« 「高専生と取り組むScrum」の資料が素晴らしい | トップページ | 出版システムや文書共有システムを作った事例 »

2014/07/05

「採用基準」の感想~日本の根本問題はリーダーシップの総量が不足していること

採用基準」を読んだ。
本の中身は、優れたリーダーシップ論。
自分のキャリアを考えている人、プロジェクトリーダーや経営者のように、リーダーシップの能力を必要とする人にはとてもお勧め。
とても印象的だったので、ラフなメモ書き。

【1】ドラッカーの本ではいつも「マネジメントとリーダーシップの違いは何か。それぞれの本質は何か」という問いに対して、延々と議論されている。
採用基準」では、マネジメントとリーダーシップの違い、リーダーシップとは何か、を明確に提示している。

マネジメントとは、プロセス管理、予算や人材などのリソース管理、スケジュール管理などの管理業務。
PMBOKがその内容を明確に提示している。
課長職以上になれば、必要なスキル。

リーダーシップとは、問題に対しゴール(課題)を提示し、その課題に対する解決策を導き出す行為。
マネジメントとは全く異なる概念。
リーダーシップは、管理職だけでなく、あらゆる人に必要なスキル。
最近は、普通の人でも、リーダーシップが必要な場面が多くなっている。

学校のいじめ、保育所の少なさ、介護の問題から政治における問題に至るまで、問題解決のスキルだけでなく、問題解決リーダーシップが必要とされている。
その問題解決リーダーシップが、日本のあらゆる人に求められている。

リーダーシップの経験がない人は、チームや組織で自分勝手な行動を取りやすい。
チームや組織の中で、自分がどのような役割を求められているのか、チームのゴールを達成するには自分はどのような使命と役割が期待されているのか、をイメージできない。
だから、チームのゴール達成を阻害するような行動を取っても、それに気づかない。
リーダーシップの経験がない人は、人間的に未熟なのだ。

【2】日本が20年以上低迷している原因の一つは、日本でリーダーシップを発揮している日本人が少ないことを指摘している。
目の前に問題があり、それが解決されないのは、リーダーシップを発揮しようとする人が少ない、あるいは、リーダーシップを持っている人を支えようとする人が少ないために、同じ問題が延々と続いているだけなのだ。

たとえば、日本人のサラリーマンは、管理職になるまで、チームとして成果を出すことを求められない場合が多い。
日本における人事評価では、成果主義と言いながらも、赤字部門の社員に優劣をつけると、組織の和を乱してしまうために、オブラートにあいまいに評価する時が多い。
年功序列、終身雇用制度がその風潮を助長している。

特に、大企業になるほど、社会人5年目になるまでは、優劣を付けないという暗黙の了解があるために、若い時期からリーダーシップを発揮することは求められない。
すると、30歳を過ぎてもリーダーシップの経験がない日本人がいる。

このような人は、管理職として振る舞うべき年齢になったとしても、チームや組織を回した経験がないために、管理職になりにくい。
そんな人が管理職になれば、そのメンバーはむしろ不幸になる。

そんな人は無謀にも、自分の成功体験をメンバーに押し付けたり、根性論や精神論を押し付けたりする。
課長になってから「チームをどう回すべきか」考える人、社長になってから「会社をどう経営すべきか」を考えているようでは遅すぎる。

ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術」では、このギャップを「マネジメントの断層」と呼んでいた。
ヒラの頃から、チーム運営のリーダーシップ、組織運営のリーダーシップを意識して経験しなければ、そのポジションに付けない。

チーム運営の経験が、今まで以上に、ビジネスの現場では要求されている。
SIでプロジェクトマネージャが必要とされていること、新卒募集でコミュニケーション力が要求されていること、というビジネスの事情は、リーダーシップを発揮できるリーダーを必要としている事実を示していると思う。


【3】「採用基準」には、経営コンサルタントの人材教育と言う観点から、リーダーシップに必要なスキルを明確に提示している。

・リーダーシップとは、成果を出すこと。
 リーダーシップは、努力やプロセスよりも、成果を出すことで評価される。

 日本では、社会だけでなくビジネスにおいも、成果が問われず、あいまいになっている。
 だから、リーダーシップの必要性、リーダーシップの認識すら薄い。

・目標を掲げる
 「あるべき姿」「ゴール」を提示すること。
 
 部長、取締役、社長などの人からレビューを受けると、「あるべき姿は何なのか」という質問が多くなる。
 その理由は、その解決策で問題が本当に解決されるのか、その後、どんなロードマップや理想像を持っているのか、を知りたがっている。
 更には、長期ビジョンでそこまで考えているのか、を評価しようとしている。
 この点は僕も最近痛感している。

・先頭を走る
 メンバーを奮い立たせて引っ張る能力。

・決める
 情報が不足している中で、リスクを引き受ける能力。
 「悪い決定は、何も決めないことよりも良いことだ」という格言がある。
 ベストな決断のために検討し続けるよりも、情報が少ない中で決断することには価値がある。
 「決める」ことにはいくつかの効果がある。
 
