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2022/02/18

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想

文庫本「V字回復の経営」をふと読んで、ようやく、なぜ米国企業はことあるごとに、自分たちの経営手法の源流にトヨタ生産方式をあるのだ、とトヨタ生産方式を礼賛するのか、理由が分かった気がした。
一言で言えば、戦前の日本の敗戦と同じく、米国人に日本の経営の手の内は完全に読み取られただけなのだ。
適当なラフな感想。

【1】「V字回復の経営」を読むと、日本企業が官僚化して、世界の潮流から遅れてしまった原因は、設計→製造→販売というサプライチェーンが社内で分断されて、リードタイムが長くなっているからだ、という点に尽きると思う。
だいたい、日本人は、チームワークよりも、専門家として能力を発揮しようという考え方が強いと思う。

実際、大企業として組織の規模が大きくなると、設計→製造→販売の一まとまりのプロセスを一つの組織に任せるのではなく、設計だけの組織、製造だけの組織、販売打系の組織、という形で専門分化しがちだ。
なぜなら、図体だけ大きくなりすぎるから、機能別に組織を細かく分けて、それぞれの専門性を発揮させようとするからだ。
その方が規模の経済を活かしやすく、人も組織もスケールしやすい。
また、専門性を持たせるような組織の方が、仕事の中身が限定されるので、組織のトップとしても人事制度が組みやすいし、戦略も立てやすい。

しかし、大企業になるほど内部組織が専門分化すると、官僚制組織になってしまう。
日本政府のように、コロコロ変わる政治家を無視して、各省庁が勝手に動いて決めて、その結果、戦略性のないまま、あらぬ方向に暴走しやすくなる。
日本の組織論の失敗事例を分析し尽くした本である「失敗の本質」に、その有様が詳しく多面的に書かれている。

【2】では、米国企業は80年代に日本企業に負けた後、どうやって90年代に復活したのか?
米国人は、日本的経営手法を丸裸にして分析し尽くした後、リエンジニアリング、シックスシグマ、サプライチェーン、アジャイル開発など、手を変え品を変えて、その概念を経営戦略やソフトウェア開発に適用してきたのだ。

V字回復の経営」によれば、米国人によって日本の手の内は完全に読み取られた。
米国人は自分たちで、日本解体新書を作り上げてしまった、と。

ちょうど、戦前の日本が、日清戦争・日露戦争で一躍世界に躍り出たものの、第二次世界大戦では日本の暗号を米国に完全に読み取られて、最後は完全にやられてしまったのと同じように思える。

【3】では、米国企業は日本の手の内をどのように分析し尽くしてきたのか?

V字回復の経営」を読むと、4つの観点があると思う。
それは、プロダクトポートフォリオマネジメント、かんばん方式は時間の戦略であると見抜いたこと、バリューチェーンで経営戦略を類型化したこと、ITを駆使して設計も生産も販売も経営も全てリードタイムを短縮化できると見抜いたこと、の4つだ。

【4】プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)

20世紀後半に日本企業が急激に成長したメカニズムは、PPMの発想と同じ。
つまり、日本企業は米国企業と違って、短期的な利益よりも、長期的な観点で、まずは市場シェアの拡大を狙う。

すると、市場シェアの拡大→売上増加→経験曲線効果により単位あたりのコストは低下→低コストの強みを活かしてシェアを拡大する、という一連の拡張ループが生まれる。
米国人のコンサルがこのアイデアをPPMという世界初の経営戦略理論を生み出したわけだ。

【5】かんばん方式は時間の戦略である

米国企業は、日本企業の強さに生産現場での高品質、効率化にあると分かったが、なかなか真似ることはできなかった。
米国の労働者は能力にばらつきがあるし、QCサークルやワイガヤみたいにチームの一体感を生み出すことも難しい。

しかし、米国人のコンサルは、トヨタ生産方式を分析して、かんばん方式の本質は在庫減らしではなく、時間の価値という新しい戦略要素を追求する手法と見抜いた。
企業は時間の戦略によって、新たな競争優位を生み出せる、と導いた。

一般に、ビジネスとは、設計→製造→販売という一連のプロセスから成立する。
ここにカンバン方式が生み出した時間の戦略を当てはめれば、設計→製造→販売というプロセス全体のリードタイムをいかに短くするか、という問題に置き換えられる。

つまり、企業戦略の要素であるヒト・モノ・カネ・情報の次に、時間が大事だと見抜いたわけだ。
この発想は、ビジエスプロセス・リエンジニアリング、サプライチェーンマネジメントからアジャイル開発に至るまで、その背後にあるように思う。

