第43回IT勉強宴会「生産管理再入門-MRPを超えて」の感想~在庫監視推移方式はTOCの発想に似ている
第43回IT勉強宴会「生産管理再入門-MRPを超えて」の感想をメモ。
在庫監視推移方式はTOCの発想に似ているなあ、と初めて理解した。
以下、渡辺さん他の講演者の話をメモしながら、自分の考えもメモ。
ラフなメモ書き。
【参考】
生産管理再入門-MRPを超えて <第43回IT勉強宴会> : ATND
僕が理解した範囲で、在庫監視推移方式の方式設計・生産工程の設計・組織体制の内容をまとめてみた。
【1】MRPと在庫監視推移方式の方式設計の違い
【1-1】渡辺さんいわく。
生産管理にMRPを導入して成功している日本の製造業は少ないのではないか。
MRPは、部品表や工程情報、販売情報を元に、計画を立てた後に一気に受払(入出庫)や在庫推移、勧告オーダーを作成する。
だから、夜間バッチを行なっても朝になっても終わらない、ということがよくあった。
しかも、勧告オーダーが曲者。
MRPはご丁寧に、在庫推移がこういう状態になるから発注量と発注日はこうしたらいい、と勧告してくれるが、需要変動や工場のトラブルなどで、すぐに使えなくなる。
MRPのような計画主導のシステムは、融通が効かないので、実際の現場では正直使えない。
しかし、日本の現場を見てみると、彼らは販売計画を元にMRPを何度も実施しては、在庫推移の情報を出力している。
その理由は、在庫推移の情報を見て、人間が判断して、入出庫や発注の量を制御するように指示しているからだ。
つまり、MRPは在庫推移のシミュレーションを出力する用途に使い、最終的には人間の判断で発注や生産指示を出すようにしているのが分かった、と。
だから、その発想を生かして、MRPではなく在庫監視推移方式を編み出した、と。
【1-2】では、MRPと在庫監視推移方式では、どのように方式設計が違うのか。
MRPは、所要量の計算から勧告オーダーまで、一つのトランザクションとしてバッチ処理で行う。
つまり、最後の処理が終了するまで、処理が続くので、すごく時間がかかる。
すなわち、方式設計の問題は、トランザクションをどこで分割すべきか、という問題に置き換えられる。
在庫監視推移方式では、所要量の計算+受払予定の計算と、在庫推移の再計算の二つでトランザクションを分ける。
つまり、受払い予定の計算の結果を元に、人間が判断して、Inputの情報を入れ直して、在庫推移の再計算の実行を人間が指示する。
この方式設計に至った理由は、現場の人がMRPを在庫推移のシミュレーションのために使っている風景を元に、日本風にアレンジした結果である、と。
このやり方は、なるほどと思う。
トランザクションスコープと実際の運用フローが対応するように、バッチ処理を再設計したわけだ。
【2】在庫監視推移方式に至るまでの在庫管理の制約条件
実際に在庫監視推移方式を実現している某製造業の中の人いわく。
制約条件としては下記がある。
・受注を元に生産しているので受注生産。
製番管理もしている。
・MTS(Make To Stock)として、製品(完成品)を在庫として持つ
・製造は内製指向。国内の工場で作っている。
だから、固定費が高い。
また、工場の工程能力、工程負荷に在庫量がすごく関係する。
・需要の季節変動が大きい
夏場はすごく売れるが、他の季節はそれほどでもない。
上記のような前提条件を見ると、受注生産と言いながらも、マーケットや顧客の要望がすごく我がままなために、生産にすごく苦労していることが伺われる。
「在庫は悪」と言われるが、売りたい時に製品がなければ販売機会を失って、売上を確保できない。
つまり、最低限の在庫は必須。
全ての在庫が悪者ではない。
必要な時に必要なだけの在庫を持っておき、売上を確保できるような生産工程の仕組みが必要になってくるわけだ。
特に昨今は、生産量の変動が大きいので、この辺りの調整が難しいのだろうと思う。
たとえば、iPhoneやiPad、AppleWatchのように、特定の期間に爆発的に販売しないといけない製品や部品を製造するメーカーは、すごく大変なはずだ。
【3】在庫・出荷・操業度の推移
中の人いわく。
製造の戦略としては、二つある。
一つは、操業度はあまり変動させない。
これには理由がある。
工場が2交替制で昼と夜の両方で作業者に働いてもらうために、人件費がかかる。
受注量が減ったからと言って、作業者をクビにしたり、労働期間を短くすることは、今の日本の法律では難しい所があるからだ。
