日本の品質管理がISO9001やシックスシグマに変わっていった歴史
最近、日本の製造業の品質管理に興味を持って、色々あさっている。
「TQM品質管理入門」を読んだら、日本の品質管理がISO9001やシックスシグマに変わっていった経緯が書かれていて分かりやすかった。
以下、自分の理解でラフなメモ書き。
メモなのでロジカルでない。
【参考1】
今、あらためて、日本自動車産業の「ものづくり」について考えよう | 住商アビーム自動車総合研究所 自動車業界コンサルティング
(引用開始)
日本型ものづくりの基礎に貢献したのはW・エドワード・デミング博士だろう。
彼は統計学者として戦後初の1951年国勢調査計画立案に携わる傍ら、品質管理技術の専門家として日本科学技術連盟の招待を受け、日本の製造業経営者に対し統合的品質経営(TQM)を説いて歩いた。こうして日本のものづくりは体系化され、力を付けた。
1980年代、日本の製造業、特に自動車産業が勢いを増す中、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)が中心となり、日本の自動車産業における生産方式を研究し、その成果を再体系化・一般化し、「リーン(=痩せぎす)生産方式」(LPS)と命名した。その後、LPSの概念は欧米製造業に浸透し、ゆくゆくは日本本国に逆輸入された。
1990年代末、日本にてバブル経済、金融不況と苦境が続いた後、再度、自動車産業を中心に日本の製造業が徐々に復活を見せた。この時、日本は、単なる製造を超えた日本古来に由来する日本の強みと伝統の象徴とすべく「ものづくり」と命名し、「ジャパンブランド」の一つの軸に位置付けた。
斯様な歴史を経て、「ものづくり」の概念は今日に至ったが、特にリーマンショック以降、それを取り巻く環境諸般が著しく変化する中、またもや、大きな転機に差し掛かっているものと考える。
リーマンショック前後より電機関連領域における日本の製造業の地盤沈下が起こった。
続いて2010年以降、自動車産業においても大規模なリコールが発生し元来の「品質神話」に疑問符が付いた。
更に昨今では、消費者の「モノ離れ」とか、「モノからコトへ」とまで言われる。「モノ=所有文化=時代遅れ」という感じすらある。
一方で、欧米では、IoTとか、インダストリー4.0とか新しい概念が生まれ、GEをはじめ「製造業の復活」と言われている。
こうした一連を見るに、「『ものづくり』とは一体何だろう」と改めて問題提起をし、皆様と一緒に考える契機を作りたい。(後略)
(引用終了)
【1】引用元のURLを忘れたが、下記のような解説があった。
(引用開始)
品質管理のさまざまな新しい方法の開発によって、統計学は大量生産時代の必須の技術として定着していきます。第二次大戦後の日本の品質向上は、米国ではミラクルと考えられた時期がありますが、1980年代のMITのレポートでは、日本の産業界が統計的方法を活用していることを一つの原因としています。
これについては、デミングが1950年に日本で行った講義以来、石川馨(特性要因図)、田口玄一(ロバストパラメータ設計)、赤尾洋二(品質機能展開)、狩野紀昭(狩野モデル)といった新たな管理技術を開発した日本の先生方の貢献が大ということができるでしょう。
(引用終了)
(引用開始)
品質管理は管理図に始まり、管理図に終わる
(引用終了)
つまり、製造業の品質管理は、大量生産する時に製品の品質のバラつきをなくすために、管理図や特性要因図などのQC7つ道具を編み出し、それら技法を洗練させてきたのだ。
品質管理の技法の背後には、統計学、特に検定や回帰分析の理論がある。
だから、品質管理の技法は、統計学の理論がバックにあるので、廃れないし、理論的に強固なのだと思う。
そして、日本の「品質管理の総本山」は「日科技連」。
高校生の頃に日科技連の数学の本を読んだら、普通の数学と違うなあ、と思っていたが、その理由は、僕が統計学を知らなかったので、違和感があったのだろうと思う。
しかし、今ではこういう製造業の品質管理の技法が普及しているとはあまり思えないのは何故だろうか?
