた時は払出になる。
倉庫の受払いでは、仕入や売上という仕訳が必ず発生する。
業務システムならば、夜間バッチ処理で自動仕訳を発生させて、翌朝に集計結果を出力する仕組みにしているだろう。

しかし、入出庫のきっかけが仕入と売上だけではなく、仕入値引・仕入返品・売上値引・売上返品でも発生する。
この4種類はひっかけ問題としてよく出る。

商品有高帳 (1) -わかりやすい 簿記

返品・値引き | 簿記3級から勉強しよう

仕訳は、仕入や売上のマイナス金額を入力するので、仕入や売上の逆仕訳が発生する。
更に、商品有高帳にも在庫数量や在庫単価が変わるから、記載しなければならない。

仕入返品は、仕入れた商品が破損していると仕入先へ返品するから、在庫数量が減る。商品有高帳にも記載する。
仕入値引は、仕入れた商品を値引きして入庫するから、在庫単価が減る。商品有高帳にも記載する。
売上返品は、売り上げた商品が破損して得意先から戻されたので、在庫数量が増える。商品有高帳にも記載する。
売上値引は、売り上げた商品を値引きするので、在庫数量も在庫単価も変わらない。商品有高帳は記載不要。

在庫の受払が発生すれば、売掛金や買掛金にも当然連動するから、計算に注意が必要。

【2】在庫単価の計算は、簿記では先入先出法か移動平均法が主流。
業務システムならば、移動平均法であっても即座にバッチ処理で出力されるから、普通だろう。

実際の現場では、業界によって在庫管理がかなり違う。
小売業では月末に1回だけ在庫数量を数える時が多い。
多品種で大量の商品を入荷・出荷するので、毎日在庫管理するのが大変だからだろう。
だから、売価還元法や最終仕入原価法が多いと聞いている。

逆に製造業では、毎日、倉庫の部品をチェックするから、継続棚卸法が普通。
工場で製品を製造するタイミングで、下請けから部品を入庫して、製造の待ち時間を減らす。
だから、JITなわけだ。

又、実地棚卸という作業も在庫管理では重要。
実際の倉庫業務では、帳簿と実際の在庫数量や原価が違ってくるため、帳簿に実際の数値を反映させる。
普通は帳簿よりも在庫数量が減って損する場合が多いので、間接経費として仕訳を起こす時が多い。

ビジネス的には、実地棚卸で帳簿と実際の差額が小さいほど、倉庫係がきちんと仕事していることになるので、倉庫係の評価に使える指標を出力できるシステムにしておくとよい。
また、営業マンがどんどん売上となる契約を取ってきて、在庫を早めに引き当てるほど、在庫が増えてしまうため、きちんと納期回答できるシステムにしておくのが重要。
この辺りは、渡辺さんの本「業務別データベース設計のためのデータモデリング入門」が詳しく、とても参考になる。

【3】@hatsanhatさんの下記の資料はとても参考になった。

『ビジネスソフト』の選び方、作り方

(引用開始)
2-2.販売管理のポイント
在庫の履歴を追いかけられるか
マイナス在庫を許すか
支援機能が実装されているか
受注-納品データの差異(顧客満足)
発注-仕入データの差異(仕入先評価)
売掛金年齢表(得意先評価)
(引用終了)

在庫数量の入力UIは普通は正の数量だが、マイナス数値を入力したい業務があるかどうか、要件定義で確認すべき事項の一つ。
仕入値引・仕入返品・売上値引はマイナス数量やマイナス単価が発生する仕訳の一つの例だ。

上記の説明時には、入荷前に仕入れた商品を引当したい場合がある事例が紹介された。
確かに、仕入という仕訳(倉庫に商品を入庫する)が発生する前に、営業マンが在庫の引当を予約したい場合もあるだろう。
中小企業なら、この種の例外業務は口頭指示やベテランの作業員がうまくやってくれているが、いざシステム化しようとすると、その例外業務を見落としがち。
例外業務を見落とすと、せっかく作った業務システムは実際は使い物にならないリスクがある。

又、在庫の履歴管理や支援機能があるかどうかは、在庫管理の集計結果から経営上の意思決定を下すのに必要な情報だ。
在庫の数量、単価の履歴を見れば、不良在庫がどのタイミングで起きやすいか、分析しやすいし、渡辺さんの本で紹介されているように、未来在庫を見通せれば、むやみに部品在庫を増やす必要もない。
その分、キャッシュフローが安定する。

受注と納品のデータ差異が小さいほど、顧客に指定された期日に出荷できたわけだから、顧客満足が高いだろう。
逆に、受注したにもかかわらず、部品在庫が足りなくて製品が作れず、出荷が遅れれば、当然、顧客も困る。

発注と仕入のデータ差異が小さいほど、指定された期日に発注した商品が届いたわけだから、仕入先はきちんと約束を守ってくれる所、と仕入先の評価も高まるだろう。
逆に例えば、仕入先の資金繰りが悪ければ、発注してもなかなか商品や部品が届かず、こちらも製品が作れなくなるわけだから、仕入先を変えた方がいいわけだ。

売掛金年齢表という概念は始めて知ってなるほどと思った。
商品や製品を得意先へ送って売上をあげたとしても、実際は今月末請求翌月末計上という所が多いだろうから、売掛金を回収するまで、現金は入ってこない。
つまり、債権が何ヶ月残っているか、債権の繰越残は何ヶ月前のものなのか、を知るために使う。

売掛金の残高だけでなく、発生した売掛金が回収されるまでの入金の履歴を残しておけば、得意先が倒産して売掛金を回収できなくなる事態までに、何らかの手を打ちやすくなるはず。

得意先の資金繰りが悪ければ、色んな理由で売掛金の回収が伸びるし、為替手形や約束手形など現金とは違った形式で入金される場合もある。
僕は実際はよく知らないけれど、手形でもらうと銀行で手形を交換する際に手数料が発生するから、結局損している例が多いはず。

【4】業務システムでは、在庫管理が重要な業務の一つ。
在庫管理とは、自分の会社で仕掛中の資産がどれだけあるのかを管理するわけだから、自分の会社の商品が今いくつあるのかすらまともに管理できない会社が成功するわけがない。

日本の製造業の会社はJITなど優れた在庫管理の手法を編み出したからこそ、世界トップのレベルにいるわけだ。
逆に、日本のSIerは仕掛中の資産をきちんと定義できていない所が多いために、ビジネスのレベルはあまり高くないのかもしれない。

DOAと在庫管理についてはとても奥が深いので、理解できたらまとめる。

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