プラットフォーム革命の感想~プラットフォーム企業は新たな独占企業である
『プラットフォーム革命』を3回以上読み直した。
ようやく、昨今のGAFAのようなプラットフォーム企業が何故、収益力だけでなく、これほどまでに政治的影響力を強めているのか、何となく理解した。
以下は、自分の浅はかな理解に基づくメモ。
【参考】
『プラットフォーム革命』――プラットフォーム・ビジネスの脅威を機会に変えるために | GLOBIS 知見録
「プラットフォーム革命」を読んでAmazon、Facebook、Uberのビジネスモデルを理解する | Synapse Diary
【1】プラットフォーム企業は、独占企業そのもの
(引用開始)
Modern Monopolies――同書の原題だ。直訳すると「現代の独占」だが、このタイトルこそ、本書の特徴をよく説明していると思う。
実際、アップルやアマゾン、グーグルなど大手プラットフォーマーが世界の時価総額ランキングに名を連ね、世界を支配していると危惧する声が毎日のように聞こえてくる。
(引用終了)
「ゼロ・トゥ・ワン」にも似たような話「収益の安定した企業になるなら、独占企業になって、独占利潤を取れ」があったけれど、正直分かりにくかったが、『プラットフォーム革命』を何度も読みなおして、ようやく理解した。
【2】僕が『プラットフォーム革命』が素晴らしいと思う点は、経済学の概念を用いて、プラットフォーム企業のビジネスモデルと経営戦略を徹底的に分析し、その本質を導いているからだ。
具体的には、従来の直線型企業の象徴である製造業、特に、自動車業界のビジネスモデルと、プラットフォーム企業のそれを比較対比することで、プラットフォーム企業の特徴とその利点を鮮やかに説明している、と考える。
以下、経済学の用語を中心に拾いながら、自分のメモと自分の理解を書いてみる。
【2-1】完全競争の業界、市場では、どの企業も利潤がない。
レッドオーシャンの世界。
【2-2】完全な情報がある前提では、計画経済と市場経済は、その双方ともに効率性が同じ、という理論が既にある。
しかし、現実は、市場経済の方が計画経済よりも効率的だ。
その理由は、入手される情報は不完全な場合がほとんどなので、ローカルな情報を市場でやり取りすることで、需要と供給の均衡を図るから。
この時、需要と供給が均衡する点が、取引される価格になる。
よって、市場経済は価格システムでもある。
つまり、市場経済は、価格という指標・尺度の変化を記録するシステムそのもの。
しかし、『プラットフォーム革命』のストーリーでは、プラットフォーム企業は、取引の履歴、購買履歴、個人情報などを完全に把握でき、そのビッグデータを分析することで、「完全な情報」という概念を現実化できる。
たとえば、Amazonの購買履歴、Facebookの個人情報、Appleのクレジットカード情報、Googleの検索履歴。
昨今では、Facebookの個人情報が悪用されて、トランプ大統領を生み出した現象があったから、その主張はあながち嘘とは言えないと思う。
よって、プラットフォーム企業は「中央集権的な計画経済」から成り立っており、それゆえに独占企業となり、勝者総取りの結果として、独占利潤を独り占めできる。
だから、米国のGAFA、中国のBATの企業価値は、小国のGDPくらいの大規模な価値を持つ。
(但し、自然独占の結果だよ、と『プラットフォーム革命』では言う)
【2-3】製造業のような従来の企業のビジネスモデルを経済学の観点から理解するには、二つの観点がある。
一つは、コースの定理。
市場経済では、取引費用というコストと、情報の欠乏を最小化するために、企業という組織が組織化される。
企業は、市場で取引するよりも、社内でやるほうが効率的ならば、内製化し、それ以外の活動は外部委託する。
企業は、事実上、巨大な市場経済の中に存在する小さな計画経済。
【2-4】もう一つは、ポーターのバリューチェーン。他に、規模の経済や経験曲線効果。
