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2022/07/31

製造業の業務にスクラムを適用できるのかという疑問~全てのビジネスモデルにスクラムを適用できるのか?

先日、認定スクラムプロダクトオーナー研修を受けてきた。
その中で最も興味を持ち、そして今も半信半疑で理解できていない話は、「テスラの生産は全てスクラムでやっています」というお話。
ジョー先生から、下記のYoutubeを教えてもらったので見た。
以下、理解できていない初心者のラフなメモ。

【参考】
[日本語と英語] Keynote アジャイルコーチが学んだ「Tesla 真の凄さ」?あなたが学んできたアジャイルとTeslaは何が違うのか? ジョー・ジャスティス - YouTube

認定スクラムプロダクトオーナー研修の感想: プログラマの思索

【日本語訳】A day of Mob Programming Subtitles by Joe Justice [No Audio] - YouTube

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想: プログラマの思索

【1】ジョー先生の認定スクラムプロダクトオーナー研修に出た時に一番興味があり、そして今も完全に理解できていない点は、ジョー先生が話されていたのは、テスラはスクラムで電気自動車を製造しています、という話。

先生曰く、テスラでは調達・計画・製造・品質部門は全てスクラムチームで活動し、すべて生産している。
たとえば、材料や部品を購買するチーム、車体を作るチーム、ブレーキを作るチーム、電池を作るチーム、自動運転ソフトウェアを作るチーム、販売するチームなどがある。
それらスクラムチームをサポートするために、カスタマーサポートのチーム、経理チームなどがあり、他にも、各チームにコーヒーを提供するコーヒーサポートチームもあるらしい。

ジョー先生に、生産計画はどうなっているのか?と聞いたら、そんなものはない。
スクラムチームは生物の細胞(セル)のように自己組織化されているから、と。
各チームはそれぞれの部品を作る責務があり、各チームは他チームに必要な部品や素材を要求するために、各チームのプロダクトオーナーが集まってメタスクラムの中で調整する。
下流工程のスクラムチームから上流工程のスクラムチームへ部品や素材を要求して製造されるので、プル生産になっているので問題ない、と。

他にも色々聞きたかったが、僕が疑問点を言語化できていなかったので、それ以上は質問できなかった。

【2】電気自動車がモジュール化できるだろうと推測できても、本当かなと思うが、たぶん僕が分かっていないだけかなとも思う。
でも、この仕組みで本当に高品質に大量生産できるのか、は別問題と思う。

高品質な規格品を大量生産できる仕組みをどうやってアジャイルに構築して、大量生産できるのか?
単純に考えると、普通の大規模製造業では、相当大規模な資金を使って、工場に設備投資して、生産ラインを作って、部溜まりが安定するくらいに生産ラインの設備機械の稼働率も製造メンバーによる生産プロセスも安定させる必要があるが、それをスクラムで実装できるのか?

一方、ソフトウェア開発は結局、人依存であり、メンバーのスキルや能力に品質が比例するし、技術の習熟度合いも比例する。
ソフトウェア開発には設備は殆どいらない。
ソフトウェア企業での規模の経済は所詮、開発者という人員と拠点となる作業場くらいなので、簡単にスケールできる。
しかし、ハードウェア製品の規格品を作る場合、人だけでなく、膨大かつ大量資金の設備が必要であり、それをすり合わせるのが難しいはず。
テスラが自動運転などのソフトウェア技術が優れているのは理解するが、ハードとして本当に実現できているのか?

【3】製造業の業務にスクラムを本当に適用できるのか?
僕の疑問はこれに尽きる。
この疑問を自分なりに分解してみる。

1つ目は、ジョー先生の話を聞くと、製造業のバリューチェーンにある各機能、つまり機能別組織をそのままスクラムチームに単純にマッピングしただけに思える。
一般に普通のメーカーであれば、仕入→計画→製造→販売という主活動のバリューチェーンがあり、購買部、生産計画部、製造部、販売部のような機能別組織で構成されている。
また、総務・経理・人事・企画などの支援活動のバリューチェーンもあり、総務部、経理部、人事部、企画部という機能別組織が構成されている。
ジョー先生の話を聞くと、機能別組織をスクラムチームに編成するだけで、各チームは自己組織化されるように聞こえるが、それら組織は会社として全体最適化されるのか?

たぶん、普通の会社の機能別組織をそのままスクラムチームにマッピングしても、有機的な触媒が簡単に起きるとは思えず、おそらく何らかの前提条件が数多くあるのではないか、と思う。

2つ目は、製造業の生産ラインで重要な点は、生産プロセスを標準化生産に当てはめて安定化させることだが、スクラムを適用してもそれを実現できるのか?
一般に、トヨタ生産方式でもっとも重要なポイントは、需要の変動をなくして、在庫があまり増減せず一定の範囲に落ち着くように、また、設備の稼働率が大きく変動することなく、設備機械が高い稼働率で安定して動かすために、生産量を標準化するように生産計画を立てる。
そういう生産計画なしで、単に、機能別組織を置き換えたスクラムチームだけで、安定的に生産できるのか?

