「電子立国は、なぜ凋落したか」の感想~日本の技術者は減価償却のコスト意識が低い
「電子立国は、なぜ凋落したか」の感想をメモ。
理解できた部分だけラフなメモ書き。
あくまでもメモなので、時々論理は飛んでいる。
【元ネタ】
日本の製造業もアジャイルの概念が必要ではないか: プログラマの思索
【1】「電子立国は、なぜ凋落したか」では、特に日本における半導体、電子電気の業界の栄枯盛衰を多角的に記載している。
そこで興味深い文言だけ拾っておく。
「日本の技術者は減価償却のコスト意識が低い。なぜなら、技術ではなく経営の問題だから。」
【2】日本の技術者は減価償却のコスト意識が低いのではないか
日本の半導体は世界を席巻していたが、諸外国に負けた時の言い分は「経営、戦略、コスト競争力で負けた」「技術では負けていなかった」とよく言う。
しかし、著者は、製造コストを考える時に、日本の技術者は減価償却のコスト意識が低いのではないか、という鋭い指摘をしている。
著者いわく。
日本人技術者は、ランニングコスト(変動費)は強く意識している。
ランニングコストは歩溜まり向上のように、品質管理を強化すれば、技術力でカバーできる。
しかし、資本コスト(固定費)は技術の問題ではない。
どこに設備投資すべきか、という判断は、経営の問題だ。
選択の問題であり、技術の問題ではない。
著者いわく。
日本の半導体技術者は歩溜まり向上に熱心だ。
しかし、減価償却コストを勘定に入れると、歩溜まりを下げてでもスループット(単位時間当たりの処理量)を上げた方がトータルコストが安くなる場合もある。
そういう方向へ技術を用いることなく、やみくもに歩溜まりを上げようとする。
「コストを無視して高い品質を追求する姿勢が日本に醸成されている」。
例えば、韓国メーカーは、新しく半導体工場を立ち上げる時、建屋ができると掃除もろくにせず、すぐに装置の搬入を始めて、すぐにクリーンルームをフル稼働し、高価なフィルターを使い捨てにしながら、一刻も早く製品を出荷しようとする。
投下資本が寝ている時間を短くするためだ。
つまり、サンクコストをできるだけ最小化しようとする。
逆に、日本メーカーは、綺麗に清掃した工場に、装置をしずしずと搬入し、ゆっくりと慣らし運転しながら、テストウェハーを流し始める、と言う。
韓国や台湾のメーカは、装置のスループットと稼働率を何よりも重視しているというのに。
「5年以上も壊れない機器は遅れた技術思想の産物ではないか」と。
「ムーアの法則がニヒリズムをもたらしている」と。
つまり、減価償却を軽視し、ランニングコスト重視の開発スタイルは、過剰品質を生み出す。
一方、減価償却を重視する開発スタイルは、品質よりもスループットを重視する。
【2-1】この話は、日本の製造業に限らず、日本人ではよくありがちだ。
現場の人は変動費しか制御できないから、固定費のことまで考慮してない。
だから、いかにランニングコストを下げるために品質強化するか、という局所最適化された行動しか考えてない。
一方、TOCなら、スループットやボトルネックという考え方で、遊休資産を遊ばせないようにスループット向上が重要と言っている。
アジャイル開発なら、1回しかリリースしないWF型開発とは違って、小規模リリースという考え方で、短期間に小刻みにリリースして、製品という価値を提供していく。
これらの概念が欠けているのではないか?
そして、これらの概念を実現するには、技術ではなく経営や選択の問題である、と認識する必要があるからではないか。
【2-2】僕は製造業は知らないが、ユーザ企業が業務システムを導入する場合、ROIを費用対効果の計画から計算して、固定費とランニングコストが将来的にどうなるか、をすごくうるさく言ってくるのは知っている。
少なくとも、彼らは、ソフトウェアライセンスや初期構築費用、オンプレミスのサーバー構築費という固定費はすごく気にしている。
また、その後の運用保守やサービス利用料、ライセンス保守がどれくらいかかるのか、をすごく気にしている。
だから、日本のユーザ企業は、業務システムの減価償却のコスト意識が低いとはあまり思っていない。
でも、違和感があるのは、業務システムは最低10年使うと仮定して費用対効果の計画を作っている部分だ。
10年も経てば、サーバーのOSもVerUpやセキュリティパッチが提供されなくなるだろう。
すると、WindowsXP廃棄対応の特需のように、OSの入れ替えという不毛なリプレース作業が必ず発生し、多大なコストと工数が浪費される。
また、10年も経てば、肝心のフレームワークも古くなっており、保守性も移植性も、使い勝手も時代遅れになっているだろう。
つまり、業務システムを10年以上使い続けるという仮定が間違っているのではないか。
そうなると、減価償却はできるだけ早く終わらせた方がいい。
つまり、早くリリースして、いち早く使って、減価償却のコストを落とした方がいい。
最近のクラウドの技術発展は、減価償却を不要にし、全てを変動費化するという一面も持っている。
だから、TOCやアジャイル開発とクラウドは相性がいいのではないか。
【3】ファブレスとファウンドリの分業体制
半導体工場を持たないファブレスの設計会社、半導体製造サービスに特化したファウンドリによる分業体制が最近の傾向らしい。
ファブレスとは 【 fabless 】 - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典
ファウンドリとは 【 foundry 】 〔 ファウンドリー 〕 - 意味/解説/説明/定義 : IT用語辞典
著者いわく。
日本の半導体業界だけでなく、製造業もファブレス化している。
例えば、NEC、ルネサス、富士通、パナソニック、ソニーなど。
いずれも、2005年頃から半導体製造部門を縮小売却し、ファウンドリへの依存を進めた。
しかし、設計と製造の統合にこだわり業績を悪化させ、経営が傾き、設計部門も縮小せざるを得なくなっている。
2013年には、大量の半導体技術者が転職を余儀なくされているらしい。
しかし、日本の製造業は製造というものづくりに強いはずだ。
なぜ、製造に強いのに、半導体製造のファウンドリになろうとしないのか?