規模の経済は、たくさん作るほど製造原価は急激に下がる、というハード面のやり方。
経験曲線効果は、たくさん作るほど、従業員の能力も製造工程も学習されて、製造原価は急激に下がる、というソフト面の考え方。
つまり、大規模な設備投資でコスト優位性をもたらす手法。
規模の経済や経験曲線効果は、特に自動車から半導体装置に至るまでの製造業の根本思想。
外食産業のチェーン店、コンビニのフランチャイズチェーンも、同様の発想。
また、ポーターのバリューチェーンでは、企業は、研究開発→製造→販売・マーケティング→保守サービスという一連の活動から成り立ち、その活動の連鎖で付加価値を付けて、高いアウトプットを出す。
その時、コースの定理と組み合わせれば、価値連鎖における活動の結びつきの最適な組み合わせを実現し、最小限のコストで最大の価値を生み出すことが企業の競争優位上の目的になる。
よって、企業が価値連鎖に様々な活動を内製化して取り込むのは、外部委託するよりも社内の活動にした方が効率的と判断している。
特に、製造業では、さらに規模の経済と組み合わせて、大規模な設備投資でどんどん巨大化し、官僚的な組織になることで、大きな企業価値を生み出し、独占企業となってきた。
しかし、こうした大組織であっても、ある一定の規模を超えると、組織内で情報流通のコストが大きくなり、独占を下回る水準で成長の天井にぶち当たる。
【2-5】コースの定理、ポーターのバリューチェーンが発生する問題意識は、市場が効率的ならば、なぜ会社という企業は存在するのか、企業は市場にどんな価値をもたらすのか、ということ。
つまり、経済学の観点では、企業の存在価値とは何か。
コースの定理では、企業は自社の内部に活動を取り込んで内製化する方が効率的だから、存在する、と。
たとえば、大手製造業が数多くの子会社として、ソフトウェア開発、金融保険、食事サービス、果ては従業員の娯楽サービスに至るまで抱えている理由は、内製化して、連結企業グループ内でお金をやり取りする方が、売上も利益も増えるから。
しかし、『プラットフォーム革命』のストーリーでは、20世紀のこの前提は、プラットフォーム企業の出現で崩れた、と言う。
【2-6】プラットフォーム企業は「自然独占」の結果である。
つまり、市場経済の熾烈な競争を経た結果で生まれた「独占」であり、悪い事象ではない。
普通、独占・寡占の企業と言えば、電気・ガスのような固定費が大きい企業とか、法規制で縛られた業界が多いが、プラットフォーム企業は自由な競争の結果の独占企業。
プラットフォーム企業は、今までになかった市場を作り出すことで、新しい価値を生み出してきた。
たとえば、Facebookの個人情報の取扱いを嫌う人は多いかもしれないが、Facebookが自社の利益以上に、人々に多くの経済的・社会的価値をもたらしてきたことは否定出来ないはずだ。
プラットフォーム企業のインパクトは、経済インフラが確立されていない国ほど、強力に感じられる。
たとえば、アリババは中国のデジタル経済の誕生にかなり貢献し、おかげで最辺境の人も自由に商品を購入できるようになった。
一方、日本ではATMが普及しているおかげで、キャッシュレスやカード払いが浸透せず、プラットフォームの恩恵が少ない。
丁度、IT技術は、先行者利益ではなく、後発者利益の方が大きい、という考えに似ている。
特に日本は、プラットフォームビジネスのような新しいビジネスに設備投資すべきなのに、古いレガシーな基幹系システムを数多く抱えているために、IT予算はシステム保守のほうが圧倒的に多い。
【2-7】インターネットとコネクテッド革命は、規模の経済と価値連鎖の概念を根底から覆した。
「計画経済の立案者は大規模な経済活動を効率的に調整できない」というハイエクの主張を無効にした。
昔と今の唯一の違いは、計画立案者が政府の官僚ではなく、プラットフォーム企業が持つアルゴリズムやソフトウェア(検索エンジン、協調フィルタリングなど)になったこと。
