「大国政治の悲劇」の感想~現代はパワーポリティクスの歴史に戻ったみたいだ
大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司を読んだ。
まさにロシア侵略のウクライナ紛争のタイミングで読むと、彼らがこの本で書いた通りに行動しているのではないか、と思った。
ラフなメモ。
【1】まず最初に断っておくと、この本は672ページという大著であり、注釈だけでも150ページもある。
論文みたいな本だ。
しかし、内容はとてもロジカルだ。
この本のプランは最初の第1章の最後に書かれている。
【2】まず、なぜ国家はパワーを求めて競争するのか、なぜ国家は覇権を求めるのか、という2つの問題を提示し、この問題が国際政治学で重要な根本問題であることを示す。
数学で言えばwell-defined、論文のお作法で言えば、justifyに相当するだろう。
つまり、この本で提示する問題の正当性を示す。
【3】次に、なぜ国家はパワーを求めて競争するのか、という問題を分析するために、2つのことを行う。
一つは、パワーを定義する。
もう一つは、国家が活動する舞台である国際システムにおいて、5つの仮定を置き、そこから国家がどのような行動を取るのか、を導き、最終的に最初の根本問題を解決する。
数学で言えば、公理系を最初に打ち立てて、そこから命題、定理、系を導くやり方に相当する。
僕はこの本を読んでいて、まるで過去に数学を研究していた時のことを思い出した。
数学のやり方はこういう社会科学、歴史学においても使えるのか、と改めてびっくりした。
この本を読んで、気づいた点はいくつかある。
【4】1つ目は、ミアシャイマーが提唱する理論「オフェンシブ・リアリズム」の結論は、国家は機会があれば覇権を求めて行動するので、世界は必ず対立し戦争が起こる。
ただし、その対立構造には、安定した二極世界、安定した多極世界、不安定な多極世界という種類がいくつかある。
【5】2つ目は、ポール・ケネディの「決定版 大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉 | ポール ケネディ」の通り、国家の国力は、軍事力と経済力の2つであり、そのバランスが重要である、ということ。
【6】3つ目は、ハルフォード・マッキンダーが提唱した地政学の理論に似ているな、という点。
オフェンシブ・リアリズムでは、覇権を求める国家はせいぜい地域覇権しか達成できない。
すると、今の世界地図から見れば、米国や英国のような海側から覇権国家を目指す国家と、ユーラシア大陸で覇権を求めるソ連、中国、ドイツ、フランスなどの国家に分別される。
基本は、大陸国家と海側国家の対決構造が必ずあるように思える。
ここで面白い点は、日本は海側国家の立場になり得たのに、実際は朝鮮半島や中国の一部を植民地化して大陸国家を目指そうとしていたことだ。
戦前の日本は、国際システム上では、当初は明治維新の後、西洋列強の植民地にならないように近代化を果たしたが、地域覇権を目指す方向に自然に活動し、最終的には、米国と戦争を起こすという自殺行為で最終的に破綻した。
「なぜ日本は無謀な戦争を決断して負けたのか」という問題は日本の歴史学でいつも問われるが、オフェンシブ・リアリズムの理論では「国際システム上では、国家は必ず覇権を求める行動を取らざるを得ないから、それから逃れることはできない」という結論になると思う。
また、ランドパワーとシーパワーの境目となる箇所がまさに紛争地になるのだろうなと思う。
だから、欧州大陸ではウクライナがNATOとロシアの中間地帯にあるし、朝鮮半島では、朝鮮半島の南部分はシーパワーである米国の影響力の配下にある、という例になるのだろうか。
【7】4つ目は、以前読んだウォルフレンの本「日本 権力構造の謎〈上〉 (ハヤカワ文庫NF) | カレル・ヴァン ウォルフレン」、ハラリの本「サピエンス全史セット【全2巻】 | ユヴァル・ノア・ハラリ」によく似ているな、と思った。
欧米人の歴史学や社会学の本はページ数が膨大で、その内容は非常にロジカルに書かれていて、自分たちの意見もはっきりしている。
しかも、その意見の正当性を示すために、大量の事例や事実を集めて補強しているし、反論されそうな内容は予め予想していてそれに対する反撃の意見と対症療法まで示している。
大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司でも、米国、英国、フランス、ドイツ、ソ連、日本、イタリアの過去200年間の歴史をふりかえり、膨大な事実を自分の意見の正しさの証明に使っている。
そして、こういうオフェンシブ・リアリズムのような、普通の人間にはあまり心地よくない理論の話には反論したくなるが、それに対して、自分の意見の正当性と正しさを説明するために膨大な文章を使ってロジカルに組み立てている。
僕はこういう本は好きだ。
読むのは割としんどいけれど、メモしながら、ロジックの流れを追いかけてみると、最初の5つの仮定から定理が導かれ、最終的な結論まできちんと抑えられているのが分かる。
論文作成の技法part2~論文作成の観点: プログラマの思索
【8】大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司では、最終章で「中国は平和に台頭できるか?」を設けて解説しているが、内容は悲観的だ。
まあ、オフェンシブ・リアリズムの立場ではそういう論理的な帰結になるだろうと思う。
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