 一つは、「決める」ことで何かの問題を浮き上がらせる。
 決断で問題が噴出するのは想定内。
 決断を使うことで、逆に、問題の改善策を考える一つのきっかけを作り出す。
 この手法は、リーダーシップの意識が高い人ほど、よく使っているように思う。

・伝える
 単に、作業指示を伝えるだけではない。
 お金やモノがない中で、メンバーを奮い立たせるために必要。
 リーダーシップの意識が高い人ほど、コストのかからない言葉の威力を知っている。

【4】「採用基準」には、マッキンゼー流リーダーシップの学び方が提示されている。

・バリューを出す
 アウトプットを出すこと。
 チームに何らかの付加価値を与え、貢献すること。
 
 成果を出さないメンバーは、チームにダメージを与える。
 チームに貢献しないから、チームにとって、いてもいなくてもあまり関係ない。
 会議で発言しない人も、会議にバリューゼロの人。

・ポジションを取る

 自分の立場、意見を表明すること。
 あなたの意見は何か?
 あなたが意思決定者としたら、どう決断するのか?
 
 分析した結果よりも、結論が問われる。
 結論にフォーカスすることで、検討に必要な時間を大幅に短縮できる。
 つまり、徹底して仮説検証のスタイルなのだ。
 
 このやり方は拙速と思われる時がある。
 情報不足で曖昧な状況で、そんなに早く結論を出して決定しても、その決断した結果は正しくない、と。
 しかし、一度決めた後に、問題を噴出させ、対策を考えていくのは、新しいことを試す時の一つの手法だ。
 
 この点は、アジャイル開発に似ている。
 まずはアウトプットを出し、そのフィードバックを受けて、製品をより良いものにしていく。
 
 自分の立場を表明し、問題解決の着眼点や観点を提示し、結論に持っていく。
 この点は、コンサルタントという立場にいると、すごく分かる。

・自分の仕事のリーダーは自分
 組織の体制の一人ではなく、自分が中心となって、上司を巻き込んで解決すること。

・ホワイトボードの前に立つ
 会議の中でファシリテータの役割を担うこと。

こうして、リーダーシップを発揮するように期待される環境にいると、若手でも自然にリーダーシップが身につく。
リーダーシップは、後天的能力。
リーダシップは、場数の経験を踏めば、必ず身につく能力。

リーダーシップがメンバー全員が持つとどうなるのか?
リーダーシップ意識を全員が持つチームは、各個人の役割はメンバー自身がすぐに理解し、リーダーが指示をしなくても、自律的に動く。
チームのゴールさえメンバー全員が明確に共有すれば、そのゴールへの対策をメンバー自身が考え、調整し、動き出す。

この現象は、アジャイル開発の自律化、特にScrumにおける自己組織化に似ている。
認定スクラムマスター研修で感銘をうけたことの一つは、チーム(ここではスクラムチーム)にはプロジェクトマネージャーが不要であると言う主張だ。
メンバー自身がリーダーシップを発揮するならば、命令指揮系統がはっきりするようなチームは不要であり、むしろ妨害になる。

特に、ITプロジェクトのように、Web・アプリ・DB・インフラ・業務などの専門家からなるチームでは、個々のメンバーの能力が高いから、リーダーシップ能力を持つ人も多い。
そんなチームにはコマンドコントロールのリーダーは不要であり、メンバー全員がそれぞれの成果物を役割分担しながら作り、協調していく方が効果的。

【4】「採用基準」で面白いのは、リーダーシップ能力を持つ日本人、またはリーダーシップ能力を持たないが潜在的な能力を持っている日本人を見つけ出すのが難しい、と指摘し、その原因を分析していることだ。

・保守的な大企業で劣化していく日本人
 学生の頃は自由かつ大胆に思考できていた人が保守的な大企業で訓練を受けて、ヒエラルキーの中での立ち振舞い、自分の考えよりもヒエラルキーの枠内で思考するようになってしまうこと。
 すると、「目上の人に対し、どう振る舞うべきか」を叩きこまれるがゆえに、「上司の意見に反対しない」「立場を考えて発言すべき」と自重してしまい、ゼロベースの思考ができなくなる。
 
 また、大企業では赤字部門でずっと働いている人もいる。
 例えば、家電メーカーの赤字部門が典型的だろう。
 すると、「利益を出すこと=コスト削減すること」という常識にこだわりすぎて、ベンチャー企業や新興国でのビジネスのリーダーにはなれない。

 そんな人は、新卒の時に受けに来たら内定を出したかもしれないが、中途採用で受けたこの時点では採用は難しい、と判断される。

 この現象は、日本人の弱点だ。
 ビジネスだけでなく、学校教育、スポーツ、学術でも、「目上の人を敬うべき」という躾があるために、たとえ、目上の人の言動がおかしくても指摘できなくなる。
 また、ヒエラルキーが公的な場面だけでなく、プライベートや日常生活、議論の場にも出てしまうために、リーダーシップを発揮できるようになれない。

 「これから社会人になる人は、世界から見て周回遅れの常識やスピード感を、社会人としての基礎を作るべき最初の数年間に身につけてしまうリスクも、決して甘く見ない方がいいでしょう」という指摘は鋭い。