面白い点は、共産主義の計画経済では、市民は権力者に反抗していた一方、GoogleやAppleの利用者は、自分がエンパワーされた気持ちになり、彼らの信者になっている。
だから、FacebookやAmazonなどのプラットフォーム企業は、自分達が生み出したマーケット内のルールや規制に相当な労力を費やして、質を高めようとしている。
その努力は、政府の公共政策に似ている、と感じる。
【2-8】プラットフォーム企業の経済活動は貿易利益。
Amazonもアリババも、何もない所から莫大な利益を生み出している。
丁度それは、江戸時代の紀伊国屋文左衛門が、紀州のみかんを江戸で売り、江戸では鮭を買って大阪で売って巨額の利益を得た、という話と同じ。
つまり、貿易という交換作業をプラットフォーム上で大規模に取引することで、莫大な利益を生み出している。
【2-9】従来のビジネスは、限界費用はゼロにはならない。
20世紀の製造業では、ビジネスをスケールするには、需要を喚起する費用と供給コストをどれだけ下げられるか否かにかかっていた。
つまり、製造原価を低減するために、規模の経済を活かすし、価値連鎖の概念を用いて内製化された活動を効率化する。
たとえば、フォードの大量生産、トヨタのJIT、マクドナルドのフランチャイズチェーンなど。
つまり、このビジネスモデルでは、生産工程を管理することで価値を生み出すので、商品をもっと売るには、莫大な設備投資を行い、生産能力を高めなくてはならない。
だが、物理的な資産と人員はスケールしにくい。
しかし、インターネットの普及、スマホの普及で大きく変わった。
現代の情報商品を流通させるには、コピー代はほぼ0円なので、限界費用は基本的にゼロ。
インターネットを使った低コスト流通を早い段階から活用し始めたのがSaaS企業。
しかし、ソフトウェア開発という初期費用、固定費はまだかかる。
一方、プラットフォーム企業では、生産も在庫も必要ない。
自社のプラットフォームで生産者と消費者という二つの顧客を抱えるので、最初にプラットフォームというシステムを作る固定費さえかければ、その後は、生産者と消費者の取引量が増えて貿易利益が指数関数的に増えるので、サプライサイドは生産者がどんどん取引できる商品やサービスを提供してくれるようになるから、サプライサイドの供給コストも限界費用をほぼゼロにできる。
つまり、プラットフォーム企業の費用構造では、保有する資本は非常に少なく、製造業よりもはるかに投資利益率ROICが高い。
このロジックのおかげで、プラットフォーム企業は理論的には市場そのものと同規模まで拡大できる。
だから、GAFAやBATの企業価値は、小国のGDPをはるかに凌ぐまでの大規模な経済になっているわけだ。
【2-10】プラットフォーム企業では、規模の経済ではなく、ネットワークの経済が根底にある。
生産者と消費者という二つの顧客を抱えて、彼らが取引することで貿易利益を得る。
だから、彼らの取引量を増やすことが重要になってくる。
プラットフォームとは、取引の生産工場。
【2-11】プラットフォームビジネスの構築の最初の問題は、クリティカルマスをいかに増やすか?
プラットフォームでは、生産者と消費者の合計参加者であるクリティカルマス(最小必要人数)をいち早く超過することが最初の重要な問題になってくる。
生産者を先に増やすのか、消費者を先に増やすのか?
一度、クリティカルマスを超えれば、プラットフォームビジネスの潜在的スケールは非常に大きい。
なぜなら、クリティカルマスに到達すれば、供給側が費用の制約を受けなくなるから。
よって、プラットフォーム企業が成功する最初の課題は、生産者と消費者の双方を増やすことにある。
【2-12】プラットフォームビジネスの構築の2番目の問題は、流動性をどうやって確保するか?
つまり、プラットフォーム内の生産者と消費者の人数が十分に増えたら、彼らの取引量をいかに増やすか?
