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2021/11/23

信頼と心理的安全性は概念が違う

恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」を読んで、「信頼と心理的安全性は概念が違う」ことに気づいた。
ラフなメモ。

心理的安全性はPM理論のメンテナンスの発展形ではないか: プログラマの思索

管理職に求められる能力はPM理論そのものではなかったのか: プログラマの思索

【1】「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」の解説では、日本人の先生が率直に、心理的安全性を知った時、その価値がすぐに理解できなかった、と吐露している。
理由は、信頼と心理的安全性の違いが分からなかったからだ。
なぜ、あえて、心理的安全性の概念を打ち出す必要があったのか?
この違いを理解することは、実践上、とても重要だ、と。

そう、僕もそうだった。
信頼関係のある人間関係であれば、他人に率直に意見を述べることはできる。
いわゆる本音だ。
信頼関係が大事だとみんなが気づけば、心理的安全性という概念をわざわざ言う必要性はないはずだ。

【2】「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」の解説では曰く。
日本の組織でも、イノベーションや創造性が重要だと経営陣は社員に対して言う。
それを実現できないのは、個人の問題なのか?
実際は、経営者は、失敗するな、というメッセージも発している。
つまり、アンビバレントな両方のメッセージを社員に送っているわけだ。
すると、社員は現実上、個人に責任が発しないように、イノベーションのリスクを取らない行動を取る。

この問題の本質は、個人の問題ではなく、チームや組織の問題だ。
チームワークの研究では当たり前の、職場の雰囲気が個人の行動に多大な影響を及ぼす前提を頭では分かっていても、実際のビジネスの現場を通じて、個人の問題に帰属しない、チームや組織の問題があることを理解した、と。

【3】では、信頼と心理的安全性の違いは何なのか?
信頼は、個人が特定の対象者に抱く認知的・感情的態度。
一方、心理的安全性は、集団の大多数が共有すると生まれる職場に対する態度だ。
つまり、心理的安全性は組織文化に由来しているのであって、個人の性格に依存しているものではない。

集団で共有される心理的安全性は、集団全体の行動に影響を与える。
職場に異なる意見を受け入れる雰囲気があれば、メンバーは率直な提案をあげ、周囲はそれに耳を傾け、チーム全体で建設的な議論を交わす。
他メンバーもそういうやり取りを見ることで、違う意見や率直な考えが許される、と感じ取り、その結果、集団全体の活発な議論へ発展する。

一方、個人間に存在する信頼の影響は、あくまでも、信頼できる他者とのやり取りだけに限られる。
個人間の信頼のままでは、会議中は各自が自身の思いを秘めているだけで、チーム全体の活発な議論につながらない。
これでは、組織のポテンシャルを最大限引き出し、独創的なアイデアを実現するのは難しいことは明確だ。

つまり、個人間の信頼のレベルに留めるのではなく、それを集団で最大限に共有することが重要であると認識することが重要なわけだ。

チームワークの研究者は、チームは単なる個人の寄せ集めではなく、分解せずにチーム自体として現象を捉えるべき、と言っているらしいが、それは、バーナードの組織の3要素を思い出す。
人が集まれば組織を形成するわけではない。
共通目的があって、各人が貢献意欲を持ち、他者と対話を取ることができて初めて組織を形成する。
その基盤に、心理的安全性の概念がある。

個人間の心理的現象と集団で起こる心理的現象を明確に区別することが重要だ、という指摘は心に残った。
つまり、心理的安全性は、集団に起こる特殊な心理的現象なのだ。

【4】心理的安全性が重要であるもう一つの理由は、イノベーションを生み出す組織の特徴の一つにメンバーの多様性があるが、多様性だけではイノベーションにつながらず、心理的安全性と多様性が組み合わさって初めてイノベーションにつながる、という指摘だ。

メンバーの多様性が高ければ、常にイノベーションが生まれるわけではない。
多様性の高いチームは、メンバー間の価値観が大きく異なる為、意見の衝突が起きやすく、相手を説得するのも難しい。
つまり、多様性だけでは、メンバーが持つ専門知識を組み合わせてチームとして成果を出すのは難しい。

よって、多様な意見や価値観が存在する時、意見の違いや衝突が起きたとしても、思い切って意見を共有できる雰囲気、つまり心理的安全性が必要不可欠なわけだ。

この指摘は、考えてみれば当たり前なのだが、僕自身が忘れていた説明変数だった。
チームがイノベーションを生み出すには、メンバーの多様性だけでなく、率直な意見を言い合えるような心理的安全性もクリティカルな要素になっている。

【5】心理的安全性が難しい原因は、それが集団に共有された雰囲気であることだろう。
信頼のような個人間の心理的現象と比べて、集団に存在する現象は、個人一人が頑張っても変化を起こすのは難しい。
各メンバーが協力しあって、チームとしての意識的行動が起きて、初めて、心理的安全性が高まる。

しかし、心理的安全性はとても脆い心理状態だ。
たった1人のメンバーの振る舞いで簡単に壊れてしまう。

【6】では、多様性や心理的安全性を持つようなチームを構成するには何が必要なのか?
それは、リーダーシップの重要性だ。
リーダーが組織文化に大きな影響を及ぼすために、リーダーが心理的安全性を維持し続けるように振る舞う必要がある。
また、昨今であれば、各メンバーがリーダーシップを発揮して、協力しあって心理的安全性を生み出す必要がある。

しかし、日本では縦割り社会であり、年功序列制度や脅し、いじめなどが文化として根付いてしまっているために、心理的安全性は非常に作りにくい面があると思う。
特に、チームの中で社会的地位が低いメンバーほど、集団圧力に順応しやすく、周囲に合わせて行動しやすい。

一方、リーダーは力を持っているので、規範から生じる集団圧力にも抵抗しやすく、逸脱した行動も取りやすい。
だから、本来は、チームのメンバーはリーダーになれるぐらいの能力を持っている専門家が望ましいのではないか。

また、リーダーは、心理的安全性は個人の問題ではなく、チームや組織の問題であると捉えて、対処する必要があるのだろう。

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