【2】「TQM品質管理入門」を読んだら、日本の品質管理がISO9001やシックスシグマに変わっていった経緯が書かれていた。
どうやら1980年代のアメリカで、日本の製造業の品質管理を徹底的に研究し、アメリカ独自の理論に発展させていったみたい。
それが、シックスシグマらしい。
「TQM品質管理入門」を読むと、アメリカのシックスシグマと日本のTQMの違いは、アメリカはトップダウンによる標準化であり、日本はボトムアップによる教育。
たとえば、品質管理の技術者をグリーンベルト~ブラックベルトのようにレベル分けする点は、CMMIに似ている。
「特性要因図の目的の一つは教育」と言われるように、日本企業ではOJTによる社員教育を重視してきたが、昨今の成果主義制度のために、OJTが機能しなくなっているように思える。
最近、職場で「OJT」が機能しないのはなぜなのか?(中原淳) - 個人 - Yahoo!ニュース
もう一つの流れはISO9000シリーズ。
品質管理をきちんとやっています、という国際的な免許が公開され、グローバルスタンダードになってしまったために、日本の製造業も取得せざるを得なくなった。
ISO9001の中身はTQMと同じだが、日本企業では、ISO9001の維持のために膨大な管理人員が割かれているデメリットが大きいのではないか。
【3】一方、欧米では、日本の製造業の品質管理を徹底的に研究し、シックスシグマやISO9000シリーズを生み出しただけでなく、ソフトウェア開発においても「アジャイル開発」という概念を編み出した。
アジャイル開発の源流には、日本の製造業の品質管理があると聞くが、その理由が知りたくて、今も品質管理の文献をあさっている。
個人的には、製造業の発想とソフトウェア開発の発想は全く違うと思っているので、どうしてもそれが密接に関連しているという理由が腑に落ちないからだ。
欧米人がどのように文脈を変えてきたのか、という観点で今も読んでいる。
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コメント
この記事、感銘は受けたのですが、バスの中で読んだので感想書くの忘れていました
ソフトウェア品質を上げるために、他業界のプロジェクト管理や品質保証について学ぶ必要があると考えていた時期がありました(今も思っています)
それもありPMPを取得しました
知りたいと思っていた業界は工場と建築、土木でした
いまなら、編集や宣伝などサービス業も視野にいれたほうがいいのかもしれません
繰り返し生産ならシックスシグマで管理(把握)すればよい
ただ、それは狭義の品質で顧客要件の確保(顧客満足)には行きつかない
それで、ISOやQMSなのでしょうが、、、役不足
ソフトウェア品質向上はプロセス監視(トレース)だと思っているのですが
それだとモニタリングしている人の腕だったり組織のスキームに左右される
利用者にフィードバックされ続ければ、顧客要件は確保される
それに基づいた製品を作れば・・・というところでしょうが
すいません。書き散らしただけになってしまいましたが
今後もお会いすることがある思うので、いろいろ意見交換させてください
投稿: Madowindahead | 2016/11/30 16:24
最近、製造業の品質管理の本を読みあさっています。
色々調べてみると、終戦後、デミング博士が来日して以来、品質管理の技法を数多くの日本人技術者(石川馨(特性要因図)、田口玄一(ロバストパラメータ設計)、赤尾洋二(品質機能展開)、狩野紀昭(狩野モデル))が優れた業績を残している事実に気づきました。
やはりすごい。
しかし、なぜその手法がソフトウェア開発に適用できなかったのか、そして、欧米人はなぜアジャイル開発を生み出すことができたのか、その理由がしっくりこないのです。
是非ディスカッションさせて下さい。
投稿: あきぴー | 2016/11/30 19:36
また、雑記になってしまいますが・・・
終戦後の品質管理技法は、国家としての必須事項だったと思います
人命に影響しないような製品を作るという命題を解決するためのもの
繰り返し生産なら、少しずつでも確実に精度を上げればいいものができる
実際いいもの(=人命を奪ったり、事故になったりしない)ができた
でもその行き過ぎた形が現場最適化かもしれません
繰返生産精度向上型で成功した人が、
考え方が異なるソフトウェアを対応した場合どうなるか・・
柔軟性がある人ならよいですが、、、
ソフトは繰返生産は必要ない(コピーで済む)ので、
誤解を恐れずに言うと、要件をまとめ、うまい作り方ができるほうが優先
エース(できる人)を何処において対応したかの違いなのかなと思っています
それで考えると、土木や電気工事が現地調整優先なのも頷けます
欧米人がアジャイル開発を生み出せたのは、
エースの立ち位置をうまく変えたのかもしれません。
個人的意見がほとんどなので、私も久しぶりにあきぴーさんがおっしゃってるような本を読み直してみます。
当時と受け取り方が変わっていると思うので
投稿: Madowindahead | 2016/12/02 17:17