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2014/05/09

システムのあるべき姿はどのように創りだすのか~ITガバナンスの実現方法は何か

システム開発からシステム提案の作業に移ると、その作業の中身も変わってくる。
ラフなメモ書き。

【1】ユーザ企業が、何かしらの問題意識を持って、システムを導入する計画を立てようとして、提案作業を依頼されたとする。
実際に提案作業に関わって感じたことは、「システムのあるべき姿」を描く能力がとても必要であること。

システム導入前に、関係者にヒヤリングして問題点や課題を聞いてみると、たくさんの不平不満、要望が出てくる。
現状に何らかの不満があること、それが起点になる。

しかし、それらの問題を集めて、こんな解決策があります、だからこんなシステムを導入しましょう、だけでは重役たちに提案は通らない。

なぜ、あなたはその解決策を思いついたのか。
本当に、その解決策で問題が解消されるのか。違うのではないか。
問題と課題が混同されていないか。

それが本当に目的なのか。
戦略と目標と目的、ねらいが混同されていないか。

今回の提案では、開発のスコープはどの範囲か。
全てをカバーすると、予算がオーバーするのではないか。
納期も間に合わないのではないか。

投資したコストは回収できるのか。
システム導入の初期費用と、システムという資産を数年かけて減価償却していく費用、導入後の数年かけたランニングコストは、どれくらいか。
ビジネスモデルは作れているのか?

【2】それらの質問の背後にある本質は何か?
それは、「システムのあるべき姿が見えているのか」という点だと思う。

「システムを導入した後の姿」がイメージできていれば、重役たちに向けたこんな提案になるだろう。

現状の問題に対し、「あるべき姿」はこれこれだ。
そのギャップに、ヒヤリングした問題がプロットされる。

「あるべき姿」を実現するには、解決すべき課題として、これこれのテーマがある。
このテーマを詳細化すると、このような戦略で考えるべきであり、それぞれの戦略はこのような目標に置き換えられる。

そこで、我々は、今回の予算と納期の制約から、これらの目標のうち、この部分だけをスコープとして開発する。
「あるべき姿」に持っていくには、今回の開発だけでは終わらない。
「あるべき姿」を実現するロードマップはこれこれで、今回の開発は、この部分に相当する。

ロードマップに従うと、初期費用とランニングコストはこれだけの額になり、数年先には元が取れる予定になります、と。

【3】では、「システムのあるべき姿」とは何だろうか?
キーワードは、ITガバナンス。

情報マネジメント用語辞典:ITガバナンス(あいてぃーがばなんす) - ITmedia エンタープライズ

ITガバナンスとは「企業が競争優位性構築を目的に、IT戦略の策定・実行をコントロールし、あるべき方向へ導く組織能力」を指す。
つまり、企業が置かれている立場を直視し、競争優位を確保することを目的とするために、ITシステムの導入と運用を長期的視点で計画・実行・コントロールする。
そして、企業を「あるべき方向へ導く」。
その「あるべき姿を作り出す」組織能力を確立することを指す。

「システムのあるべき姿」は、時代と環境に大きく依存する。
20年前なら、そもそもWindows95すら発売されておらず、クライアントPCは社員全員に渡されていなかった。
10年前には、スマートフォンやタブレットすら無かった。

今なら、サーバー構築にクラウドを使うのは選択肢に入っているし、スマートフォンやタブレットで業務システムを使える要件も入っているだろう。
さらに、BYODやMDM、リモートワークのような要件も先進的企業なら入っているだろう。

それらの要件を加味した「システムのあるべき姿」を、その時々に応じて企画しなければならない。

【4】ITガバナンスの実現には、提示した「システムのあるべき姿」を論理的に補強するフレームワークを必要とする。

「システムのあるべき姿」を実現するには、このゴールが必要だ。
このゴールを達成するには、これだけの戦略が必要だ。

これらの戦略を成功させるには、この目標(重要成功要因:CSF)がいる。
この目標を実行するには、このようなアクションプランが必要で、システムの機能ないし運用ルールで実現できる。

この目標(CSF)を達成するには、目的を達成具合をはかる指標(重要目標達成指標(KGI))と手段の進捗状況をはかる指標(重要業績評価指標:KPI)が必要だ。

こんな流れを提案書に含めて、重役たちに説明して、「システムのあるべき姿」がどれだけの効果があり、どのように達成していくのか、を明示しなければならない。

では、このような提案のフレームワークは何があるのか?
おそらく、バランス・スコアカードになるだろう。

BSCとは 〔 バランストスコアカード 〕 【 Balanced Scorecard 】 - 意味/解説/説明/定義 : マネー用語辞典

「システムのあるべき姿」とゴール、ゴールと戦略の関係は、戦略マップで表現される。
つまり、システムのビジョン(システムのあるべき姿から導かれたゴール)と戦略の遂行は、「財務的視点」「顧客の視点」「社内ビジネス・プロセスの視点」「学習と成長の視点」の4つの側面から、戦略の因果関係図として、戦略マップになる。

戦略マップに書かれた要素である戦略は、目標へ詳細化され、重要成功要因:CSFになる。
つまり、戦略が達成されるべき条件を具体化した内容がCSFだ。
CSFが明確化されなければ、戦略を達成できたのか、評価できない。

それらを測定できるようにした指標が、KGIないしKPIになる。
目標に達成できたのか、測定できなければ、いつまで経っても、システム投資というお金を溝に捨てることにある。
KPIは、つまりメトリクスのことだ。
今は、業務や運用のログをゆるやかに収集して集計する仕組みをシステム化するのはとても簡単なので、メトリクスを提示しやすい利点がある。

【5】バランス・スコアカードは10年以上前から提唱されている経営戦略の手法だが、改めてよくできていると思う。
特に、戦略の因果関係を図で表現できるのが良い。
また、戦略マップで、単に財務の観点だけでなく、お金に直接ならない「学習や成長の観点」も大切にする点が良い。

このバランス・スコアカードについては、まだ使いこなせていないが、色々試してみたいと思う。


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