日本の大企業を見ると、組織の図体が大きくなると、設計→製造→販売というプロセス全体のリードタイムが長くなりがちなので、設計だけ、製造だけ、販売だけ、というプロセス単体の効率化に走る。
すると、各プロセスに特化した設計事業部、生産事業部、販売事業部という機能別組織を新たに作ったり、あるいは、設計だけ、生産だけ、販売だけの子会社をたくさん分社化しがちだ。
実際、日本の家電メーカーや自動車メーカーを見れば、生産と販売が分社化されているのがほとんどだ。
今では、家電メーカーも自動車メーカーも、派遣や委託という形で、製造すら、どんどん外部へアウトソースしている場合がほとんどではないか。

すると、どの組織もタコツボ化されてしまい、自分たちの製品を受け取る顧客からどんどん遠くなるので、顧客のことを考えなくなる。
まったく顧客志向ではない。

一方、米国企業は、時間の戦略が重要と概念化し理論化することで、スピード重視の経営スタイルに変革した。
そのやり方は、たとえば、業務プロセスを改革しリードタイムを短縮させるというリエンジニアリングだったり、原材料の仕入れから設計、製造、販売までのプロセスでリードタイムを短縮するサプライチェーンマネジメントだったり、ソフトウェア開発ならばユーザーストーリーで要件をまとめて設計からプログラミング、テスト、リリースまでを一気通貫に開発してしまうアジャイル開発だったりするわけだ。

つまり、製造業の生産プロセスのリードタイムを短縮するという手法を、一連の供給連鎖、価値連鎖、ソフトウェア開発まで一般化することで、よりスピーディに対応できるようにしたわけだ。

【6】バリューチェーンで経営戦略を類型化

一方、ポーターはバリューチェーンを提唱した。
そこから、経営戦略は、ポーターの基本戦略であるコストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略に類型化される。
ポーターの基本戦略からの結論は、99%の企業は差別化戦略しかありえないことだ。

すると、企業は市場においてポジショニング戦略を取ることで、差別化したポジションを取り、競争優位を生み出そうとするわけだ。

【7】ITを駆使すれば設計も生産も販売も経営も全てリードタイムを短縮化できる

他方、90年代から現代まで急激に進化したものは、ITを駆使すれば、設計→製造→販売という一連のプロセスだけでなく、あらゆる業務のリードタイムを短縮できることだろう。
ブルーカラーの生産現場だけでなく、ホワイトカラーの生産性も同様に、トヨタ生産方式を導入することで同じように効率化できる。

たぶん、アジャイル開発がその典型例だろう。
日本のソフトウェア開発では、今もウォーターフォール型開発が典型的であり、請負契約や準委任契約というビジネス慣習の制約もあるために、なかなかアジャイル開発を実践しにくいのが一般的だろう。
IPAの資料にも、アジャイル開発が偽装請負にならないように気をつけるべき注意点を公開していたと思う。

アジャイル開発の外部委託が「偽装請負」だと疑われないためにすべきこと、厚労省が公表した疑義応答集を読み解く(前編)。Agile Japan 2021 - Publickey

ソフトウェア開発ビジネスが他の生産や販売のビジネスと異なる点は、ソフトウェアは販売後でも簡単にリリースした機能を変更できること、製造やコピーというプロセスがないので素早くリリースできて大規模に販売できる点だろう。

この特徴を生かしているのがSaaSであり、GAFAが展開しているプラットフォームビジネスだろうと思う。
そして、アジャイル開発のやり方を自動車業界に展開しようとしているのがテスラであり、彼らは、Appleが「電話ができるコンピュータ」であるスマホを生み出して携帯電話もデジカメも駆逐してしまったように、「移動能力を持つコンピュータ」である電気自動車を生み出してガソリン車やハイブリッド車を駆逐しようとしている。
中島聡さんのメルマガを読んでいると、自動車業界はソフトウェア開発をベースとしたビジネスへ置き換えられるように変わっている時代なのだ、と気付かされる。

テスラが従来の自動車メーカーと異なるところは工場までソフトウェア化すること: プログラマの思索

特に直近30年間では、日本人は世界標準から見てソフトウェアに弱いと思う。
日本ではソフトウェアビジネスやビジネスモデルの基盤にソフトウェアをおくことができていないと思う。
今も日本人はソフトウェア開発とソフトウェア開発に向いた組織づくりに苦闘しているように思える。

【8】そんなことを思うと、日本人がトヨタ生産方式を徹底的に分析できず、米国人にそのアイデアを経営手法やソフトウェア開発手法まで洗練化させて概念化して理論化できたのはなぜなのか、と思ったりする。
なぜ、日本人は融通が効かず、新しいアイデアや環境を取り入れられないのか?
日本人は抽象的な思考能力が低かったからなのか?
正直良くわからない。

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