普通に考えると、各機能の組織は個別最適化するように動いてしまって、ボトルネック工程に数多くの在庫を作り出してしまう罠が発生しがちだ。
なぜなら、生産部門の中で、部品加工を行う部署は、高額な設備機械を持ち、部品加工を効率良く行うための手順を持つので、自分たちの生産性を最大限に上げるように動きがちだから。
スクラムチームは生産プロセスを全体最適化するように自然にバランスを取ってくれる保証はあるのか?
もしそれが実現するならば、どんな原理によって実現されるのか?

おそらく、製造業の業務というビジネスモデルの中でも最も複雑な問題をスクラムで解決できるならば、それなりに何らかのノウハウがあるのではないか、と思う。

【4】とは言え、テスラは自動車業界で最も注目されていて、2022年現在の時価総額がNo.1である。
ジョー先生は、テスラの時価総額は、トヨタなどの日本メーカー、アメリカのビッグスリー、ドイツやフランスや韓国のメーカーの時価総額の合計に等しいくらい大きいです、と言っていた。

注目されている理由は、いくつかあるだろう。
以下は自分の推測。

1つ目は、電気自動車という「移動能力を持ったスマホ」という製品がビジネスとして大きなインパクトと可能性があることだ。
電気自動車というハードウェアを一度所有すれば、自動運転ソフトウェアやユーザインターフェイスがスマホみたいに定期的にバージョンアップされるので、いつでも最新の機能を維持できる。
つまり、従来のメーカーによる製品売り切りではなく、バージョンアップされるソフトウェアのサブスクリプションで売上を確保するようになる。
どこかの話では、アップルやテスラの粗利益率が30%以上もあると聞いていて、その理由は、こういうソフトウェアのバージョンアップというオプション、つまり付加価値がとても大きいからだ、という話を聞いた。
つまり、ビジネスモデルとしては従来の自動車メーカーよりもはるかに財務体質は良いことになる。

テスラが従来の自動車メーカーと異なるところ - Togetter

テスラが従来の自動車メーカーと異なるところは工場までソフトウェア化すること: プログラマの思索

2つ目は、他の自動車メーカーにも大きな影響を与えているように見えることだ。
たとえば、ドイツのフォルクスワーゲンは、自動車のソフトウェア化では、テスラよりも劣っているが、日本のメーカーよりも遥かに先に進んでいると聞いたことがある。
その理由は推測だが、フォルクスワーゲンなどのドイツ自動車メーカーはディーゼルエンジンの不正により大打撃を受けたので、従来のガソリンエンジンは捨てるしかなく、電気自動車に賭けるしかなかった、ということではないか。

また、テスラがベルリンに製造工場を作った事件もドイツ自動車メーカーに影響を与えているのではないか。
なぜなら、ドイツ自動車メーカーの工場の生産性よりもテスラの製造工場の生産性の方が圧倒的に大きかった、と聞いている。
すると、テスラを見習って、単に電気自動車を製造するだけではなく、電気自動車の付加価値を高めるソフトウェア基盤の開発が重要なはずだ、と考えて、その方向に一気にカジを切ったのではないか?

【5】そんなことを考えると、他業界のビジネスモデルにもスクラムを適用できるのではないか?と思える。

製造業という数多のビジネスモデルの中でも最も複雑な業務にスクラムを適用できるならば、小売、卸、サービス業、官公庁の業務にも適用できるはずだ。
単純に連想すると、経営コンサルタント業務のように、高度な専門知識を持った人が集まって、少人数のチームを形成してアウトプットを出す業務には、スクラムはすぐに適用できるはずだ。
なぜなら、ソフトウェア開発チームの特徴にコンサル業務がとてもよく似ているからだ。
設備はほとんど不要で、必要なものは、各メンバーに高度な専門性を持つ技術があるかにかかっているからだ。
つまり、コンサル業務のチームにスクラムをそのまま適用すれば、今の大規模スクラムのノウハウをそのまま適用するだけで、コンサルビジネスもスケールできるはずだろう。

製造業でスクラムを適用できるならば、小売スーパーや飲食店、理髪店やネイル店、旅館などの中小企業が多いサービス業の業務にも簡単にスクラムを適用できるはずだ。
特に労働集約的な業務には、スクラムチームで編成し直して、メンバーの生産性を高めるように持っていけるのではないか。
スクラムチームはプロダクトオーナー、スクラムマスター、チームメンバーの3つの役割だけから構成されていて、少人数なチームで構成されるので、それらのサービス業のメンバーにも適用できるのではないか。

この辺りも単純なアイデアに過ぎないけれど、たぶん既に他の人達がやっているに違いないと思う。
色々事例を探してみたいと思う。

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