また、国内に工場を持っているために、固定費が高い。
したがって、工場の操業度を最低限確保して、常に売上を確保するようにしなければ、赤字になりやすい。
もう一つは、閑散期に製品在庫を持って繁忙期に備える。
出荷量は繁忙期と閑散期で変動が大きいからだ。
だから、在庫をいつどれだけ保持すべきか、という生産計画がすごく重要になってくる。
無駄に在庫を持てば、倉庫の費用など無駄な費用が発生するが、かと言って、繁忙期に生産量を大幅に増やすのは難しい。
たとえば、2交替制を3交替制にすると、勤務する作業者のチームは4チームから6チームに増えて、その分人件費などが売上以上に膨れ上がる時もある。
つまり、繁忙期に生産量を一気に増やせない事情もあるのだ。
【4】生産工程の設計
生産工程の戦略としては、下記がある。
①ボトルネック工程(生産能力が最低)を故意に作る
②ボトルネック工程は、最初の工程1に作る
(工程1がフル稼働。工程2以後は流すだけ。)
③ボトルネック工程の操業度を計測すれば、製品在庫量を制御できる
ようにKPIを設定しておく
(在庫∝ボトルネック工程の操業度∝ボトルネック工程の生産能力)
つまり、ボトルネックの工程を故意に作るのがポイント。
これは、TOCの発想と同じだ。
ボトルネックとなる工程が、時系列で移動しないように、必ず固定させて、そのボトルネック工程さえ監視しておけば、必要な生産量を確保できるような仕組みにしておく。
すなわち、ボトルネック工程があるからこそ、生産工程を完全にコントロールできるわけだ。
【5】在庫監視推移方式を実現する組織体制
中の人いわく。
基本は、需給管理センターみたいな需要と供給を調整する部署があり、受注担当者と生産計画担当者が協働で生産計画を作り、工場に生産指示を出す。
受注担当者は20名と多く、有期契約労働者が担当する。
生産計画担当者は数名で、工場で働いた経験のある人が担当する。
そして、センター内部では、受注担当者の精算指示を生産計画担当者がチェックして、工場の操業度や工程負荷を見ながら、工場の現場に見合った生産指示に変更する。
在庫管理担当者を組織に持つというよりも、生産計画の部門が担当して実施しているのが参考になる。
【6】在庫監視推移方式のまとめ
【6-1】在庫監視推移方式はMRPを使わず、人間系の運用でフォローする。
日本では、MRPを何度も回して在庫推移の結果を見たがる風景が多い。
そこで、MRPの勧告オーダーは使わず、人間が判断して発注する方針で在庫監視推移方式が生まれた。
【6-2】工場の操業度を保つ方が在庫を持つよりも重要。
内製指向で固定費(人件費・高価な機械)がかかるので、まず売上確保しなければならないから。
【6-3】故意にボトルネックの工程を唯一つに持たせる。
TOCと同じ発想だ。
ボトルネックの工程の操業度を見ながら、生産指示して製品在庫を持つようにする。
在庫監視推移方式で、発注する品目の数量を調整するわけだ。
つまり、「在庫∝ボトルネック工程の操業度∝ボトルネック工程の生産能力」という関係があるのがミソ。
佐野さんに聞くと、プロセス系(例:焼く・印刷するetc.)はボトルネックの工程を作りやすいらしい。
逆に、組み立て系(例:家電製品、自動車)はボトルネック工程を作りにくいのでは、と。
【6-3】組織体制を在庫監視推移方式に合わせるのが重要。
受注担当者と生産計画担当者が協働して、発注・生産計画を作る。
工場は生産指示を受けて、操業度の変動なしで働く。
だから、営業は顧客から早めに受注の内示や生産計画をもらうように動く。
実は、需要変動が大きいので、顧客も早めに発注量を提示してくれる事情もあるらしい。
【6-4】在庫監視推移方式は中小企業でしか使われないのではないか、という僕の質問に対し、中の人いわく。
日本の現場ではMRPはまともに使われている所はほとんどない。
むしろ、MRPを在庫監視推移方式みたいに使ったり、MRPそのものを使わずに、在庫監視推移方式を手作りで作っている所が多いのではないか、と。
システムに計算させて、現実に合わない勧告オーダーが出されるよりも、人間が判断して調整する方が速いし、精度も高い。
こんな事情を聞くと、日本人特有のすり合わせ技術、阿吽の呼吸でやる方が効率的、ということなのだろう。
すごく勉強になった。
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