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2018/11/11

第15回東京Redmine勉強会の感想~Redmineの2つの顔が相異なる2つのユーザ層を生み出している #redmineT

第15回東京Redmine勉強会が盛況で無事に終わりました。
スタッフ、参加者の皆さん、ありがとうございました。
また、コミッタの前田さん、数多くのプラグイン開発者・パッチ開発者の方にも感謝です。
以下は、講演を聞いて、感想をラフなメモ書き。

【参考】
第15回勉強会 - redmine.tokyo

2018/11/11 第15回勉強会 - redmine.tokyo - Togetter

日本のRedmineコミュニティの活動報告と今後の抱負: プログラマの思索

第15回redmine.tokyo勉強会の見所: プログラマの思索

第15回redmine.tokyo勉強会のLT資料の事前公開~今後のRedmineコミュニティの方向性について: プログラマの思索

Redmineでやってみた - うさぎまんじゅう - BOOTH

【1】参加者の方から、以前の勉強会では講演の数が少なくて、時間を持て余す時が多かったのに、今回の勉強会では講演の数が多すぎて盛りだくさんだった、という感想を聞いた。
確かに、大LT大会になったので、詰め込みすぎたかもしれない。

他方、それだけのコンテンツが集まる事実は、日本のRedmineコミュニティで数多くの事例やカスタマイズのノウハウが蓄積されていることを示しており、コミュニティとして成熟していることかな、と思った。

【2】今回の勉強会のテーマは「Redmineの次バージョン4.0に向けて、皆のノウハウを共有しよう」だったが、隠れたテーマは「日本のプラグイン開発者やコミッタ、パッチ貢献者にコミュニティから感謝の声をあげよう」だったと思う。
@g_maedaさん、@akiko_pusuさん、@tkusukawaさん、@haru_iidaさん、@two_packさん、@onozatyさん、@naitohさん、前田みのるさん他多数のプラグイン開発者に声が届けられて良かったように思う。

中村さんの講演では、現場のRedmineに15個もプラグインを入れていて、プラグイン開発者に拍手喝采を、という内容はまさにそうだった。
Discord上でRedmineコミュニティを運営しているMaxさんの講演も、Redmineのテーマ改善など機能拡張をコミュニティドリブンで開発しよう、という内容だった。

そして、僕のLTでは、Redmineコミュニティがマネージャ層とRuby開発者という二つの全く異質なターゲットから成り立っている特徴を強みとみなし、異質な特徴を持つ彼らが相互交流することで、Redmineの進化を加速させるエンジンになりうるはず、という主張を試みた。

実際、今日の参加者とグループディスカッションや懇親会で話を聞くと、マネージャ層の人達もいれば、プラグインやパッチ等の開発者も多く、多様な参加者から成り立っていた。
たぶん、こういう交差しないセグメントのターゲットが2つ以上もあるようなコミュニティは、非常に稀で、貴重な場ではないか、と思う。

普通のOSSコミュニティは、利用ユーザだけとか、実際の開発コミュニティとか、セグメントがどこかに特定されているような気がする。

【3】では、なぜ、Redmineコミュニティはそのような異質なセグメントのターゲットを2つ以上持つことができたのか?

理由は、Redmineには2つの顔があるからだ。
一つは、「ソフトウェア工学の理論を実験できるプロジェクト管理ツール」という側面で、マネージャ層に対応する。
もう一つは、「汎用的なプロジェクト管理の開発基盤」という側面で、こちらがプラグイン開発者やRuby開発者に相当する。
つまり、全く異なる出身を持つ二つの層が生まれたことで、Redmineの機能改善を相互に議論しあえる場が生まれたように思っている。

たとえば、マネージャ層は、自分達の管理作業を楽にしたいためにRedmineを使うが、Rubyの開発はおそらく殆どの人ができない。
一方、プラグイン開発者は、実際の現場のニーズを元にRedmineに不足した機能を実装し、プロセス改善に役立てる。

Ruby開発者は、マネージャを顧客に見立てて、Redmineに不足した機能を実現できる力を持つ。
一方、マネージャは、プラグインを利用することで、自分達の開発プロセスや組織文化に合わせてRedmineにカスタマイズを施し、彼らのあるべき姿にRedmineをFitさせる。
たぶん、新たなプラグインがマネージャ層の潜在ニーズを刺激し、新たな改善アイデアを生み出すだろう。

実際、今日のLTでもリソース予約プラグインを開発した話があり、タスク管理に使われるRedmineを会議予約システムとみなして使う、という事例もあった。
つまり、柔軟なRedmineのおかげで、マネージャや利用ユーザの潜在ニーズが刺激され、数多くのアイデアが生まれる、という良い意味でのらせん構造が生まれている。

【4】すると、今後のRedmineコミュニティの発展に必要な要素は2つあると思う。
一つは、Ruby開発者をRedmineコミュニティにもっと巻き込みたい、ということ。

なぜなら、他の競合のチケット管理ツールに対し、Redmineが競争優位性を保つには、もっとRedmineの進化の速度を上げたいからだ。
現状のRedmineには、いくつかの課題があると思う。

僕が感じている課題については、以前書いた。

Redmineの直近の課題~競合ツールGitlabに対抗できるか: プログラマの思索

また、Maxさんも同じく、Redmineの画面UIをもっと今風に改善したい、と思われている。

換言すれば、次の3つに課題が集約されるのではないか。

1・シングルページアプリケーション化などの画面UIの改善
2・プルリク実装などのGit連携の機能強化
3・プラグインのGem化、RedmineのVerUpの自動化などの、VerUp自動更新機能