需要を満たせる十分な供給があり、ほとんどの取引がすぐに成立する市場(プラットフォーム)は、流動性があるとみなされる。
流動性、つまり取引量が増えれば、ネットワーク効果を大きくさせられる。
流動性がないと、需要と供給はアンバランスになりがち。
需要がたくさんあるのに、供給が少なければ、価格が高騰し、消費者は不便になる。
一方、供給がたくさんあるのに、需要が少なければ、価格は暴落し、生産者が不幸になる。
金融市場における流動性の確保は、各国の中央銀行の使命。
一方、プラットフォーム企業では、自社のプラットフォームの流動性の確保が使命になる。
【2-13】プラットフォームの流動性の確保のためのアルゴリズムは、マッチメーキングそのもの。
たとえば、ウーバーなら、ドライバーと利用客のマッチメーキングは、巡回セールスマン問題と同じ。
Amazonなら、消費者と出店者のマッチメーキングは、協調フィルタリングによる関連購買と同じ。
つまり、流動性を確保するために、システムが自動的にユーザ同士のマッチメーキングを行い、取引を円滑にさせる。
すなわち、プラットフォーム内の需要と供給の均衡は、取引トランザクションから得られたビッグデータの解析を元に、巡回セールスマン問題や協調フィルタリングなどのアルゴリズムで解決させる。
但し、ウーバーは、ピーク料金で需要と供給の均衡を取っている。
つまり、利用者の需要が高まると運賃を上昇させて、少ないドライバーの供給とバランスを取る政策を実行している。
なぜなら、ウーバーではドライバーと乗客の比率は1対10なので、需要と供給のバランスは元々悪い。
よって、プラットフォーム企業は、消費者よりも生産者(ウーバーならドライバー)の獲得に相当な力を入れている。
そのやり方は、法を犯す手前の危ない手法に近い時もあるらしい。
つまり、ウーバーのようなプラットフォーム企業は、流動性の確保が何よりも重要である、と理解していることを意味している。
GAFA、BATも同様で、たとえば、AppleはiOSプラットフォーム上のアプリ開発者を増やすために、SDKを提供し、AppleStoreで販売できるようにした。
そう言えば、「データ分析の力」にも、ウーバーが持つビッグデータを元に、タクシー利用者の需要曲線をリアルに作成した事例があったけれど、そういうタクシー利用者の需要曲線がなぜ必要なのか、は、まさに需要と供給のマッチメーキングの問題解決のために使うからだろう。
【2-14】流動性確保の問題は、経済学の調整問題と同じ。
つまり、需要と供給の均衡をいかに効率的に行うか?
従来の経済学では、市場経済の価格システムが、需要と供給を均衡させる。
その調整が失敗したら、市場経済は効率的な取引が行えなくなり、自壊する。
昔の大恐慌がそれかな。
現代は、プラットフォーム企業自身が、需要と供給の均衡をソフトウェアとアルゴリズムによって、自動調整させている。
従来の市場経済における調整は「神の手」が行う。
現代のプラットフォームでは、ソフトウェアとアルゴリズム、人工知能がその調整問題を解決するように代替している。
【2-15】プラットフォームビジネスの構築の3番目の問題は、流動性の質をいかに維持するか。
つまり、プラットフォーム内で、消費者と生産者の間で、最善な行動(取引)を促す政策(ポリシー)を作ったり、最悪の行動(騙すとか)をさせない政策を行うことだ。
具体的には、消費者と生産者の双方に取引のメリットが得られるように、コミュニティ統治をプラットフォーム企業自らが行う。
そのために、プラットフォーム企業は、消費者と生産者の双方に、最善な行動を促すために、色んな形のインセンティブを付与するし、最悪の行動をさせないために、逆インセンティブを与える。
つまり、特定の行動を促すための経済的インセンティブという飴を付与したり、好ましくない行動を控えさせるように逆インセンティブという罰を与える。
たとえば、AmazonやYoutubeのユーザ評価システム。
消費者が生産者にだまされないようにする。
他方、生産者は消費者から確実に売上を確保できるようにする。
Facebookのザッカーバーグ氏も、コミュニティ統治やポリシー策定を相当考えているらしい。
よって、プラットフォーム設計は、従来の工業的な生産工程の設計ではなく、社会学や行動経済学に基づく人々の行動設計を行なっているのと同じ。
つまり、プラットフォームビジネスでは、コミュニティ統治が重要であり、それを行うには、生産管理手法ではなく、人間や社会の行動の原理原則を研究している学問、たとえば、行動経済学が重要である、という事実を示唆しているのだろう。
実際、人にどんな経済的インセンティブを付与すれば、最善な行動を促すことができるか?
