« Javaのラムダ式の考え方 | トップページ | 「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想 »

2022/08/23

地政学の考え方~近代以後の世界史はランドパワーとシーパワーの戦いである

地政学(GeoPolitics)について色々読みまくった結果、地政学―アメリカの世界戦略地図が一番わかりやすかった。
地政学の考え方とは「近代以後の世界史はランドパワーとシーパワーの戦いである」と腹に落ちた。
ラフな感想。

「大国政治の悲劇」の感想~現代はパワーポリティクスの歴史に戻ったみたいだ: プログラマの思索

映画「ひまわり」は名作だった: プログラマの思索

【1】地政学(GeoPolitics)の基本的な考え方とは何か?

【1-1】地政学は、世界地理と政治学が合体した学問なので、国同士の地理的環境が大きく依存する。
しかし、マッキンダーの原著「マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実 | ハルフォード・ジョン マッキンダー」も読んでみたが、僕には読みにくかった。
地政学の考え方がよくわからなかった。
地理的環境がどのようにパワーポリティクスと関係するのか、イメージしにくかったから。

一方、地政学―アメリカの世界戦略地図では、マッキンダー、ハウスホーファーから現代の学者に至るまでの主張を時系列に整理してくれていて、彼らの世界観はこうなのだ、と一言で説明してくれているので、地政学の初心者にとって理解しやすかった。
特に、マッキンダーの世界観を表した地図を図示化してくれているのがとても助かった。

【1-2】地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、マッキンダーの考え方では、世界地図を見て、ユーラシア大陸を本島、英国・北米・南米・豪州・日本はユーラシア大陸を囲む島々とみなす。
アフリカのサハラ砂漠をラクダで交通する海のようなものをみなせば、アフリカの南半分は島になる。

すると、本島(ユーラシア大陸)の勢力と、それを囲む島々の勢力が互いに戦うという考え方につながる。
ここから、本島=ユーラシア大陸=ランドパワー、英国・北米・南米・豪州・日本などの島々=シーパワーに分類される。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、コロンブス以後の世界史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史になる。
特に、1870年以後の近代世界史では、鉄道網を持つランドパワーの国と艦隊を持つシーパワーの国の闘争の歴史とみなせる。
つまり、地政学では、交通網の手段によって地理的環境を区別しているように思える。
一方、近代以前の世界史では、強力な騎馬隊を持つ遊牧民族と豊かな穀物を持つが戦争に弱い農耕民族との闘争の歴史になる。

たとえば、19世紀後半は、不凍港を求めるロシア帝国(ランドパワー)を、最大の植民地を持つ英国(シーパワー)が世界各地で対立していた。
そして20世紀後半は、ソ連(ランドパワー)と米国(シーパワー)による冷戦の歴史が続く。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、ランドパワーとシーパワーの対立は相性が悪く、長く続きやすいらしい。

【2】地政学の考え方から何が導かれるか?

地政学―アメリカの世界戦略地図を読むと、いくつかの主張が興味深かった。

【2-1】1つ目は、シーパワーとランドパワーが交錯する部分は紛争地域になりやすいこと。

たとえば、マッキンダーは、欧州大陸をユーラシア大陸から突き出たラテン半島とみなして、ラテン半島の付け根に当たる東欧を制するものが世界を制すると主張した。
この主張を考慮して、現在のウクライナ紛争を眺めると、NATO諸国とロシアの境目に当たるウクライナが紛争地域に該当することになる。

また、朝鮮半島も同様。
ロシア、中国のランドパワーの支援を受けた北朝鮮と、米国、日本のシーパワーの支援を受けた韓国が対立している。

あるいは、パレスチナ地域のように、トルコやイラン、ロシアなどのランドパワーの国々と、湾岸諸国やイスラエルなどのシーパワーの国々が交錯する地域は、紛争地域に該当することになる。

【2-1】2つ目は、シーパワーの大国である米国が冷戦時代にソ連と対決した政策には、封じ込め政策(Containment)があるが、この考え方の背後には、リムランドを制するものが世界を制するという考え方があること。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、リムランドとは、シーパワーとランドパワーが交錯する地域を指す。
一般に、「危機の弧」(arc of crisis)、「不安定の弧」のことを指す。
具体的には、ユーラシア大陸の縁に当たる朝鮮半島から東南アジア、インド半島、イラン、トルコ、バルカン半島、ウクライナに当たる地域を指す。

不安定の弧 - Wikipedia

つまり、米国は危機の孤であるリムランドは軍事的衝突が起きやすい地域とみなし、それに対する戦略を練っていることになっている。

【3】地政学の観点では、日本はどのような立ち位置にあるのか?

