第54回関西IT勉強会の感想
第54回関西IT勉強会で、渡辺さんの生産管理データモデルを超高速開発ツールで実装してデモを見せてくれて、面白かった。
以下はラフな感想。
間違っていたら後で直す。
【参考】
データモデルを通して業務を理解しよう <第54回IT勉強宴会> | IT勉強宴会blog
【1】渡辺さんの生産管理データモデルは既に公開されている。
書籍では何度も読んでいるけれど、実際に動いた画面は見てないので、ピンときていない部分もあった。
今回、超高速開発ツールで実装してデモを見て、渡辺さんの生産管理データモデルはすごい!と改めて気づいた。
(レベルが低くてスミマセン)
【2】渡辺さんの生産管理データモデルで興味深い点はいくつかある。
【2-1】受注生産と言いながら、汎用部品の見込生産にも対応している
受注生産のシステムなので、製造するときには必ず受注番号が既にある。
受注番号から製造指図書が生成され、それに従って、原材料の発注、設備の作業時間の予約、作業員のスケジュール予約が自動設定される。
つまり、MRPの所要量計算が自動計算されて、必要なリソースが予定として計画される。
そして、次の業務へ移る。
だが、渡辺さんの生産管理データモデルでは、「特殊売上」「特殊仕入」という特殊な業務がある。
これは、汎用部品の売上処理や仕入処理を意味する。
なぜこういう機能が必要なのか、を推測すると、受注番号なしで製造指図書を発行したい、という例外的な業務があるからだろう。
そういう例外的な業務をシステム化しないケースもありうるが、その場合は、例外的な業務は従来の紙による運用になってしまい、生産データや売上データを別で入力する必要が出てしまう。
だから、このような例外的な業務に対応する機能も実装しておくと便利。
その場合、その例外的な業務に対応する機能は、ほとんど全ての例外業務を飲み込んでしまう。
たとえば、本来は、何らかの理由で追加生産する時に使う機能だったのに、汎用部品を事前に見込生産する、とか、サポート保守用の部品を事前に生産して準備する、とか、ありとあらゆる例外業務に対応できてしまう。
つまり、例外的な業務に対応する一機能にすぎないのに、実際は、受注生産以外の全ての生産業務に対応できるような仕組みを故意に作っておけば、中小企業のある程度の生産業務に対応できる、という背景があるのだろう。
そういう意図を読み取りながら、デモ画面を見ると、さほど複雑ではないシンプルな生産システムにも関わらず、このデータモデルを流用すれば、ある程度のシステムを構築できてしまうわけだ。
たぶん、渡辺さんの過去の経験から、こういうデータモデルがないと、現場の業務は回らない、という確信があるのだろう。
【2-2】製造指図書、発注明細などのFatなテーブルの項目には意味がある
公開されたER図をサラッと見ると、業務の中心にFatなテーブルがあり、その周囲に惑星のような小さなテーブルが配置されている。
まるで、太陽系のようなデータモデル。
T字形ERの人達から見れば、正規化しきれていないテーブル構造だと思えてしまうかもしれない。
だが、実際にデモを見ると、Fatなテーブルの項目は、それぞれの業務の画面項目に対応しており、データの生成→更新→終了に至るまでの経緯を保持するデータに対応する。
つまり、導出項目だったり、数量だったり、連番だったりする。
渡辺さんの生産管理データモデルで最も特徴的な在庫推移機能の画面では、業務が変わるたびに、在庫数量がその都度更新され、リフレッシュされる。
実際は、親画面からポップアップされた子画面で、ステータスや数量を更新すると、親画面の在庫数量がリフレッシュされる。
下記の質問はそんなデモを見た時に出た。
(引用開始)
・先ほどから画面を閉じるとひとつ前の画面がリフレッシュしてるように見えます
最近追加した機能です。画面フォーカスが戻った時に自動リフレッシュ出来ます
またルールエンジンも組込みましたので簡単な業務ならノンプログラミングになりました。
(引用終了)
在庫推移画面は実際に見たことがなかったので、そんな動きになるのか、とようやくイメージできた。
(レベルが低くてスミマセン)
つまり、Fatなテーブルは、各業務に必要な導出項目や更新する項目を保持するために必要であり、データ保守やデータ移行の手間を考えると、あえて、正規化しすぎないようにしているわけだ。
その分、カスタマイズもしやすいだろう。
【2-3】製造指示工程明細---●製造指示材料明細
製造指図書テーブルから、製造指示工程明細と製造指示材料明細の2つのテーブルが外部キーとして外部参照関係を持つ。
さらに、工程と品目明細のテーブル間で、「製造指示工程明細---●製造指示材料明細」という外部参照関係がある。
この意味は、原材料を「工程の始点から投入」だけでなく、「工程の途中から投入」できるようにするために、そのような関係を持たせている、らしい。
なるほど!
