組織は記憶能力を持つのか~トランザクティブ・メモリーという概念
「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」を読んでいて、組織は記憶能力を持っているのか、組織は学習する能力を持つのか、という問いがあった。
内容がとても面白かったのでメモ。
せきねまさひろぐ: 『世界の経営学者はいま何を考えているのか』
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【新連載・入山章栄】経営理論は“モヤモヤ”を言語化する武器。「思考の軸」をつくる教養を磨け | Business Insider Japan
「世界の経営学者はいま何を考えているのか」書評と要約:旧・本を聴く日々:So-netブログ
トランザクティブ・メモリーとは | 人事のプロを支援する | HRプロ
トランザクティブメモリーとは?組織の知を最大化する方法 | BizHint(ビズヒント)- クラウド活用と生産性向上の専門サイト
トランザクティブ・メモリー・システムとは何か(村瀬俊朗)|英治出版オンライン
組織のラーニングカーブは存在するのか?
組織は経験から学習するのか?
個人は経験から学習して、個人の能力を高めていく。
人は経験から記憶する。
組織も同じだが、その構造は異なる。
100人がばらばらに学ぶ場合と、100人が一つの組織で学習する場合、組織で得られる知の総量は違うのか?
結果は異なる。
組織は、トランザクティブメモリという、誰が何を知っているのか、という知識を蓄積することで、より多くの専門知識を持つことができる。
つまり、組織内の個人は機能別組織として、その専門性を発揮するが、ばらばらの専門性の知識は、組織内の権限と責任の一致によって、組織内の専門知識に自由にアクセスできる構造を持つ。
組織は、自然に形成されたトランザクティブメモリを持つが、それを新しい組織構造に変換して無理にゆがめると、組織内の軋轢を引き起こし、組織内の記憶力は著しく落ちていく。
このトランザクティブメモリの概念を、ソフトウェア開発に適用するとどのように解釈されるのか?
たとえば、専門性を持つ技術者が集まったチームが生産性を発揮しても、そのチームを一度解体してしまうと、組織の記憶力は低下し、組織の生産性も著しく落ちてしまう。
スクラムではチームを重要視する。
チームはブラックボックスとして扱い、プロジェクトマネージャのマイクロマネジメントは許さない。
チーム内ではメンバーの専門性は最大限発揮できるような環境が提供されている。
つまり、トランザクティブメモリが発揮できるような仕組みをスクラムは開発チームに提供している。
そういうトランザクティブメモリがスクラムチームに自然に埋め込まれているならば、困ったときに、専門性を持つ人に声をかけて支援してもらい、問題解決することが可能になる。
ソフトウェア開発では、長年保守してきたシステムの知見、技術、業務の知識を持つ技術者が非常に重要だ。
そういう属人生を排するような仕組みを組織的に作り出そうと四苦八苦してきたが、むしろ、そういう技術者が能力を最大限発揮できるような仕組みを作り出すほうが重要ではないだろうか?
トランザクティブメモリの豊かな組織では、組織が記憶力を高めて、組織の学習能力を高めてくれる。
ここで、組織の記憶力はあくまでも、専門性を持つ人の情報を共有する点に着目していること。
単に、Wikiで情報共有すればいい、というわけではないのだ。
誰が何を知っているのか、という暗黙知が知のインデックスカードのような役割を果たしている。
トランザクティブメモリのおかげで、知の探索、つまり、試行錯誤しながら新しい知見を蓄積しいていく試みが可能になる。
つまり、アジャイル開発を実践するには、組織にトランザクティブメモリという性質が必須要件なのかもしれない。
「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」には、ほかにも面白い話がいくつかあるので、その内容も別でメモしておく。
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