新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝 | デービット・アトキンソンを読んだ。
アトキンソン氏の中小企業再編成論は、生産性向上は、解決策となる処方箋を提示していると思う。
アトキンソン氏のロジックを理解した内容で書く。
気づきをラフなメモ。
【参考】
「中小企業の生産性向上」が日本を救う根本理由 | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
【1】日本経済が30年以上低成長である問題とその原因について、色んな有識者が数多くの意見を述べてきた。
アトキンソン氏の主張は簡単だ。
日本は少子高齢化社会で人口が増えないどころか減少する時代に入ったのに、従来と同じ仕事のやり方で生産性を上げてこなかったから、GDPが伸びない。
今後の日本は、GDPを増やすよりも、少なくなった人口で生産性を高めて賃金や収入を増やす方向へ変換すべきだ、と。
ロールモデルとなる国は、先進国で唯一人口が増えている米国ではなく、1億人に満たない中堅国である欧州諸国だ。
なぜならば、欧州諸国は人口規模が小さいので、GDPという規模では米国や中国に負けるが、1人あたり生産性、1人あたりGDPではトップクラスにあるから、と。
一方、アトキンソン氏の中小企業再編成論を批判する - 同友館では、中小企業診断士または商工会議所の立場から、アトキンソン氏が主張する中小企業政策を批判しているが、重箱の隅をつついている感じを受けた。
また、アトキンソン氏の「中小企業は再編すべき」という説を徹底検証 | 識学総研でもアトキンソン氏の主張を批判しているが、重箱の隅をつついている感じは同じだった。
【2】アトキンソン氏の主張の一つは、労働参加率は頭打ちなので、労働生産性を高めるべきだ、という内容。
1人当たり生産性は下記の公式で因数分解できる。
1人当たり生産性=GDP/総人口=GDP/生産人口 x 生産人口/総人口=労働生産性 x 労働参加率
労働参加率は失業していない人の生産量に貢献する。
なぜならば、生産人口=総人口-高齢者-子供-失業者(専業主婦や女性なども含む)だから、総人口が減っても、生産人口を増やせば、GDPに貢献する。
たとえば、安倍政権のもとで女性活躍推進政策、70歳までの高齢者の雇用努力政策などを進めることで、女性や高齢者を勤労者として流入させてきた。
しかし、日本の労働参加率は世界的に見てもトップクラスであり、これ以上増やすことは難しい。
一方、労働生産性は働いた人の生産量に貢献する。
つまり、労働生産性は労働者1人当りの年収、時給に相当する。
日本の時給、年収は、先進国の中でも低いレベルなので、伸びしろがあり、ここにテコ入れする価値がある。
アトキンソン氏によれば、2050年頃の日本の経済を今のレベルで維持するには、最低時給は2500円まで上げる必要があるだろう、と書かれていてビックリした。
今のサラリーマンの残業代の時給は正直3千円程度だろうから、それくらいまで増やすべきなのだ。
安倍政権の頃から続く最低賃金引き上げの政策は、会社経営の問題ではなく、経済政策の問題である、という認識を持つことが重要だ。
経済政策であるという認識が、今の日本の経営者にはない。
なぜならば、労働者の収入を増やすことで、労働生産性を高めて、最終的には生産性を高めるべきだからだ。
【3】アトキンソン氏のもう一つの主張は、日本経済が低成長である真因は中小企業が多すぎる点だ。
これが日本病の正体だ、と言う。
実際、中小企業白書を見れば分かるが、企業数の99%、労働者の70%は中小企業に属する。
だから、今までの日本政府は、中小企業を弱者とみなし、数多くの補助金、税制上の優遇政策などを実施してきた。
しかし、その効果があまり出ていないどころから、足を引っ張っている。
【4】中小企業が多いと、経済にどんな悪影響があるのか?
たとえば、会社規模が小さく、財務基盤が弱いので、設備投資しにくい。
工場の新たな機械に投資しないから、生産性は上がらない。
社員教育に投資しないから、社員の能力は伸びないし、社員の給料も上がらない。
ITシステム投資をしないから、消費税の納税、インボイス制度、電子帳簿制度に反対する。
特に、中小企業がIT投資しにくい点は、今後大きな問題になるだろう。
中小企業は会社規模が小さいので、輸出しにくい。
なぜならば、輸出するには一定の資金、ある程度の設備、ある程度大人数の能力ある社員が必要なのに、会社規模が小さく、社員数が少ないので対応できないからだ。
輸出できなければ、外貨が稼げないので、GDPに貢献できない。
特に、2022年度現在、記録的な円安なのだから、もっと輸出していくべきなのに、輸出できる基盤を持つ中小企業が少ないので、その機会を活かせていないのだろう。
【5】中小企業が多くなる原因は何なのか?
