キャズムの感想~イノベータ理論とホールプロダクト理論
キャズムの本がとても面白かったのでメモ。
キャズム理論は、イノベータ理論とホールプロダクト理論から成り立つことがようやく分かった。
以下、自分のためのメモ。
【参考】
ジェフリー・ムーアとマーケティングバイブル | ノヤン先生のマーケティング講座 | 講座 | マーケティングキャンパス
キャズム理論とは-ハイテクマーケティングの定番 | カ行 | マーケティング用語集 | 株式会社シナプス
イノベーター理論 | ア行 | マーケティング用語集 | 株式会社シナプス
製品戦略(プロダクト戦略) | サ行 | マーケティング用語集 | 株式会社シナプス
プロダクト3層モデル(製品戦略分析) | ハ行 | マーケティング用語集 | 株式会社シナプス
「キャズム」とは。イノベーションを起こすプロダクトが必ず通る道 - 論理と情緒と情熱と。
【0】キャズム理論は、主に製品の技術進化の激しい「ハイテクマーケティング」で適用できる理論
キャズム理論のアイデアは、イノベータ理論のベルカーブ、ホールプロダクト戦略などの過去の理論をIT製品マーケティングに適用しただけ、とみなすならば、おそらくそれほどの新規性はない、と理解できる。
一方、そういう既知の理論をIT製品マーケティングに適用することで、IT業界特有の要素、つまり、技術変化が激しく常にイノベーションを強いられる特徴を持つ場合、キャズム理論のマーケティングは非常に有効だ、と理解できた。
実際、僕が経験するIT業界では、メインフレーム→クラサバ2層方式→Webシステム→スマホ・クラウド→AI・機械学習のようにどんどん最先端の技術が進化している。
その技術進化によって、過去にヒットした技術はコモディティ化を強いられ、主流の製品から崩れ落ち、イノベーションのジレンマに陥る。
典型定期な例は、IBMのように思える。
たとえば、2000年初頭の頃は、LinuxやJavaで輝かしく見えたIBMも、今はGAFAの後方位置に強いられている。
よって、そういうIT業界では、キャズム理論を使って、新製品をいち早く市場に浸透・普及させて、ベネフィット(利益)をいち早く獲得すること、そして、そのベネフィットを得ている間に、次の時代の新製品開発を準備して新たな市場浸透戦略を打ち立てることが重要になる。
つまり、IT業界にいる企業の事業は、おそらく10年くらいしか寿命がないので、その間にキャズム理論を使って既存顧客から十分なベネフィットを得ること、そしてそのベネフィットを元に次世代の新事業を探し出し、キャズム理論を適用して市場浸透して、新たな顧客を増やして市場を拡大していくことが重要なわけだ。
【1】キャズム理論が流用する理論~イノベータ理論のベルカーブ
イノベータ理論のベルカーブは元々、「農村で農業に関する新しいイノベーション、つまり新しい農法や農機具、改良された品種などが入ってきて、それが地域に普及していく過程」から生まれた経験則。
つまり、イノベータ理論は農業の新技術がどのように普及していくか、という理論だった、という点が面白い。
(引用開始)
イノベーター理論の面白いところ、実務に使いやすいところは、「イノベーター:2.5%」「アーリーアダプター:13.5%」「アーリーマジョリティ:34%」「レイトマジョリティ:34%」「ラガード:16%」というように、各分類の割合が決まっていることです。
もちろん製品によって多少の前後はありますが、「どんな新商品の普及でも同じ割合と考えてよい」というのは重要な点です。
つまり、仮に市場全体のパイ=100%が計算できれば、現在の市場がどの段階にあるのか予想がつきます(15%ぐらい普及しているから、そろそろアーリーマジョリティに広がってきているころだ)。
つまり、これにより普及率を予測し、今どの分類の顧客がメインか、その顧客に対する最適なプロモーションミックスは何か?とマーケティング施策を考えることができます。
(引用終了)
つまり、自社の製品を販売しようとする時、製品を受け入れてくれる顧客・市場はどんな状況なのか、をイノベータ理論は教えてくれる。
もし、自社製品の市場シェアがアーリー・アダプター段階ならば、キャズムという壁にぶち当たるだろう。
一方、アーリーマジョリティー段階ならば、キャズムを既に超えているので、今後は積極的なマーケティングによって、どんどんベネフィットを獲得できる嬉しいタイミングになるわけだ。
【2】キャズム理論は、イノベーション普及のボトルネックを指摘した
「マーケティングの世界では長い間、このベルカーブの最初のイノベータとアーリー・アドプターを足した全体の16%のポイントを「クリティカルマス」と呼び、ここまで普及させることが出来れば後は一気にマスマーケットに普及すると言われてきた」。
よって、新製品を新市場にいち早く販売する時、いかに早くクリティカルマスに到達すべきか、を考えてきた。
この考え方は、たぶん、普通の人たちでも知っている常識かもしれない。
しかし、キャズム理論では、この経験則をハイテクマーケティングに取り入れた場合、「BtoB、特にハイテク市場においてはこのクリティカルマスは必ずしも存在せず、逆にこの16%のところに大きな亀裂(キャズム)が存在し、多くの製品・技術・企業がそこに落ちて這い上がれずに消えて行っている」ことを指摘した。
つまり、提唱者のムーアはシリコンバレーのハイテク企業でのキャリアの中でこれを発見したので、経験則なわけだ。
【2-1】では、なぜ、ハイテク市場では、アーリー・アダプターとアーリーマジョリティーの間にキャズムが発生するのか?
