ISO9001を帳票ワークフローシステムと見なしてRedmineで運用してみるアイデア
ISO9001を帳票ワークフローシステムと見なしてRedmineで運用してみるアイデアをラフなメモ書き。
【参考】
ワークフローを利用したQMS(品質マネジメントシステム)の効果性・効率性の改善
概要 | ISO 9001(品質) | ISO認証 | 日本品質保証機構(JQA)
ISO9001のメリット・デメリットとは? | ISO取得で成功する。
【1】製造業なら、どこの会社でもISO9001は導入していて、何らかのQMS(品質マネジメントシステム)が稼働しているだろう。
「ウチは品質管理をきちんとやってます」と標榜するには、客観的な資格みたいなものが必要で、それが世界標準ルールであるISO9001だからだ。
昔の日本の製造業では、手作りで自分たちの品質管理の手順を標準化しており、日本製品の品質向上に一役買っていた。
しかし、ISO9001は1990年代頃から普及し始めて、どこのメーカーもISO9001の取得に躍起になったが、逆に品質管理そのものが悪くなったのではないか、とよく言われる。
どのメーカーの人に聞いても、ISO9001の評判は良くない。
あれは、日本の品質管理を潰すために外国から持ち込まれた黒船みたいなものだ、と聞いたこともある。
なぜISO9001の評判が悪いかというと、間接作業の負荷が高すぎるからだ。
ISO9001監査の季節になると、品質部門だけでなく、監査対象の事業部門も残業や休日出勤が多くなる。
ISO9001では、「是正処置や予防処置がきちんと行われているか」、その証拠を全部記録しなければならないし、その記録をいつでもすぐに取り出せなければならない。
すると、少しでも漏れや紛失がある書類があれば、修正や再作成が必要になるし、全ての書類を最初から最後までチェックし直すのは大変だからだ。
たとえば、ISO9001の監査を通すために、会社の人員の2割以上を使ってやっている所もあるらしい。
たとえば、従業員300人の中小製造業なら、約60人もISO監査に何らかの形で携わって作業しているわけだ。
しかし、ISO9001の監査が通ったからといって、すぐに売上が上がるわけでもないから、無駄な人件費が多くなるだけ。
しかも、製造業のコンサルタントのほとんどは、ISO審査に関係する人が多い。
つまり、製造業の生産部門で実務に携わっている人でも、管理職や役職に上がって現場から離れていくと、ISO審査のような間接作業に力を入れたり、そのノウハウを売ることで、生活していくようになるのだろうと推測する。
ISO審査は製造業にとって嫌なものみたいらしいが、それ無しで業務を回すのも現状は無理らしい。
【2】ISO9001の本来の目的は、品質管理をきちんと行うことだが、実情は、品質管理に関する全ての作業を記録に残し、その記録媒体の品質の維持にかなりのパワーを注力している。
すると、以前ならば、バインダーに挟まった大量の紙媒体で管理するか、大量のExcel帳票で管理するか、の双方で実現しているだろう。
だから、何がどこにあるか、すぐに分からなくなるし、その維持も大変だ。
また、その維持の仕組みは、QMS(品質マネジメントシステム)として会社ごとに作られて運用する方針になっている。
その考え方は、ちょうど、CMMIやPMBOKが汎用的な考え方を定めているだけであり、各企業は実装プロセスを実現してカスタマイズして運用しなさい、と言っている方向性と同じ。
そう、ISO9001は方針や考え方だけ言っているだけであり、その実現方法は何も言っていないので、上手く回すにはかなりのノウハウが必要なのだ。
そのノウハウを知らないメーカーはどこも苦労している。
【3】では、問題の本質はどこにあるのか?