おそらくそれらの課題の解決は、そう簡単なものではない。
だが、多くのRuby開発者をRedmineコミュニティに巻き込めば、実現のハードルは下がるだろう、と思う。

Redmineのマイクロコア化は可能か~Redmineを開発基盤にして追加機能は着脱可能コンポーネントにできるか: プログラマの思索

【5】もう一つは、Redmine運用に関する数多くの知見を一つの体系にまとめ上げて、誰もが再利用できるようなプラクティスや知識を提供すること。

なぜなら、大阪や東京のRedmine勉強会で参加者から要望されるニーズは、Redmineの運用事例が知りたい、という内容が多いからだ。

実際、Redmineが生まれて10年以上経った今、障害管理だけでなく、タスク管理、会議の管理、資産管理、ヘルプデスクなど数多くの事例がRedmineで実現されている。

たとえば、今日のグループディスカッションでは、ITILのプロセスをRedmineで完全に実装した事例を持つ参加者がいた。
具体的には、Zabbixで検知したエラーメールはRedmineにチケットで自動登録され、インシデントとして認識される。それらチケットを精査して、修正対応すべきと判断されたチケットは、問題管理へエスカレーションされ、対応策の検討後、リリース管理で開発・リリースされる、という流れ。
つまり、この参加者の方は、システム保守・運用の立場の人なのだろう。

この話は僕も以前経験していて、ITILとRedmineは非常に相性が良いと思っている。
しかし、インシデント管理・問題管理・リリース管理などの各プロセスをRedmineにどのようにFitさせるか、については、運用してみると理論通りにうまく行かない部分がある、というのも経験している。

TiDDにITILの概念を持ち込む: プログラマの思索

Redmine for ITIL: プログラマの思索

残業申請ワークフローやITIL運用プロセスをRedmineで実現した事例の記事: プログラマの思索

エスカレーションをRedmineで運用する方法: プログラマの思索

そういうアンチパターンやプラクティスなどのノウハウを、利用シーンごとにまとめて、体系化してみたい。
おそらく、そういう知見を集めて体系化して、その知識を普及させる役割が、Redmineエバンジェリストであり、Redmine警察に相当する人達だろうと思う。

【6】今日の勉強会の中で、ツイートしながら生み出せた考え方は、「Redmine運用の4原則」のようなものがあるのではないか、ということ。
Redmine運用の4原則とは、Redmineがチームに馴染むには、プロセス・ツール・スキル・マインドの4つの要素がいるのではないか、ということ。

この考え方の発端は、Jiraのような多機能なチケット管理ツールの場合、プロセスを実装した経験がない管理者がJiraを使って運用させようとすると、失敗しやすいのでは、という話から生まれた。

ツールを使いこなすには、プロセスを知っておくことが大前提。
そして、ツールを使いこなしたり、プロセスをテーラリングできるスキルも重要。
また、プロセスやツールを受け入れるマインドもいるね、と話が広がった。

しかし、本当にこの4つで十分なのか、MECEに整合性が取れているのか、この4原則でアンチパターンの事象を演繹的に説明できるか、については検証が必要、と思っている。
でも、この4原則を検証してみるのは価値がある、と思う。

【7】最近の僕が個人的に持っているRedmineのテーマは「組織とRedmineは相互にどんな影響を与えているか」だ。

具体的には、組織構造がRedmineにどんな影響を与えて、Redmineをどんな方向に複雑化させるのか。
一方、Redmineを導入し運用することで、組織文化にどんな影響を与えて、組織にどんなメリットを与えてくれるのか。

例えば、縦割りのガチガチの組織構造は、単一の標準Redmineのワークフロー設定、トラッカー設定を複雑化させる。
その複雑化に現場が対応できなくなると、各事業部や各チームごとにRedmineインスタンスが乱立し、野良Redmineが生まれ、IT統制が効かない状態になりうる。
つまり、組織のやり方にRedmineをカスタマイズしてフィットさせて、プロセスをテーラリングしたいが、実際は理論通りにテーラリングはうまくいかない場合が多い。

一方、縦割りの組織にRedmineを導入すると、Redmineの機能に埋め込まれたベストプラクティスをメンバーが自然に受け入れることで、チームの作業が効率化されることもあるだろう。
また、Redmineがメンバー間のコミュニケーションを活発化させ、より良いプロセス改善がもっとできるのでは、というメンバーの貢献意欲を引き出す場面もあるだろう。
つまり、Redmineはチームの文化を変容させる力を持っている。

そんな経験を踏まえて、「Redmineは組織構造に従う」「Redmineは新たな組織文化を生み出す」という二つの双方向な事象を整理したいと思っている。
実際、Redmineを利用しているマネージャは大企業の方が多いので、組織構造や組織文化とRedmineのバランスを見出すことに苦労しているのではないか、と思うからだ。

Redmineは戦略に従う。そして、Redmineは組織に従う~システム運用フローの背後にある組織構造の影: プログラマの思索

Redmineインスタンスはチームの組織文化や慣習を表す: プログラマの思索

大規模組織におけるRedmineを巡る諸問題~組織構造がRedmineに与える影響: プログラマの思索

Redmineに向いている組織はPJ型組織やマトリクス型組織ではないかという仮説: プログラマの思索

Redmineインスタンスとプロセスの関係~Redmineは組織に従うのか、Redmineに合ったチームを作るべきか: プログラマの思索

グループディスカッションでも、懇親会でも、参加者が持つRedmine運用の問題意識にはこれらが関係しているような気がした。

以前「Redmineによるタスクマネジメント実践技法」で当時の自分が考えていたアイデアは全て書いたけれど、上記のテーマでまた新たに書いてきたくなるなあ、と思った。




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