・東京大学の法学部よりも経済学部の学生の方がリーダーシップの潜在能力を持っている
・京都大学の学生はリアルなビジネス経験が少ないために、東京の大学生よりも劣る

 リアルなビジネスの現場を知ると、「今の自分は何者でもない」という危機感を覚え、行動が変わる。

・日本企業で成長しなくなってから転職しようとする人は決断が遅すぎる

 最初は、自分の能力の向上が感じられたのに、仕事に慣れてしまい、全力を出しきらなくても仕事できる期間が長くなると、知らないうちに保守的になる。
 大前研一氏は、35~50歳の日本人サラリーマンを「魔の15年」と呼んでいた。
 10年も同じ業界で仕事すれば、さすがに仕事の要領も分かってくる。
 そこから成長するには、管理職や経営者として働かなければ身につかないが、今はポストがないので、同じような仕事をずっと続けて、能力を腐らせてしまう、と。

【5】日本人にもリーダーシップを発揮できる人もいるが、リーダーシップを持つ人の全体数が少なすぎるために、問題解決が遅すぎる、と言われている。
だから「日本にはリーダーシップの総量が不足している」。

この事実は、おそらく最近になっていろんな形で意識され始めている。
日本を超えて世界でリーダーシップを発揮するには、英語力が必須。
今頃になって、日本でも小学校から英語を学ばせるか、百家争鳴になっている。

しかし、韓国人や中国人は、早期に英語の習得に躍起になっている。
その結果は最近すごく目立つようになっている。
たとえば、国連事務総長や世界銀行トップに、日本人よりも韓国人が就任したのはとてもすごいことだ。
たぶん、日本には、リーダーシップを発揮できる外交官や政治家が、その経済規模に比べて少なすぎるのだろう。

他にも、阪神大震災や東日本大震災のような危機でのリーダーシップ不足も身近に思い出される。

【6】では、リーダーシップはどのように身につければいいのか?
採用基準」では、リーダーシップの養成機関として、NPOでの経験をあげている。

NPOは、営利目的もなく、組織も小さい。
メンバーには、その人の社会的地位や財産、役職も関係ない。
「自分が実現したい」と思う人達が集まり、リーダーシップを発揮したいと思う人が自然にリーダーとなる。
その人は自然にリーダーシップ能力を身に付けて、自分が解決できる範囲を広げていく。
そんなリーダーを若手も見ながら、その人をロールモデルと見て、若手も成長していく。

僕は、IT勉強会が、単なる技術知識の共有の場だけでなく、リーダーシップ養成の場にもなっていると考えている。
昨今のIT勉強会ブームは凄まじい。
しかし、社外のIT勉強会に出ている人は、リーダーシップを発揮したい、リーダーシップを身につけたい、と思う人は当初はいないだろう。

実際にコミュニティ運営をするには、同志を集め、コミュニティのゴールを決め、役割分担を決めて、行動していくしかない。
コミュニティでは、大手SIにいる、とか、部長や課長である、とか、社長で財産がある、最年長である、とか全く関係ない。

逆にコミュニティの場に、会社の役職のヒエラルキーを持ち込んだり、自分の財産や他人の財産を使ってお金を用いるようにしたら、他メンバーから非難されるだろう。
コミュニティは、そんな人だけのモノではなく、メンバー全員のモノだからだ。

むしろ、メンバー自身の能力や人格が信頼されれば、そのコミュニティでリーダーシップを発揮できるようになる。
会社では役職が低く、リーダーシップを経験できない現場にいたとしても、コミュニティでは別だ。
逆に、コミュニティでリーダーシップ能力を経験することで、その能力を会社で生かすこともできる。

昨今は、ITの技術革新の場が大企業の研究所から、オープンソースに移ったこともあり、コミュニティの運営能力の比重がすごく高まっているように思える。
おそらく、その事実を暗黙的に認識している技術者が最近増えているから、昨今のIT勉強会が増えていると思っている。

実際、関東でも関西でも、ITコミュニティに顔を出し始めた人が急激に頭角を伸ばし、能力だけでなく、IT業界全般に影響力を与えるようになった事例が多くなっている。
自分の周囲でもそんな人がすぐに思いつかないだろうか?

その理由は、ITコミュニティで、自分と同レベルの技術者と研鑽しただけでなく、コミュニティ運営や、大人数の前での発表、議論などの経験を通じて、その人の人間的スキルが急激に伸びたからだろう。

僕自身は、日本人は決してリーダーシップの能力が先天的に不足しているのではなく、リーダーシップの経験値が低く、その認識がないことが原因であると思っている。
そして、ITコミュニティはリーダーシップ育成の場にもなるだろうと思う。
だからこそ、社内に閉じこもるのではなく、社外のITコミュニティへ積極的に参加すべきだと思う。

|

« 「高専生と取り組むScrum」の資料が素晴らしい | トップページ | 出版システムや文書共有システムを作った事例 »

経営・法律・ビジネス」カテゴリの記事

Agile」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「高専生と取り組むScrum」の資料が素晴らしい | トップページ | 出版システムや文書共有システムを作った事例 »