論文作成の技法part1~論文の構造
「勝つための論文の書き方」「創造的論文の書き方」「これから論文を書く若者のために」を読んでみて、論文作成の技法をまとめたみた。
但し、僕は優れた学術論文を書いた経験はないので、想像の部分がある。
ラフなメモ書き。
【元ネタ】
われわれはどのように論文を書いているか(1/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(2/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(3/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(4/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(5/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(6/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(7/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(8/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(9/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(10/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(11/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
われわれはどのように論文を書いているか(12/12): 主体性確立のための「弁証法・認識論」講義
【1】論文が必要な理由
論文にも種類がある。
大学卒業に必要な学士論文や修士論文、博士論文などの学術的論文もあれば、特定のテーマに関する経験をまとめた経験論文や特定のテーマで既に知られている知識を紹介するなどの小論文がある。
歴史をたどれば、19世紀のヨーロッパで、それぞれの学問の分野で得た知識を同じ研究仲間でやり取りしあうための技法として論文が生まれたみたい。
だから、論文の書き方には流儀があるようだ。
論文は作文ではない。
論文作成の技術が必要と最近感じているのは、中間管理職やコンサルタントに近い職業では、他人に自分の考えやソリューションを売り込むために必要だから。
あるいは、自分の能力をアピールするために必要だから。
つまり、自分が正しいと考えていることを他人に説明する時に、論理的に正当性があるように説明する必要があるから。
【2】論文は「?」で始まり「!」で終わる
論文の形式は、序論・本論・結論の3部作。
日本語教育で言われる起承転結は、元々、漢詩から生まれた小説の技術であり、論理的な文章を書くのに向いていない。
多分、普通の日本人は論文の書き方をきちんと習っていないのではないだろうか?
「勝つための論文の書き方」では、良い論文は、「?」で始まり「!」で終わる。
つまり、良い問い(クエスチョン)から始まり、それを論理的に回答して、独創的な結論(驚くほど優れた理論)を導くプロセスを書いたもの。
序論が問題を提起する部分、本論が問題に対する解決策を提示し、それを検証する部分、結論がそれまでの結果をまとめて考察し、回答を提示する部分。
だから、論文を書く一番の条件は、良い問題を定める点にある。
「勝つための論文の書き方」では、序論で読者を驚かすような問題の立て方が重要と言う。
例えば、ダーウィンが「種の起源」を書いた時、人間は神が創造したという常識に対して、人間は猿から進化したのではないか、という非常識を対置して問題提起した。
マックス・ウェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という名著を書いた時、序論では、資本主義を作ったのは己の利益を追求する欲深い人間ではなく、金銭に対して禁欲的で労働と貯蓄を重んじる真面目な人達(プロテスタント)ではないか、という逆説から問題提起をした。
あるいは、誰もが常識と思っている内容から本質的な問題を導く方法もある。
例えば、カール・マルクスは、ダイヤモンドは何故高価なのか、という誰もが不思議に思わないが、よくよく考えると理由がわからない問題から、「資本論」を書き始めた。
僕が似たような感想を持った本は、ウォルフレン氏の名著「日本 権力構造の謎」。
その本も日本の政治権力の構造や歴史について、これでもかと言わんばかりにたくさんの証拠や著作を引用して、一つのモデルを書き上げようとしていた。