人にどんな規制や法律、罰則を付与すれば、最悪な行動を避けるように促すことができるか?
という問題への解決は、行動経済学がまさにピッタリだ。
生産者や消費者のプラットフォームへの参加を動機づけるような政策を行う事、それがインセンティブになる。
『プラットフォーム革命』では「ユーザグループへの参加を促す補助」と呼んでいるが、それと同じ。
その補助には、金銭、機能、ユーザの優先順位付け、がある。
【2-16】プラットフォームの成長、つまりネットワークの成長には、経路依存性がある。
すなわち、初期ユーザのプラットフォームにおける使い方、そこからの歴史が重要。
他のSNSとの競争を経て、FacebookがSNSの勝者になったのは、質の高いユーザを初期に集めて、その信用を維持してきたから。
Facebookは、現実の人間関係の地図をネット上に実現するという目的のもと、ユーザは実名で人間関係を構築する政策をずっと維持し続けてきた。
そういう歴史と信用があったから、Facebookが勝ち抜いてきた。
【2-17】ネットワーク経済のはしご
ネットワーク効果を生むには、5つの段階がある。
コネクション
コミュニティ内で起こる相互作用の理論価値
つまり、生産者と消費者の最初の接触
コミュニケーション
プラットフォーム上のユーザ間で実際に相互作用が起きる
つまり、生産者と消費者の間の取引
流動性の開始
キュレーション
プラットフォーム場の情報をまとめて整理する
つまり、初対面の生産者や消費者のための、ルールの告知
流動性を増やす
コラボレーション
参加者は互いに与えるために協力する
つまり、流動性の質を参加者自身が維持する
コミュニティ
このエコシステムにおける行動を統治する規範を作り、執行する
つまり、流動性の質を、プラットフォームの参加者達、そしてプラットフォーム企業が規範を定め維持する
【2-18】スーパープラットフォーム
プラットフォームの中のプラットフォームは存在するのか?
プラットフォーム企業が独占企業ならば、それら独占企業が集まる業界では、さらに独占への競争が激化し、最終的には唯一のプラットフォームが全てを支配するのではないか?
たとえば、中国のウィーチャットは、ある意味で最強のプラットフォーム。
あらゆるプラットフォームを制するプラットフォーム。
メッセージング以外に幅広いプラットフォームやサービスのエコシステムをサポートしているから。
ウィーチャットの成功を受けて、一部の専門家や起業家は、オンデマンド経済では、APIによって唯一のスーパープラットフォームに統合される、という考え方を提示した。
しかし、米国では、GAFA以外にも数多くのプラットフォーム企業がひしめいていて、スーパープラットフォームは生まれていない。
競争関係にあるプラットフォームが、従順な姿勢を示すことは考えられないから。
むしろ、今後の流れで最も実現性が高いのは、各プラットフォームのエコシステムの多角化、つまり、プラットフォームのコングロマリット版だろう。
【2-19】プラットフォームは法規制と軋轢が多い
プラットフォーム企業には華やかでプラス面が多いように見えるが、最大のリスクは現行の法令との衝突だろう。
現在の法体系は、20世紀の直線的なビジネスモデル、つまり大規模な製造業を主体とした市場経済を前提としているため、プラットフォームのビジネスモデルと合わない。
よって、業界初の本格的プラットフォームは、法的なグレーエリアで活動する事が多く、法的な問題になりやすい。
たとえば、Youtubeは著作権侵害。
ウーバーは、ドライバーを社内労働者ではなく請負契約業者とみなすので、ドライバーの保険や年金制度などの法的地位を意図的に無視している。
エアビーアンドビーは、宿泊規制や安全基準を適用しているか否か分かりにくく、グレーなゾーンで取引している。
イーベイなど、数多くのネット販売業者は、クーリングオフや不正取引の責任について、消費者から訴えられた。