資料「ワークフローを利用したQMS(品質マネジメントシステム)の効果性・効率性の改善」を参考にすると、いくつかのヒントが得られる。
(引用開始・一部編集)
【問題】
「仕事は文書で行う」「結果を記録に残す」という部分がうまくいかずに紙の量の増大、
それにともなう仕事量の増大と仕事の遅れを招いて、実質的な品質向上やサービス向上に結びついていない。
【解決の方向性】
ワークフロー(業務を情報技術を用いて行うこと、帳票をパソコンネットでまわすこと)を利用してQMSの活動を行う。
【効果】
1.QMS活動をスピーディにまわすことによりシステム個々の活動が速く確実に行える。
また、システム向上サイクル(PDCAサイクル)のスピードアップができる。
2.記録を電子データとして一元管理することにより情報即時共有化と情報分析支援を容易にし、従業員の能力向上、顧客サービス向上に結びつく。
3.ワークフロー導入時に、もう一度業務の見直しが行われるので業務改善ができる。
【問題の本質】
このような企業の抱える問題点は、ワークフローを用いることにより、ほとんど解決してしまうのである。
ワークフローの世界では帳票がフローに従って瞬時にネットワーク上を流れる。
記録は社内の 1 箇所(メインサーバー)で持てば、社内のどこからでも、あらゆる角度から即時に検索でき利用できるのである。
(引用終了)
つまり、ISO9001の仕組みを実現するQMSを帳票ワークフローシステムと同じであると見なして、ワークフローをきちんと回して改善すれば良い、という方針らしい。
このアイデアをRedmineで実現してみると、Redmineではどこまで解決できるのか?
【4】QMSの業務を洗い出して、Redmineの機能とフィットギャップ分析ができたと仮定しよう。
すると、おそらく「是正処置」「予防処置」のようなトラッカーが作られて、「不適合品発生」「暫定対応」「根本問題抽出」「是正対策完了」「是正指示」「実施」「検証」「承認」「完了」などのステータスが作られるだろう。
そして、サポートデスク・対応者・検証者・承認者などのロールも作られるだろう。
Redmineでは、ロール毎のワークフロー制御をかなり複雑に設定できるので、たぶんうまくマッピングできるだろう。
つまり、RedmineでQMSワークフローを実現することで、一連の作業は可視化される。
すなわち、その作業ステータスや担当者をすぐに判別できるようになり、その進捗状況を管理すればいい。
また、必要な帳票は、Excel媒体をチケットに添付してもいいし、構成管理ツールで履歴管理してもいい。
その場合、チケットと帳票は必ず相互リンクするように運用したらいい。
そうすれば、監査対象となったインシデントに対し、チケットにある作業履歴や帳票を元に、監査報告が簡単にできるようになるだろう。
そして、帳票の入力項目はチケットのカスタムフィールドで実現してもよい。
たとえば、JAXAのRedmine運用の報告書でも「回答期間」「問合せ先」「ISO9001項番」などの項目がチケットに追加されている。
そもそも、品質管理システムとは、実質上、バグ管理システムとほとんど同じ機能だ。
だから、Redmineでなくても、普通の障害管理システム(BTS)をカスタマイズすれば運用できるはず。
実際、少し先進的な製造業は、自前のWebシステムで作って既に運用している。
しかし、技術のキャッチアップや運用の改善に自前のWebシステムが付いていけずに、システム保守にコストがかさんで大変になっている所が多いのではないか?
一方、Redmineは先進的なオープンソースのプロジェクト管理ツールであり、汎用的な帳票ワークフローシステムでもある。
頻繁なVerUpで機能改善も多く、ユーザ数も多く、ネット上の情報も多いので、色んなやり方を試せる利点がある。
【5】では、RedmineでQMSを回す時の課題は何か?
本当に、RedmineでQMSの問題は全て解決できるのか?
いくつか考えられる。
一つ目は、QMSの品質が改善されたという指標は何で見ればよいのか?
