リーンスタートアップはマーケット開発だ
「実践リーンスタートアップ」を読んでみて、ビジネススキルとプログラミングスキルの立場が逆転したのだ、という感想を持った。
ラフなメモ書き。
【1】「実践リーンスタートアップ」を読んでみて分かったのは、リーンスタートアップはマーケット開発だ。
つまり、リーンスタートアップは単なるITベンチャーの起業方法だけではなく、新しいマーケットにいる潜在顧客を発掘し、ビジネスモデルを作る手法と言える。
例えば、iPod/iPhone/iPadを生み出したApple、検索エンジンからGMailやGoogleAppEngineを生み出したGoogle、レコメンドエンジンやAWSを生み出したAmazonがまさに当てはまる。
実際、iPod/iPhone/iPadという革新的な製品は、投入した後、アーリーアダプターが注目して、その後一般の人達まで一気に普及した。
その間、ハードウェアもソフトウェアもチューニングして改善しながら、より良い製品になった。
「実践リーンスタートアップ」の基本モデルは、Learn→Build→Measureの運用ループだ。
このサイクルを早く回すことで、製品をチューニングして、機能や品質をどんどん改善していく。
この時、MVP(機能最小限の製品)をまず作り、いち早くマーケットに投入して、アーリーアダプターを見つけるのが大事。
アジャイル開発のように、製品を使ってくれて、障害報告だけでなく機能改善の要望をあげてくれる熱心なユーザを作るのが大切。
そうすれば、熱心なユーザのフィードバックを活かすことで、製品の方向性や完成度をいち早く見極めることができる。
そして、当初の計画を変更して、MVPの状態の製品を違う方向へ作り直す時、ピボットする。
最初の計画を守りすぎて、マーケットの動向や時代の趨勢に乗り遅れないように、計画は柔軟に変えていく。
ピボットという言葉が意味することは、バスケットボールのピボットのように、最初の計画を踏まえて方向転換することだ。
製品計画を作るには、リーンキャンパスを使う。
リーンキャンパスはビジネスモデルキャンパスに似たフレームワークであり、課題解決にフォーカスしているのが特徴。
リーンキャンパスで重要な項目はUVP(独自の価値提案)だ。
どんな価値を提供するのか、によって、どんな顧客にリーチするのか、どの課題に対してソリューションを提供するのか、が分かってくる。
プログラマはどうしてもソリューションに注目しがちだが、課題や価値、顧客も意識すべき。
「実践リーンスタートアップ」には他にも、かんばんを使ったタスク管理、顧客インタビュー、製品インタビューなどの手法も書かれていて、とても実践的。
【2】「実践リーンスタートアップ」を読むと、「アジャイルプロジェクトマネジメント」をブラッシュアップしたような内容のように思えた。
「アジャイルプロジェクトマネジメント」は革新的な製品を作るためにアジャイル開発のアイデアを適用した内容が書かれているが、その内容を新しい概念で表現し直したのが「実践リーンスタートアップ」のように思える。
リーンという言葉が流行しているのにその意味を僕はよく理解していなかったが、無駄の排除だけではなく、新しいマーケットを開拓する「顧客開発」や革新的な製品を生み出すための「製品開発」の視点がある。
【3】「実践リーンスタートアップ」のまえがきと解説がとても印象的。
なぜ現代は起業しやすくなったのか。
それは、「生産手段の所有」による制約がどんどんなくなって、「生産手段は借用」すればよい環境になってきたから。
実際、Webサービスを作りたいならば、プログラミングスキルさえあれば、クラウドの環境を使えば、そんなに難しいことではない。
クレジットカードさえあれば、ITベンチャーに必要なものは借りることができる。
すると重要な問題は、「構築できるか?」ではなく「構築すべきか?」に変わる。
つまり、Webサービスをどんな言語でどんなアーキテクチャで作るべきか、という実現可能性調査よりも、作ったWebサービスをどんなマーケットへ提供してビジネスを展開したら良いのか?という問題に変わったということ。
そのために、実験が必要になる。
だから、Learn→Build→Measureの運用サイクルが生まれた。
【4】「実践リーンスタートアップ」はビジネスに興味のないプログラマにこそ読んで欲しい本、と解説に書かれている。
現代のアメリカでは、コードが書けるビジネス起業家が大人気らしい。
リーンスタートアップの基本手法は、「機能を小出しにリリースして、顧客の反応を見ながらどんどん改善していく」ことだから、この手法を最大限に活かすには、自らコードが書ける人でないとその速さについていけない。
でも、やはりビジネスの理解がないとビジネスの起業は難しい。
だから、ITスキルとビジネススキルの両方が必要。
でも、ビジネスが分かる人がコードを学ぶのと、コードが書ける人がビジネスを学ぶのはどちらがより簡単か。
現代では、後者だ。
既にコードが書ける人がビジネスを理解すれば、一人でも起業できる。
しかし、2000年代前半までは、そうではなかった。
ソフトウェア製品やWebサービスを開発するには、たくさんの人と高価なサーバーが必要だった。
サーバーも自分たちで運用しなければならなかった。
だから、GoogleがシュミットCEOを呼んだように、ある程度まで成長したら、口が立つ経営者を呼ぶのが必要と思われていた。
でも今は違う。
FacebookCEOのザッカーバーグや、その他のWebサービスの起業家のように、20代でITベンチャーを起業しても懸念する人はいない。
むしろ、最先端のコンピュータ科学を過去直近に学んだ生粋のエンジニアの方に好感が持たれる時代なのだ。
「ビジネスが主体でプログラミングスキルはサブとして付加」だった頃から、現代は「プログラミングスキルが主体で、ビジネスはそれに付加」という逆転の発想。
リーンスタートアップが流行している背景にはそんな時代背景がある。
「リーンスタートアップ」が流行している理由はもう一つあるという。
それは「料理と同じように、別の国でアレンジされると世界に広まりやすい」という経験則に当てはまっているから。
例えば、麺類は中国発祥で、日本にわたってラーメンやうどん、イタリアに渡ってパスタを生み出して世界に広まった。
ピザはイタリア発アメリカ経由で世界へ。
リーンスタートアップも同様に、日本のトヨタのリーン生産方式のアイデアが、アメリカでソフトウェア製品開発に適用されて、無駄を排したITベンチャーの起業手法として生まれ変わった。
日本とアメリカという相当気質の違う国を経て生まれた「リーン」という概念は、相当カドが取れたグローバルな味付けになった。
だから、世界中で注目されている、と。
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