BOMのトポロジー類型~MRPとBOMの関係
「BOM/部品表入門」を読んで、BOM(部品表)には構造があり、その構造という制約によって数々の性質があると書かれていた。
BOM(部品表)のトポロジー類型についてメモ。
【参考】
工程データ・物流ルートをも統合する新世代の部品表 - TechTargetジャパン ERP
広義のBOM--その輪郭 生産マネジメント ワンポイント講義(5) BOM(部品表)
「受注生産に徹すれば利益はついてくる」の感想~ERP普及が上流工程の軽視を助長している: プログラマの思索
【1】製造業に導入されたERPの中で、MRPとBOMは生産管理の最重要な機能。
普通は、BOMという部品表を使ってMRPが所要量展開して計算して、調達すべき部品の数量と納期、発注時期を算出する。
「BOM/部品表入門」を読むと、BOMの種類によって、所要量展開の方法が微妙に異なるらしい。
例えば、BOMの構造は組み立て加工ならA型とか、素材産業ならV型とか言われるらしい。
実は、TOCで有名なゴールドラット博士が様々な製造業の現場を見て、BOMの形によって類型化できると気が付いたらしい。
そのあたりをまとめてみた。
【A型】
【業界】組立加工。機械、自動車など。
【特徴】
・他のBOMに比べて生産指示は単純。
・部品の個数が多く、部品ごとのリードタイム(発注・製造・納品等)が違うため、部品調達が大変。
・MRPで部品の見込生産の計画を作り、所要量展開を計算する方向へ発展した。
【I型】
【業界】半導体
【特徴】
・一つの素材を複雑に加工して出荷する。
・BOMの必要性が意識されない場合が多い。
・V字型の製品は1つずつ見れば、I字型になる。
【V型】
【業界】製鉄業、石油精製業、食肉加工業、家電リサイクル
【特徴】
・一つの原材料から多種多様な製品(連産品)が作られてしまう。
・ある製品だけを独立して生産できない。
・期待していない連産品の製造実績が作られてしまい、在庫が増えやすい。
【T型】
【業界】化粧品、潤滑油、プラスチック製造などの素材産業
【特徴】
・最終段階の加工で多種多様な製品が生まれる。
・最終加工で添加物や容器を変える場合が多い。
【X型】
【業界】化学、酒造業、豆腐製造など
【特徴】
・複数の原材料を化学反応させて製品を作るが、副産物(例:酒かす、おから)が必ず生まれてしまう。
・副産物は販売できる。
・副産物はBOMに材料として登録し、員数(部品の必要数量)=マイナス値、標準リードタイム=0に設定する。
→所要量展開すると、マイナスの総所要量が発生する=副産物は意図しなくても作られる。
・員数=マイナス値、総所要量=マイナス値が扱えるMRP計算システムが必要とされる。
【Q型】
【業界】製鉄、化学、ガラス
【特徴】
・製造工程の生産物の一部が現在利用としてリサイクルできる。
・BOMの形としては、リサイクルされる生産物(原材料)は再帰構造を持つ。
・リサイクルされる生産物はBOMに材料として登録し、員数(部品の必要数量)=マイナス値、標準リードタイム=0に設定する。
・多くのMRP計算システムでは、リサイクルされる製品の部品展開計算はできない。(部品が再帰構造を持つため)
【2】製造業と言えば、自動車や家電製品をイメージするが、実際はたくさんの種類がある。
たとえば、製鉄、化学、酒造業、化粧品、食品加工(!)などは、部品も違うし、製造工程もかなり違う。
特に、X型やQ型のようなBOMは、員数(部品の必要数量)=マイナス値のような値を設定するので、正直混乱する。
必要な部品の個数がマイナス値の部品とは何なのか、僕も正直理解できなかった。
でも、製造業の業務システムでは、上記のような業務知識や設計思想は正直知らなくても、実際の現場は回っている。
その理由は「受注生産に徹すれば利益はついてくる」にも書かれている通り、ERPがほぼすべての大企業に導入された結果、パッケージ製品の標準機能だけでほとんどの業務がIT化できたために、上流工程の知識がなくても製品の機能比較(フィットギャップ分析)だけで導入できるようになってしまったから。
その結果、ユーザ企業の情報システム部門では、上流工程で設計できるメンバーが必要とされなくなり、技術力も設計力もすごく落ちている会社が非常に多いと思う。
今後も、ERPが主流であり続ける限り、上流工程の業務知識が軽視される傾向は続くだろうと思う。
ERPが業務の複雑な内容をブラックボックス化してしまったから。
とはいえ、ゴールドラット博士が生み出した部品表のトポロジー類型とその制約から発生する機能要件は、重要な話だと思っている。
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