普通は、原材料は「工程の始点から投入」のパターンだが、工程の途中から投入する生産工程もあったりする。
そのような例外的な業務に対応できるように、故意に制約を緩めて汎用化しているわけだ。
工業簿記の総合原価計算では、「工程の始点から投入」のケースと「工程の途中から投入」のケースでは、加工進捗の計算方法が変わるため、加工費の算出が変わってくる。
つまり、この部分に対応することで、多様な原価計算パターンにも対応できるようにデータモデルを設計されているわけだ。
【2-4】発注明細●----入荷見出し
(引用開始)
発注の部分のERがすごく良くできています。
発注見出 -< 発注明細を作ります。
仕入が入ってくると発注明細ごとに仕入番号を更新することで入荷された単位で仕入れを発生させることが出来ます。
(引用終了)
僕の理解では、発注明細が複数個発生すると、そのたびに入荷処理するわけではなく、一括で処理したい。
そこで、一括処理する単位で、発注明細を束ねて、入荷処理する。
つまり、発注明細に、仕入番号という外部キーを挿入して、仕入番号の単位で入荷処理を行うように記録させる。
なるほど!
T字形ERでも、2個のトランザクションに先行・後続の関係を持たせる時、外部キーを持たせる。
また、T字形ERでは、先行のトランザクションを一括処理でまとめて、後続のトランザクションに渡す時は、親子キーの関係を持たせるが、渡辺式データモデルでは、実運用を考えて、外部キーで持たせている。
つまり、発注明細テーブルの仕入番号は最初はNULLであり、仕入という入荷処理を行うと、仕入番号が発行されてセットされる。
懇親会で実装した人に聞いたら、この部分のデータモデルはシンプルで汎用性が高いので、いろんな業務にカスタマイズしやすい。
よく考えられている、という話だった。
【2-5】ストアドプロシージャは、サーバーサイド・JavaScriptで実装する
今時、ストアドプロシージャをプログラミングするのは古いらしい。
サーバーサイド・JavaScriptで実装するが流行らしい。
確かに、サーバーサイド・JavaScriptで実装しておけば、どんなWebシステムでもクライアントアプリでも、公開されたAPI経由で自由に計算処理できる。
性能要件が気になるけれど、そこさえクリアできれば、保守性を考えると、サーバーサイド・JavaScriptで実装した方が良いのだろう。
【3】@sakaba37さんから、渡辺さんのデータモデルのようなモデリング手法に違和感がある、と聞いた。
あれは、論理モデルではない、物理モデルだから。
本来のモデリングではないのでは、と。
たとえば、オブジェクト指向モデリングならば、モデルは論理モデルを指すのであり、物理モデルはいろんな種類があるから、と。
たしかに、モデリングと言うよりも、実際に実装したシステムまで作ってしまった、みたいな感じだ。
この手の話は、以前、議論したことがあった。
ドメイン駆動設計に出てくる「モデル」とは何ですか?~第28回関西IT勉強宴会の感想: プログラマの思索
つまり、普通のモデリングで言われるモデルは「論理モデル」であり、論理モデルだからこそ、実装方法は色々ある。
一方、勉強会の途中で、渡辺さんの質問「業務に対するモデルの正しさはどのように判定していますか?」があがり、皆であれこれ議論して、結局、場面ごとに違うので、正しいモデルは一つとは限らないね、という話になった。
そして、渡辺さんいわく、モデリングはエンジニアリング技法の一つなので、品質やコスト、納期のトレードオフでモデルが決まるから、と言っていた。
その意図は、「モデルの判定は理想論ではなく、QCDやその時代の技術レベルの選択のすり合わせで決まるので、相対的なものである」という意味なのだろうと思う。
以前、@yusuke_arclampさんも似たようなことを言っていた。
でも、@sakaba37さんと同じく、何かすっきりしない気持ちもある。
上記の議論は、モデルのレベルを「実装モデル」に落としているために、技術選択論になっているのではないか、と。
この辺りは妄想なので、あとでまとめる。
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