プリコラージュの対となる概念はエンジニアリングになる
【1】図書館で借りた本でふと見つけた言葉。
「レヴィ・ストロースが提唱したプリコラージュの対となる概念は、エンジニアリングなのだ」と言う言葉にものすごくしびれた。
こういう発想があるとは思わなかった。
Redmineによるチケット駆動開発は、たぶんプリコラージュに近い概念と思う。
一方、ソフトウェア工学のようなエンジニアリングはその対極にある。
【2】「勝つための論文の書き方」では、プリコラージュをこんなふうに説明している。
構造人類学を創始したレヴィ・ストロースは、どんなに原始的に見える未開人の行動や思考にも、それなりの論理と構造があるのだという事実を、フロイトの無意識理論やソシュールの言語論を構造把握の手法として借りて、証明した。
こういうやり方、つまり、他の分野から方法を借用して把握する方法をプリコラージュ、すなわち、素人大工仕事と呼んだらしい。
【3】Redmineでチケット駆動開発を実践するというアイデアは、元々は、多機能化した障害管理ツールをソフトウェア開発のプロジェクト管理全般に適用しようというものだ。
つまり、手元にある道具が割と高機能だったから、これを目の前の問題に当てはめてみよう、みたいな感じから始まったと思う。
そのアイデアは、タスクの発生から担当者のアサイン、プログラムによる実装、テスト、ビルドしてデプロイまでの一連の作業履歴をチケットに全て集約することで実現される。
つまり、チケットは、ソフトウェア開発で発生する全ての作業のライフサイクルを全て包み込む。
チケット駆動開発の適用範囲part4~ウォーターフォール型開発への部分適用の注意点: プログラマの思索
【4】さらに、BTSには集計機能、分析機能が使えることから、データ集計基盤、さらにはソフトウェア工学のデータ基盤として使えないか、という発想に発展させることができる。
元々、障害管理ツールなのだから、バグの傾向分析や信頼度成長曲線は簡単に出力できるからだ。
ソフトウェア・リポジトリ・マイニング~Web2.0をソフトウェア工学に応用する: プログラマの思索
【5】そんなことを考えると、本来はチケット駆動開発は、高機能化した障害管理ツールをプリコラージュした手法に過ぎなかったのに、いつの間にか、ソフトウェア工学を支援できるプロセスに発展できるのではないか、という妄想につながる。
2008年に僕が初めて講演したRedmineでチケット駆動開発を実践する~チケットに分割して統治せよでは、「チケット駆動開発は、中身は古いが新しい衣をかぶったアジャイル開発」と呼んだ内容は、プリコラージュの意味で使っていたのだと今になって気づいた。
2021年の今となってはもう当たり前の概念だし、普通にみんな使っているけれど、こういう考え方で新しく構造化できるのは面白いと思う。
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