たとえば、中小企業は税制上の優遇が多い。
交際費は800万円まで経費とみなされるし、接待飲食費の50%は損金として認められる。
また、補助金の種類も多い。
コロナ禍では持続化給付金がよくあがった。
これらの税制の優遇、補助金の支援は、中小企業が規模を拡大していくインセンティブを失わせる。
本来は、最初は中小企業であっても、事業を拡大していけば、規模の経済を活用するように社員を増やし、設備投資して、どんどん会社を大きく成長していくべきなのだ。
しかし、中小企業という小さい規模の方が、今の日本ではあまりにもメリットが大きすぎるために、あえて中小企業になっているケースが多い。
最近よく聞かれるマイクロ法人は、税制上の優遇を使って経費削減するためのノウハウとして活用されている。
本来はそういう仕組ではないはずだ。
【マイクロ法人設立で節税】個人事業主と二刀流のメリット・違法性を解説
すると、企業数が多くなるので過当競争になりやすい。
つまり、低価格競争になりやすいく、労働者の賃金が抑えられて、労働者の年収も増えない。
むしろ、労働者を低賃金で長時間労働させるようなブラック企業をのさばらせることにつながる。
本来は、そういうブラック企業は市場から退出させるべきだ。
しかし、中小企業を破綻させないように延命させる制度を数多く用意しているために、労働者にとっても都合の悪いブラック企業が残り続けることになる。
だから、最低賃金を上げることで、その最低賃金も払えないような企業は市場から退出させるべきなのだ、というロジック。
今後の日本は少子高齢化で、人口も減っていくので、国内市場はどんどん小さくなっていく。
中小企業の数を減らさない政策を続けると、過当競争に陥りやすく、労働生産性を上げることもできない。
だから、中小企業をM&Aなどで統合していく政策が必要になるだろう。
実際、最近の中小企業が自主廃業するケースが増えているために、中小企業庁も、事業承継やM&Aを積極的に推進する政策を取っている。
また、事業承継士のような資格も出てきていて人気があるらしい。
事業承継センター|資格取得講座・無料ガイダンス
たぶん、今後20年くらいは、事業承継やM&Aの仕事が多くなるだろうと思う。
【6】アトキンソン氏のもう一つの政策は、観光政策を充実させることだった。
安倍政権のもとで観光政策を推進して、2019年には3千万人以上のインバウンド客を取り込んできた。
このおかげで、特に地方は外貨を稼げるようになったように思う。
観光政策を提唱したのはとても良い案だと思う。
よく知られているように、日本は四季の季節ごとに観光地がたくさんあり、神社仏閣も多く、食事も多彩で美味しいし、観光資源が充実しているからだ。
交通の便利さ、Wifiやトイレの設置、英語などの案内などの設備投資を行えば、観光客がSNSで勝手にマーケティングしてくれるので、相乗効果を得やすい。
コロナ禍で観光政策は下火になったが、2022年に記録的な円安になったから、海外から観光客を呼び込めば外貨を稼げるはず。
しかし、昭和の時代に重工業製品やハイテク製品の輸出で外貨を稼いできたのに、平成や令和の時代は観光政策でしか外貨を稼げないのは情けない気もするが。
【7】アトキンソン氏の意見で興味深いのは、日本人は真面目で頑固なのに突然変化するのはなぜなのか?という問題の原因分析。
たとえば、江戸末期の尊皇攘夷と開国の論争では、明治維新になると突然、文明開化に変わり、近代化を推し進めた。
たとえば、太平洋戦争で鬼畜米英と言っていたのに、戦争に負けたら、突然欧米と仲良くなり、高度経済成長を推し進めた。
なぜ、日本人はそれまで頑固に態度を変えないのに、急に態度を変えてしまうのか?
アトキンソン氏によれば、日本人は面倒くさいと思ったからでは、と言う。
つまり、今までのルールや価値観を変えるのは面倒なので、いくら正論を言われても、なかなか変えられない。
ちょうど、総論賛成各論反対の状況と同じ。
しかし、問題が大きくなって手に負えなくなる事態になると、いくら面倒くさいと思っても、状況を変えないと、どんどん状況が悪化して損をする。
つまり、実際に問題が手に負えない時点になると、急に方針転換して、まるで問題がなかったかのように、急激に物事が変わっていくように、どんどん政策が実行される。
戦前の日本人の気質はまだ成熟していない青年期と同じだった: プログラマの思索
一方、欧米人は原理原則、価値観を重視するので、主義主張がマキャベリストみたいに変わることはない。
だから、欧米人は対立が激化したら、戦争が起きやすいタイプなのだろう。
【8】アトキンソン氏の書籍を読むと、経済政策や財務にとても詳しく、統計データを元にロジカルに説明してくれるのでとても分かりやすいと思った。
最近のコメント