理由は、アーリー・アダプターとアーリーマジョリティーという顧客層は、心理変数が大きく異なるだけでなく、アーリー・アダプターのマーケティング戦略がアーリーマジョリティーのそれに適用できない弱点があるからだ。
【2-2】まず、ベル・カーブのイノベータ、別名「テクノロジーマニア」は新技術の造詣が深い心理変数を持つ顧客層。
ここから新製品を販売する。
次に、アーリーアダプター、別名「ビジョナリー」は、先進的でイノベーションのリスクを取ることができ、単なる改善ではなく、事業のブレークスルーを求める顧客層。
アーリー・アダプターは、新しいテクノロジーが自社の企業戦略に合っているかどうかを洞察し、このイノベーションの導入によりどんな夢が実現できるかを深く考える心理変数を持つ。
よって、アーリー・アダプターの顧客は技術に詳しくなるし、サービス提供者に自社の企業戦略に沿った機能を入れるように要求してくる時も多い。
「ビジョナリーの特徴として、「先進事例として紹介されることを好むこと」「価格に対して他の顧客グループに対して寛容であること」があげられます。」
まさに、アーリー・アダプターは「革新者」にふさわしい。
たぶん、アジャイル開発は、こういう顧客が一番向いているのではないだろうか。
一方、アーリーマジョリティー、別名「実利主義者」は、新しいテクノロジーを使ったリスク取得は好まず、成果が得られる実利を求める心理変数を持つ。
よって、アーリーマジョリティーは、他のユーザ企業がどのように新しいテクノロジーを使用しているのかを知りたがり、マーケットリーダーの製品・サービスを購入したがる。
また、サービス提供者同士を競争させたがる傾向がある。
つまり、実利主義社の特徴として、「他社の成功事例が紹介されることを好むこと」「価格に対して非常に敏感であること」があげられるだろう。
日本なら、大企業や官公庁のように、前例がなければ新技術は導入できない、という事象に似ている。
また、発注や入札のように、必ず複数のベンダーに相見積もりさせようとする事象に似ている。
たぶん、アーリー・アダプターは「発注者」にふさわしい。
【2-3】したがって、革新者であるアーリーアダプターと、発注者であるアーリー・アダプターは、心理変数が非常に大きく異なるので、アーリー・アダプターに通用した技術やサービスは、そのままの状態ではアーリーマジョリティーに適用できないことになる。
キャズム理論では、ベル・カーブに対応する各顧客層の心理変数を、ハイテク製品・サービス向けに具体化したこと、ビジョナリー(アーリーアダプター)と実利主義者(アーリー・マジョリティー)の心理変数に大きな差異があるのでそのままマーケティング戦略を適用拡大できない点、が独創的で面白い。
【3】キャズムを超える製品戦略~ホールプロダクト理論
キャズム理論の功績は2つある。
一つは、「イノベータ理論を適用してハイテク市場にキャズムがあることを発見し実証したこと」。
もう一つは、「キャズムからの脱出方法をイノベータ理論の各顧客層ごとに、ホールプロダクト理論を組合せて考案したこと」。
イノベータ理論の各顧客層の心理変数が異なる特徴に対し、それぞれの顧客層に合ったマーケティング戦略を行う必要がある。
では、どんなマーケティング戦略が必要なのか?
キャズム理論では、各顧客層の製品戦略にホールプロダクト理論を適用して、製品の特性と顧客の心理変数の組合せに着目させる。
ホールプロダクトの機能充実度では、コアプロダクト < 期待プロダクト < 拡張プロダクト < 理想プロダクト になる。
イノベータ、アーリー・アダプターは、技術優位性を持つコアプロダクトさえアピールすれば、期待プロダクト、拡張プロダクトの要件は、顧客が自ら申し出してくれる。
「イノベーター・アーリーアダプターに対しては多少使い勝手が悪くても、斬新で未来を変革するパワーを秘めているならば、不便な点は創意工夫して利用」してくれる。
製品ベンダーは、製品開発に専念しやすい。
アーリー・アダプターはプロダクトオーナーの役割を自ら背負ってくれるので、製品ベンダーと一体化したチームを作りやすい。
一方、アーリーマジョリティーは、「①具体的かつ実利的な目に見える成果②工夫なしに簡単に使えるユーザー・インターフェイス③過去の実績(信頼できるかという尺度)」をベンダーに要求してくる。
つまり、「アーリーマジョリティの層が製品の完全パッケージを要求していることにほかならない」。
彼らは、昨日の成果が直接分かる期待プロダクトはもちろん、予備知識無しで簡単に操作できる拡張プロダクトまで要求してくる。
さらには、iPhoneエコシステムのAppStoreのように、ユーザのカスタマイズ要望を自由に実現できる仕組みまで要求してくるかもしれない。
それは、理想プロダクトに相当する。
よって、アーリーマジョリティーの要求に対応するには、彼らの要望を引き出し、製品に機能を漸進的に反映していく開発スタイルが求められる。
また、彼らは成功事例に弱いので、数多くの利用事例を提供して実績を作る販売マーケティングも求められる。
【4】アーリーマジョリティーを攻略するマーケティング戦略~ボーリングレーン
イノベータ、アーリー・アダプターは市場の16%に対し、アーリーマジョリティーは34%も占める大きな市場。
アーリーマジョリティーの顧客層は多種多様なので一筋縄ではいかない。
そこで、キャズムでは、アーリーマジョリティーを攻略するマーケティング戦略として、ボーリングレーンに例えている。
「市場を細分化して、まず1番ピンに相当する市場を攻略し圧倒的シェアを獲得する。その後、隣のセグメントに波及していくという戦略」だ。
つまり、アーリーマジョリティーのうち、ニッチな市場を定めて「小さな池で大きな鯨になる」戦略を採用し、その後、ニッチ市場の成功事例を隣のセグメントへ展開して、浸透させていく。
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