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2014/07/26

知的誠実さの大切さ~Moodleが持つ教育のイノベーションの可能性

結城さんのTwitterで気づいたことをメモ。

【元ネタ】
Twitter / akipii: 良い質問。知的誠実さが重要。無知の知を実践すること。RT @hyuki: 結城さんはわからないことがあったときどうしていますか? 私は高校生なのですが物理がわかった感じがしません。... ? 「わかった感じ」は難しいですね。http://ask.fm/a/b2ai10dd

結城さんはわからないことがあったときどうしていますか? 私は高校生なのですが物理がわかった感じがしません。公式を当てはめているだけで理解できていない感じがします。 | ask.fm/hyuki0000

【1】勉強していると「分かった気がしない」という感覚を感じる時がある。
教科書を読んで、先生や同僚から説明を受けて、確かにそうでしょう、と思うけど、腹の底では、自分の中で本当に納得できない時がある。

その時、あなたはどう対処するか?

最悪な方法は、分かったと思い込んで進んでしまうこと。
すると、もっとレベルの高い概念に触れた時に、基礎となる概念を理解していないから、結局つまずいてしまう。
そして、その先に進もうとしても進めなくなる。
でも、テストがあるから、何も考えずに丸暗記でカバーしようとする。
結局、考えることを放棄したり、自分の心を偽って、ありのままの現実を否定する行動に移る。

「分かった気がしない」という気持ちは大切にすべき。
ソクラテスが「無知の知」と読んだ内容と似ていると思う。
「自分が何も知らないことを知っている」ことを持っておくこと。

ソクラテスの無知の知は矛盾していませんか? - 哲学 - 教えて!goo

【2】上記の高校生の質問を見て、渡部昇一氏の「知的生活の方法」の一節を思い出す。

英語には「知的正直さ」という言葉がある。
これは、分かっていないのに分かったふりをしない、ということ。
当てずっぽうで間違えたのか、本当はそうだと確信しながら間違ったのか、その辺りの区別を自分自身でつけること。

「知的正直さ」を持つべき、と言う事実が上記の質問の回答になると思う。

【3】上記の高校生の質問から連想したのは、「世界はひとつの教室」というカーンアカデミーの一節。

教育にソフトウェアによるプロセス改善サイクルを導入する~カーンアカデミーによる教育の未来: プログラマの思索

カーンさんが自分で作った教育ソフトウェアを、実際に米国の小学生の講座に適用して実験する時、あえてA/Bテストを実施してみた。
A/Bテストの実施方法は、6~8年生の生徒に対し、一つのクラスは5年生レベルから始め、他方のクラスは1年生レベルから始めること。

その結果、最初に崩れた前提は「6~8年生にとって基礎的な算数は優しすぎる」ということ。
算数の九九や二桁のひき算のような所でつまずく生徒も出てきた。
でも、それらをクリアすれば先に進んでいけた。
逆に、5年生レベルから始めた生徒のグループは、数段階先に進んだ所でつまずいてしまい、最終的には、カメがウサギを追い越した、とのこと。

更に興味深いのは、A/Bテストをサポートした先生から、本当に欲しいのは生徒がいつ「立ち往生」しているかを教えてくれるソフトです、というフィードバックを得たことだ。

「立ち往生」とは、「分からない」と「分かった」の間にある、「分かった気がしない」感覚。
その感覚を子供は自覚できない時がある。
その時は、先生から諭してあげて、生徒に気づかせて、自力で解決させねばならない。
そんな「立ち往生」はソフトウェアで気づかせられればもちろん良いし、一番良いのは生徒自身が自覚しながら勉強できることだろう。

【4】最近「Moodle 2ガイドブック」の本を読んで、教育という古くからのやり方に、ソフトウェアが大きな影響を与えている事実を改めて感じている。

カーンアカデミーでは、10問連続して正解するまで先に進めない、というルールを設けて、「立ち往生」をチェックする機能を作った。
この「10問連続して正解するまで先に進めない」のようなルールは、Moodleのようなeラーニングツールでは、「完了チェック」機能と呼ばれている。
つまり、各コース(授業)の修了条件を設けて、学習の修了を自動判断する機能を作っているわけだ。

Moodle 2ガイドブック」を読むと、コンピュータ支援教育には、従来の教育を根本的に変える可能性を秘めているのがよく分かる。
従来のプロイセン型教育のような詰め込み教育から、カーンアカデミーのような完全習得学習、つまり、パーソナライズされた教育体験の提供への流れ。

カーンアカデミーの話もそうだし、最近は東大や京大もMOOC(大規模オープンオンラインコース)に参加する話ももあった。
何百万円もの大金を支払わなくても、誰もが高等教育を受けるインフラが整ってきた時代が来つつある。

Moodle 2ガイドブック」では、破壊的イノベーションの本の著者であるクリスティンさんが書かれた本「教育~」もあったので読んでみたいと思う。

【5】Moodleは、オープンソースのコース(授業)管理Webシステム。
Moodleの使い道は、従来の詰め込み教育の補完にも使えるし、オンラインの自己学習、O2O(オンライン・トゥ・オフライン)を生かした授業の支援などがある。

従来のように、教室で行なっている対面授業をサポートする仕組みとしてMoodleを使う「ブレンディッドラーニング」。
カーンアカデミーのように、自宅で講義のビデオを見て、教室では問題を解いたり、実習したり、個別指導を受ける「フリップモデル」。

あるいは、オンラインで基礎知識を学習後、集合研修を行い、研修後のフォローアップをMoodleで行う「ハイブリッドモデル」。
このハイブリッドモデルは、兵器の取り扱い、船や航空機の操作ができる人材を大量に教育する必要がある所から生まれているらしい。

さらに、オンライン上で授業を受ける生徒同士がMoodle上のフォーラム、チャット、ワークショップ(相互評価・ペアレビュー)でコミュニケーションしながら、学びの実践共同体を形成する方法。
これはいわゆる「コミュニティ・オブ・プラクティス」と呼ばれる。

Moodleは、このソフトウェアを作った研究者が「社会的構成主義」という考え方を具体化するツールとして実現したもの。
「社会的構成主義」とは、個人だけでなく、人々がグループ内でインタラクション(相互作用)しながら何らかの成果物を作り上げていく過程で、知識を形成していくのだ、という考え方。
だから、Moodleには、授業の教材を単純に管理する機能だけでなく、ワークショップ、Wiki、用語集、フィードバック、フォーラム、チャット、投票、調査など、色んな機能が実現されている。

Moodle 2ガイドブック」を読んで、Moodleの基本的な運用方法がイメージできたので、後でまとめてみたい。



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