分業を嫌った理由に減価償却コストへの意識の低さがあるのではないか、と。
日本企業は設計と製造の垂直統合に固執していたからではないか、と。
実際は、設備投資の減価償却が半導体製造の最大のコストになっている、にもかかわらず。
「電子立国は、なぜ凋落したか」では、日本の半導体業界で、ファウンドリになろうとしなかった理由がはっきり書かれていない。
でも、勝手に推測すると、ファウンドリは下請けに過ぎない、という発想があったのだろうと思う。
ファブレスなら、発注者だから偉そうにできる、という発想があったのではないか。
【3-1】日本に半導体製造のファウンドリがないために、日本の半導体業界には大きな欠点ができた、と著者は言う。
身近な場所に、手頃なファウンドリがあれば、安心して半導体のファブレス・ベンチャーを起業できる。
ファウンドリは、半導体ベンチャーにとって、大切なインフラストラクチャなのだ。
しかし、日本にはこのインフラストラクチャすら作れなかった。
日本企業は、半導体の設計と製造の垂直統合に固執して、ファウンドリを作れず、半導体ベンチャーの育成の場もなくしてしまった、と。
【3-2】ファウンドリは半導体製造装置会社との連携で、製造技術でも最先端になった、と著者は言う。
製造装置は高価であり、償却サイクルも速い。
すると、ファウンドリは、最新鋭の製造装置を仕入れて、装置の稼働率を高めて、減価償却を早く進める。
償却が速い分、新装置も先に買えるメリットも出る。
そして、ファウンドリは製造装置会社とノウハウを共有して、どんどん技術改良していく。
つまり、半導体製造の技術開発の場が、統合メーカーからファウンドリと装置メーカーに移ることを意味する。
製造技術の技術革新の覇権が、統合メーカーからファウンドリと装置メーカーに移ったわけだ。
設計と製造の統合を重視する日本メーカーは、ファウンドリを見下す姿勢を続けているうちに、ファウンドリに製造技術で追い越され、自らファウンドリになることもできなくなった、と。
さらに、大手ファウンドリは、設計と製造のインターフェイスも公開している。
インターフェイスを公開することで、なるべく多くの設計会社から製造を受注したい意図があるからだ。
すると、たくさんのファブレス会社が特定ファウンドリのインターフェイスに従って設計するようになり、そのインターフェイスが事実上の業界標準になる。
提案したインターフェイスがデファクトスタンダードになったファウンドリには、顧客が集中し、装置の稼働率が上がり、装置の減価償却も進む。
そうなれば最新の製造装置も買えるようになり、ファウンドリの製造技術はどんどん進歩していく。
したがって、ファウンドリにはネットワーク外部性による独占の可能性がある。
つまり、昔のインテル+Windowsのようなデファクトスタンダードができあがるわけだ。
逆に、半導体の設計と製造の垂直統合を目指した日本企業の技術は、他のファブレスやファウンドリでは使えない。
特定の会社の技術に過ぎず、ガラパゴス化してしまい、デファクトスタンダードから追いやられてしまっている現実がある。
【4】「電子立国は、なぜ凋落したか」で興味深いのは「日本の技術者は減価償却のコスト意識が低いのではないか」という指摘だ。
現代は、半導体だけでなく、家という資産、車という資産、オンプレミスの業務システムという資産、のように、何かを資産として保持するリスクの方が高い。
モノという資産はすぐに陳腐化する。
買った瞬間に資産の価値は基本は半減する。
例えば、ソフトウェア開発で使われるPCは、昔は資産として計上していたが、最近はリース資産か消耗品という費用で計上する所が多いはずだ。
なぜなら、5年も経てば、そのPCのスペックもOSも使い物にならなくなるからだ。
さらに、資産として持つと、機密データの抹消、PCというハードを捨てる費用など無駄な作業やコストまで発生してしまう。
しかし、古いSIでは、PCを未だに資産として持っている所もある。
部課長が一番最新のノートPCを持っていて、実際にプログラミングをしている協力会社の社員がお古のデスクトップPCを使って、重たい開発環境でデバッグに難儀している場面を見る時がある。
彼らには、そんな環境がソフトウェア開発者の生産性をいかに落としているか、という観点が欠けている。
だから、減価償却というコスト意識をもっと持った方がいい。
減価償却しながら利益を出すには、資産として購入した直後から、アウトプットを出して売上を上げることを考えるべきだ。
たぶん、TOCのスループット会計の考え方が、この部分にはとてもよく適用できるだろうと思っている。
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