ペイパルは、商業銀行と同じ機能と見なされ、金融規制が必要ではないか、と訴えられた。
Facebookも個人情報の取扱に疑念がある。
EUのGPDRもそういう背景から生まれたのだろう。
一般的に、プラットフォームのビジネスモデルは、スケールしやすいという大きな利点がある反面、深刻な法規制上のリスクを抱えている。
つまり、多くのプラットフォームビジネスは規制についての先物買い。
法廷闘争に負ければ、ウーバーもエアビーアンドビーも、その企業価値はすぐに失われる。
むしろ、プラットフォームビジネスに合うような法体系も必要ではないか、とも思う。
【2-20】プラットフォームビジネスの機会の探し方は主に3つある。
取引コストが高く、高コストを生むボトルネックがある業界。
たとえば、ウーバーが、ドライバーと乗客を結びつけたプラットフォーム。
未活用の資源やアナログのネットワークが既にある業界。
たとえば、Facebookは、ハーバード大学がいつまで経ってもアナログの学生名簿を作らなかったことがきっかけだった。つまり、現実の人間関係の地図をFacebook上の友達関係という関係マップにマッピングさせたこと。
エアビーアンドビーは、使っていない家やアパート、ソファーでさえ貸出しさせることで、供給者と利用者の双方に価値をもたらした。
アップルのiOSプラットフォームでは、アプリ開発者と消費者を結びつけるネットワーク環境を構築し、開発者にSDKを提供することで、アプリ開発者と消費者の双方に価値をもたらした。
大規模で分散した資源がある業界。
たとえば、中国のアリババは、中国の無数の中小製造業が大手商社につながる流通経路を持っていない現状に対し、デジタル経済のプラットフォームを提供することで、中国の巨大な、しかしバラバラな小企業市場を統合し、中国のeコマースを育てた。
その規模は、米国のプラットフォーム企業と引けを取らないし、今後の成長を考えると、米国よりも巨大になるだろう。
【3】『プラットフォーム革命』を読んだ後で、日本のプラットフォーム企業の現状を考えてみる。
楽天はたぶん、日本最大のプラットフォーム企業なのだろう。
その本質は、ショッピングモールのWeb版。
楽天市場を核として、数多くのWebサービスを展開して、多角化を図っている。
最近なら、メルカリもプラットフォーム企業を目指しているように思える。
楽天がBtoBなら、メルカリはCtoC。
楽天もメルカリも、クーリングオフや不正取引、個人情報保護など、数多くの法規制の疑いがかけられ、そのたびに解決して成長してきている。
とは言え、日本最大の企業であるトヨタにかなわないので、日本のプラットフォーム企業はまだ成長の余地があるのだろう。
【4】この本は、経済学の概念を用いて、従来のメーカーとプラットフォーム企業の違いを鮮やかに説明している点が素晴らしい。
大規模な独占的な製造業でも、独占的なプラットフォーム企業でも、経済学の論理がその市場や業界の制約の配下にあり、その制約の配下で収益の高い企業行動へ最適化した結果、現在の独占的な結果になっている。
従来と現代のプラットフォーム企業における経済学の原理原則の違いは、規模の経済や価値連鎖によるコスト削減効果ではなく、ネットワーク効果による売上の指数関数的効果。
また、従来と現代のプラットフォーム企業における品質管理手法の違いは、生産工程の生産管理の効率化ではなく、流動性の確保と流動性の質の維持。
さらに、従来と現代のプラットフォーム企業における使用する専門知識の違いは、JIT等に代表される統計的品質管理ではなく、人々を最善の行動へ促すためにインセンティブを付与するなどのコミュニティ統治という行動経済学。
【追記】
下記の記事の内容も秀逸。
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