過去の特にヨーロッパ人が書いた論文を読むと、そういう問題提起の仕方、論理の進め方、分析の方法がとても上手いと思う。
似たようなことは広中平祐氏も述べており、彼の著書「学問の発見」の中で、過去500年、欧米で特に自然科学の発展が目覚ましかった理由の一つは、欧米人が東洋人と比べ物にならないぐらい、徹底的に分析する思索に優れていたからだ、と指摘している。
その一節では、欧米人は一つの問題があると、それをいろいろな要素に分けて、あらゆる角度から徹底的に調べあげるのに対し、東洋人は、大きな知恵袋の中に似たような問題をたくさん入れてしまい、その問題に関する議論は宇宙的な議論になってしまって最初の問題がどこにあるのか消え失せてしまう、と説明している。
一つの問題を複数の観点から徹底的に分析して、優れた独創的な理論や概念を導くことが論文の目的。
【3】論文ではアウトラインが命である
論文はその構成(アウトライン)を作る作業が一番重要。
論理的に説明するからには、構成がしっかりしていないと、問題から回答する流れに矛盾が出てくるからだ。
「論文は3段構成の三重構造である」と言われる。
例えば、演繹法、帰納法、弁証法、仮説検証、IMRADなどがある。
演繹法:論理1→具体例1→具体例2
帰納法:事実1→事実2→論理1
弁証法:A→非A→統一
仮説検証:現状→課題→解決策
人文科学や社会科学でよく使われるアウトラインは、弁証法。
ある人が自分の立てた問題に対して、ある回答をしているのだが、その回答が間違っているとする。
すると論文のアウトラインとしては、ある人の回答を提示し、その回答が何故間違っているかを説明し、最後に自分が正しい回答を提示する流れ。
つまり、弁証法はいわゆる「正(テーゼ)」「反(アンチテーゼ)」「合(ジンテーゼ)」という組立てになる。
社会問題や政治問題に関する議論を読むと、たいていはこの構成で、他人の意見に反対して、自分の意見の正当性を示そうとする時によく見られる。
「勝つための論文の書き方」では、弁証法はアリストテレス以来使われている議論の仕方で、フランスの大学入試資格(バカロレア)の論文(ディセルタシオン)試験の準備として、弁証法を徹底的に仕込まれるらしい。
その話では、フランスの高校生は論文の書き方を徹底的に習得させられているわけだ。
フランスの思考表現スタイルと大学入試 | 名古屋大学:フランス語科のHP
フランス語を学ぶ人のために: さらにー2011年度仏バカロレア、ディセルタシオンの問題が公表されました
自然科学や一部の社会科学で使われるアウトラインは、IMRAD形式。
Introduction, (Materials and) Methods, Results And Discussionの略。
つまり、問題提起→実験・調査などの方法→方法の結果→考察と結論という流れ。
自然科学では、問題を提起し、その問題を解くための方法を選んで実験や調査を行い、実験結果や調査結果を表や図でまとめて、最後に物理法則や新しい概念を提示する流れが多い。
いわゆる実験などの実証的なやり方。
社会科学でも、統計技法を使ってその結果を用いて問題に回答する構成もある。
自然科学系の論文を書くなら、「これから論文を書く若者のために」の本がとても分かりやすくお勧め。
提案型のビジネス文書(提案書、企画書)でコンサルタントがよく使うアウトラインは、仮説検証。
まず、ユーザ企業の現状から、ユーザ企業が抱える課題を列挙し、課題に対して解決策を提示する流れ。
いわゆる、AsIsモデルに対し、ToBeモデルを提示して問題解決を図る方法。
例えば、SIのシステム提案ならば、ユーザ企業の現行システムを説明した後、現行システムが抱える課題を洗い出し、その課題に対して、次期システムではこのように解決されますよ、と提示するだろう。
経営企画部のように、ビジネス戦略を立てる部署にいるならば、このアウトラインで提案書や企画書を作り、RFIを提示する時が多いだろう。
仮説検証スタイルの別名はフェルミ推定。
フェルミ推定とは、「シカゴの(ピアノの)調律師は何人いるか?」という問題が有名だろう。
物理学者フェルミが本来、原子爆弾の威力を机上の仮説から計算した手法なのだが、その発想方法をコンサルタントの一技法にフレームワーク化されたもの。
「地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」」がおそらく最も有名な本だろう。
論文を書く時はこのようなパターンを知っておくと、その枠組に自分の考えを当てはめれば書けるようになるはず。
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