スティーブ・ジョブズ自叙伝の感想
スティーブ・ジョブズ自叙伝を一気に読んだので感想をメモ。
ラフなメモ書き。
【1】製品に込められたアフォーダンス
アフォーダンスとは、環境が動物や人間に提供する性質。
よくある例は、ノブのないドア。
ノブがなければ、ドアを押すしか、部屋に入ることはできない。
判断せずに、そのままドアを押すだけ。
ノブがあると、ドアを押すのか、引くのか、どちらを選択すべきか、判断に迷う。
アフォーダンスの説明は「誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論」の本が一番良い。
スティーブ・ジョブズ自叙伝では、コロンビアの山奥で、文字も知らない6歳の子供にiPadを渡した所、その操作を教えてもらうことなく、自分で遊び始めたという話がある。
コンピュータという難しい機械の操作を知らなくても、考えなくても、自然に操作できる。
まさに、アフォーダンスそのもの。
マックが生み出したアイコンもそう。
アイコンというアプリケーションを象徴するデザインが、そのアプリが何を処理してくれるのか、アプリがどんな機能を持つのか、アプリがどんな機能を提供してくれるのか、一目で暗示してくれる。
デスクトップPCのアイコンの発想は、iPhoneにおける角が丸い四角いアイコンに受け継がれている。
ジョブズがデザインにこだわり続ける理由を、スティーブ・ジョブズ自叙伝ではこう語っている。
「デザインというのは人工物の基礎となる魂のようなもの。人工物は、連続的に取り囲む外層という形で自己表現するのだ」
「連続的に取り囲む外層」はアフォーダンスという概念を連想させる。
【2】使用性という品質特性、狩野モデルの品質特性を重視
Kano model - Wikipedia, the free encyclopedia
スティーブ・ジョブズのデザイン重視、製品へのこだわりは、基本品質だけでなく、魅力品質を重視する。
単にバグが少ないだけでなく、機能性だけでなく、使用性をとことんまで突き詰める。
狩野モデルは日本では殆ど知られていないのに、欧米では知られているみたい。
何故日本人は忘れているのだろう??
そのために、プロトタイプを重視する。
発泡スチロールで、重さも全く同じになるように作り、そのプロトタイプから製品のイメージを固めていく。
そのやり方は、リーンソフトウェア開発のMVP(最小機能製品)に似ている。
Lean Startup基礎~MVPとピボット: プログラマの思索
スティーブ・ジョブズがよく言う言葉は「シンプル」。
iPodも音楽を聞くまでに、操作を4個以下になるように機能の削減を命令した。
シンプルなデザインがアフォーダンスや魅力品質を更に強化する。
【3】スティーブ・ジョブズはプロダクトオーナー
スティーブ・ジョブズはアップルの独裁者。
アップル製品に全て口を出す。
だが、彼は、その製品の仕様やロードマップに対する最終責任者だった。
iMacを作った時も、USBやCDドライブ以外は全てカットし、半透明なデザインのデスクトップPCでアップルを復活させた。
iPodもiPhoneもiPadも、彼が製品の機能に逐一口を出し、実際に手に触ってデザインを洗練させた。
何を優先すべきか、何を作るべきか、開発チームに提示した。
彼の役割は、Scrumのプロダクトオーナーを連想させる。
プロダクトオーナーに関する情報は「スクラムを活用したアジャイルなプロダクト管理―顧客に愛される製品開発」を読むと良い。
プロダクトオーナーは、製品のバックログを作り保守するだけではない。
製品の予算計画、原価管理もやるし、スクラムチーム外にいる顧客やベンダーとも製品を完成するためにリソースの確保やらユーザの要望やらを調整する。
製品のロードマップは、もちろんコストという制約があるし、顧客へ届けるために納期という制約もあるから、それらをコントロールする責任も担う。
プロダクトオーナーの特徴で重要な点の一つは、プロダクトオーナーは基本は一人の人物に集約していることだ。
権限と責任が一人の人物に集中しているからこそ、決断も速くなる。
悪い例は、製品やシステムの仕様を決める権限が一人の人物になく、会議体に逐一稟議をかけなければならない状況。
その状況では、決断が遅れるし、あるべき製品の姿を導くことはできない。
たくさんの利害関係者の要望を最大公約数で反映したシステムになるから、魅力のあるシステムになるわけがないからだ。
【4】マッキントッシュ、スマートフォンという新しいマーケットの創造
スティーブ・ジョブズがすごいのは、常に新しい市場を作り出したこと。
マッキントッシュ登場によって、個人が使うデスクトップPCという市場が生まれた。
但し、この市場はMSのWindowsに置き換わった。
iPodとiTunesで、デジタル携帯音楽プレーヤという市場が生まれた。
そして、ソニーは駆逐された。
iPhoneやiPadによってスマートフォンという市場が生まれた。
いつの間にか、PCよりもスマートフォンの市場の方が大きくなり、更に新しい技術がどんどん生まれた。
これらの現象はイノベーションのジレンマを想像させる。
高機能な製品を作り市場を独占していた既存企業が、その商品に劣るが別の特色を持つ商品がどんどん売れていくことによって、新興企業に飲み込まれていくという理論。
「イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)」が詳しい。
スマートフォンが市場を席巻したことによって、日本の携帯、WiiやPSのようなゲーム機の市場がどんどん侵食されている。
最近の日本の家電メーカーが力を落としている現象は、イノベーションのジレンマで説明できるのではないだろうか?
イノベーションのジレンマ~過剰技術・過剰品質の罠: プログラマの思索
既存の高機能な製品をもっと高品質にしていく改良戦略では、イノベーションのジレンマにはまってしまっていて、本来の問題解決にはなっていないのだろう。
また、アップルの戦略は、ブルー・オーシャン戦略も連想させる
MSが独占するデスクトップPCの市場で戦うのではなく、iPod・iPhone・iPadという新しい市場を作り出すことで、その市場の先頭者として利益を独占することができた。
ニッチなマーケットがいつの間にか、メインマーケットになってしまったという事例。
【5】iPod→iPhone→iPadというソフトウェア・プロダクトライン
iPhoneやiPadが成功したのは、OSXという優れたOS、iPodのような携帯機器の開発ノウハウが十分にあったからとも言える。
OSXがあったからこそ、OSXを流用して、携帯機器用のOSであるiOSを早期に作ることができた。
iPodというハードウェア製造の経験があったからこそ、iPhoneやiPadでは何が重要なのか、を早期に判別できただろうし、過去の製品のリソースを流用することもできたのだろう。
その開発経緯を第三者が見ると、ソフトウェア・プロダクトラインを連想させる。
ソフトウェアプロダクトラインとは【software product line】 - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典
iPodという製品ラインから、iPhoneやiPadという製品ラインを派生して作ることができた。
しかも、iPodナノ、iPodシャッフルのように、iPhone3GSやiPhone4Sのように、iPad2やiPadミニのように、似たような製品だが仕様が微妙に異なる製品を次々に作り出すこともできている。
そういう結果を見ると、ソフトウェア・プロダクトラインや派生開発という開発スタイルがうまく機能していたのではないだろうか?
そうでなければ、あれだけの短いリリースサイクルで、細かな仕様が微妙に異なる製品群を次々に出荷することはできなかったのではないか?
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