資料「ワークフローを利用したQMS(品質マネジメントシステム)の効果性・効率性の改善」では、下記の記載がある。
(引用開始)
ワークフローは“リードタイムの短縮”という点で企業の大きな武器になる。
そして、今回の事例では、QMS個々の業務リードタイムの短縮が事業業績の結果であるクレーム低減や受注獲得に結びついた。
それだけ、“リードタイム”は大切なのである。
(引用終了)
つまり、改善されたという評価指標はリードタイムやサイクルタイムになる。
製造業におけるリードタイムの短縮とは、見積り問合せ~納期回答のリードタイム短縮、受注~出荷までの製造リードタイム短縮のことなので、顧客満足やコスト削減に直結する重要な指標だ。
資料「ワークフローを利用したQMS(品質マネジメントシステム)の効果性・効率性の改善」では、下記の記載がある。
(引用開始)
作業 改善前 改善後 短縮効果
不適合品発生~是正指示 12日 1日 11日
是正指示~完了 53日 31日 22日
(引用終了)
チケット管理システムではリードタイムやサイクルタイムはどのように定義されるか?
たぶん下記で定義できる。
各チケットのリードタイム=チケットの登録日(≠開始日)~チケットの完了日(≠期日)までの日数
平均リードタイム=sum(各チケットのリードタイム)/完了チケット数
各チケットのサイクルタイム=前ステータスの更新日~後ステータスの更新日までの日数
平均サイクルタイムsum(各チケットのサイクルタイム)/後ステータス更新済みのチケット数
これらの指標を定期的に採取するような仕組みをRedmineの追加機能または外部スクリプトで作成すればいい。
REST APIを使えばすぐに実装可能のはずだ。
これらの指標を時系列にプロットし、リードタイムやサイクルタイムが短縮されるようになれば、今の運用ルールで改善できたことになるだろう。
すると、ある程度までは短縮できるが、それ以上の短縮は難しいという限界地点にたどり着くだろうと思う。
2つ目は、トレーサビリティは、No Ticket No Commitの運用で本当にカバーできるのか?
従来のExcel媒体を全てWeb化できればよいが、エビデンスや画像ファイルはどうしても残る。
また、チケットと相互リンクさせる運用は、各利用者への教育や指導がかなり必要になるだろう。
ITリテラシーが低い人には敷居が高いかもしれない。
三つ目は、監査に必要な資料や情報を即座に検索できるのか?
Excel帳票やチケットに全ての情報が記載されたとしても、即座に必要な情報を検索できるか?
Redmineの検索機能の改善はチケット管理システムにとって重要な要件だ: プログラマの思索
Redmineでは、添付ファイルまで全文検索できない。
共有ファイルサーバー上のOffice書類を全文検索できる仕組みが必要になるだろう。
Alfrescoのような別のOSS製品と組合せる必要があるかもしれない。
公演資料公開!「Redmine(課題管理)とAlfresco(文書管理)の連携で、プロジェクトマネジメントを改善することができました」 | Alfresco | oss-comcre
プロジェクト管理を本質から変えるRedmine×Alfresco、オープンソース夢の連携 4-1 | Alfresco | oss-comcre
また、Redmineの全文検索機能は、チケットが20万件以上になると使いにくくなる現状がある。
但し、下記のプラグインを導入すれば、その問題も解決できるだろう。
Redmineで高速に全文検索する方法 - ククログ(2016-04-11)
Redmineの全文検索を高速化するプラグインfull_text_searchのリンク: プログラマの思索
おそらく、Redmineそのものの機能改善というよりも、Redmineの外部に必要な別システムを作り、それと連携する方が良いのではないかと思ったりする。
【6】ISO9001を帳票ワークフローシステムと見なしてRedmineで運用してみるアイデアを色々考えてみたけれど、もう少し深くフィットギャップ分析すれば、かなり良いレベルまで実現できるだろうと思う。
課題もいくつか出てくるだろうが、RedmineがOSSでRailsで作られているがゆえに、カスタマイズもしやすいし、その改善ノウハウも得やすいし、Redmineの外部接続I/Fが豊富なおかげで外部システムと連携させることも簡単であるから、かなり解決できるだろうという感触を持っている。
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