明治維新から第二次世界大戦の敗戦に至るまでの日本の近代史は、地政学の観点から見れば、その政治的意志が非常に理解しやすいと思う。

【3-1】なぜ、明治維新の立役者たちは、あれほど朝鮮半島の進出にこだわっていたのか?

大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司によれば、明治時代に日本の陸軍を支援したドイツ将校は「朝鮮半島は日本の心臓を突き出す短剣である」と言ったらしいが、そのような考え方にその頃の日本人は取り憑かれていたわけだ。
実際、山県有朋は朝鮮半島を利益線とみなし、主権線だけでなく利益線も保護するために軍備拡張が必要と主張したわけだ。

61.日清戦争

たぶん、西欧列強がどんどん植民地を拡大しつつある時代において、近代の日本人は悪戦苦闘していたのだろう。
地政学の観点から見ると、近代の日本の歴史は、シーパワーである日本列島から、ランドパワーの朝鮮半島、満州、中国大陸へ進出していく流れに該当し、その力学から逃れられなかったことになるだろう。

【3-2】なぜ、日本は満州にあれほどこだわったのか?

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー) | 半藤 一利によれば、15年に渡る日本の戦争の背後には「赤い満州がある」と言っていた。
満州には農産物や鉄、石炭などの主要な資源があり、日本の近代化に欠かせないものだったから。
一方、地政学の観点から眺めると、満州が朝鮮半島の付け根であり中国大陸と朝鮮半島の境目に当たり、マッキンダーの主張「半島の付け根に当たる地域を制するものが世界を制する」と合致するからだ。
満州が安定しなければ、朝鮮半島も安定しないし、その余波で日本も安定しない、という理屈を当時の日本人は持っていたのだろう。

【3-3】なぜ、日本は負けると分かっていた太平洋戦争に突入してしまったのか?

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、日華事変でランドパワーの中国まで手を伸ばし、東南アジアや太平洋島嶼部などのシーパワーまで進出しようとして、シーパワーの米国と対立したから、ということになる。
大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司を読むと、近代の日本が気にかけていたのは安全保障であったが、当初は日本近海に過ぎなかった領土的野心が東アジアや東南アジア全体まで波及して独裁的に侵略していった流れに逆らえなかった、という理屈になっている。

【3-4】現代の日本は地政学の観点ではどのような立ち位置を取るべきか?

パワーポリティクスや地政学の中で日本の立ち位置を見ると、英国が欧州大陸から離れてシーパワーの大国として、大陸諸国間の勢力均衡政策に従事したように、日本もアジア大陸から離れてシーパワーの国として、勢力均衡政策を取るのが望ましいのではないか。

そのような地政学の観点で眺めると、安倍首相が、日米豪印の協力枠組み「クアッド」を創設し、太平洋とインド洋に渡るシーレーンの重要性を主張した点は、先を見通した良い戦略と思う。
具体的には、日米豪印のクアッド(シーパワー)は、中国(ランドパワー)の一帯一路構想に対抗する、地政学上の戦略に対応付けられるだろう。
つまり、ランドパワーの中国に対抗して、シーパワーの日本、米国、豪州とリムランドのインドが連携して対抗するという勢力均衡政策を実現できたからだ。

また、「自由で開かれたインド太平洋戦略 - Wikipedia」という標語のおかげで、クアッドの正当性の根拠に、専制国家と民主主義国家という軸の違いという考え方を裏付けることができたわけだ。

安倍元首相が主導した日本の大戦略を、国際政治の理論から再評価する ? SAKISIRU(サキシル)

中国の覇権を止められる政治家はほかにいない…安倍元首相の死で、インドは国を挙げて一日中喪に服した 日本は「インド太平洋とクアッドの父」を失った | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

米豪印首脳が安倍氏評価 「クアッド創設に尽力」 - 産経ニュース

そんなことを考えると、地政学の考え方は、20世紀までの世界史だけでなく、今後の国際政治にも使える考え方なんだなと思う。

|

« Javaのラムダ式の考え方 | トップページ | 「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想 »

ビジネス・歴史・経営・法律」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« Javaのラムダ式の考え方 | トップページ | 「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想 »