« 2023年12月 | トップページ | 2024年2月 »

2024年1月

2024/01/02

マイクロサービス設計は従来のアーキテクチャ設計と何が違うのか

マイクロサービスの設計は理解できていなかったし、今も理解が中途半端。
理解できたことだけをメモする。
ラフなメモ書き。

【1】「ソフトウェアアーキテクチャ・ハードパーツ ―分散アーキテクチャのためのトレードオフ分析」を友人と輪読しているが、まだ理解できたという気がしない。
今までのオンプレ環境で業務系Webシステムの設計や開発をしてきた経験、Java+Oracle+Linuxでベタに開発した経験をベースに理解しようとしていた。

そういう観点で読むと、「8章 再利用パターン」が一番理解しやすい。
なぜならば、コンポーネントやサービスの再利用性は、オンプレ環境のWebシステムであれ、クラウド環境のマイクロサービスであっても、同様の観点が通じるからだ。
たとえば、バージョニング戦略は、まさにソフトウェア構成管理と同じ。
後方互換性を見極める、Javaの非推奨(deprecated)のアノテーションのように廃止されたAPIは使わない、枯れた最新バージョンを使う、定期的にパッチ収集とパッチ適用の運用ルールを定める、とか、どこでも同じ。

しかし、マイクロサービスの本質はそういう所ではないはず。

【2】マイクロサービスを僕が理解できない原因は2つあると思っている。
まず、マイクロサービスを実装したモデルを考えようとすると、AWSサービスを使った実装を考えることが普通。
しかし、AWSサービスに特化しすぎると、AWSはサービスが多すぎて、どの場面にどのサービスを使うと良いのか分からなくて、混乱してしまい、何が重要なのか分からなくなる。

他方、AWSサービスのような具体的なサービスを外して、抽象的なマイクロサービス設計技法を考えると、逆に具体的なイメージが思い浮かばず、ふわふわした議論になってしまう。
オンプレ環境の経験を元に比較理解しようとするだけで、その本質までたどり着けない。

マイクロサービスの直感的イメージは、一昔前のSOAPでやり取りするWebサービスとほぼ同じと思っている。
現在なら、SaaSはほとんどがマイクロサービスで実装されているのではないだろうか。
たとえば、検索サービス、顧客サービス、商品サービス、在庫サービスなど、リソースやイベントの単位で区切られたドメインをマイクロサービスへ分割し、それらの間はRESTでデータをやり取りし協調しながら1つのユースケースを実現しているイメージ。
だから、マイクロサービスだからといって、そんなに難しかったり、高尚な概念でもないはず。

では、現代のクラウド上のマイクロサービス設計では、かつてのオンプレ環境のWebサービスと何が異なるのか?
ここさえ抑えれば理解できる、と思える本質的内容は何なのか?

【3】「絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」を読みながら、理解したことを書いておく。
今の自分のレベルではこれくらい噛み砕いたレベルでないと理解しにくかった。

絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」で自分に響いた内容は3つ。

【4】1つ目は、マイクロサービスは、数秒後から数時間後に動機が取れていればいいとする結果整合性が許容できる場面で活用すべき。
つまり、マイクロサービスではACID特性を厳格に守るのは難しいし、そういう場面では有効とは言えない。

よって、マイクロサービスが使えるユースケースは、業務が並列処理で動作しても良いケース、頻度は少ないが一時的にアクセス数や負荷がかかる時にCPUやメモリを動的に増やすスケールアップやサーバ台数を動的に増やすスケールアウトするケースなどだろう。
すなわち、性能要件を動的に拡張したいケースが当てはまるのではないか。
AWSやAzureのようなクラウドであれば、そういう拡張は、クラウド基盤が提供するマネージドサービスで簡単に実現できる。

一方、デメリットは、ACID特性ではなく結果整合性でしか担保しないので、基幹系システムでは難しいかもしれない。
たとえば、あるマイクロサービスで障害が起きてデータの不整合が発生した時、ロールバックをDBMSやフレームワークではなく、自分たちで作り込む必要があるかもしれない。
絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」では、異常系処理やロールバック処理を補償トランザクションで実現する方法が紹介されていた。
この辺りは実際の実装方法がよく分かっていないが、結局、自分たちでフレームワークを組み込んでいるのと同じような印象を受ける。

【5】2つ目は、コンテナオーケストレーションは、複数コンテナをクラウド基盤のAPIやマネージドサービスで制御する設計思想であること。

絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」では、コンテナ<Pod<ノードの順でグループ化されていた。
すると、複数のコンテナを手動で管理するのは面倒だし、ミスも多くなる。
また、頻度は少ないがアクセス数が一時的に増える場合にスケールアウトするようにコンテナを動的に増やす場合、コンテナのIPアドレスは一時的に付与されるので、管理する手法も特有の考え方が必要になるだろう。
よって、複数のコンテナをAPI経由のプログラムで一括管理したくなる。

そこで、コンテナオーケストレーションという概念で包括的に管理する。
絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」では、コンテナオーケストレーションを適用するユースケースとして、
・コンテナの作成とデプロイ
・負荷に応じたスケールアウトやスケールダウンやロードバランシング
・ホストやコンテナのヘルスチェック
があげられてたい。
つまり、動的にコンテナを作成しデプロイして、負荷に応じてスケールアウト・ダウンし、負荷分散させる。
また、コンテナのヘルスチェックのように、サーバー監視の管理サービスも実現してくれる。

コンテナオーケストレーションの実装例としてKubernetesがあげられている。
Kubernetesの優れた汎用的な機能のおかげで、AWSでもAzureでも一般的なクラウドにもコンテナ群をそのまま移行できる、という発想なのだろう。
コンテナの実装は、yamlやJasonなどでドメイン特化言語のように記載されて実現されるのだろう。
それゆえに、yamlなどのドメイン特化言語で、マイクロサービスのコンテナ群を全て実装すれば、検証環境であれ本番環境であれすぐにクラウド上に実装できるはず。

ではそれで全ての問題が解決するのか?
変化の早いビジネス環境において、マイクロサービスを組み合わせることで即座に稼働しやすいだろうが、複雑性は増すだろう。
数多くのコンテナを協調させながら稼働させるには、コンテナの中身を記載したyamlは相当複雑になるだろう。
一昔前に、Antでビルド&デプロイのタスクを書いていた時、宣言的に書いて楽だなと思っていたのに、環境が増えるごとにIF文がAntタスクに紛れ込んでどんどん複雑化したような経験を思い出す。
たぶん、それに似たような事象がKubernetesでも起きるのではないか、と思ったりする。

【6】3つ目は、サーバレスアプリケーションはBPMNのようなワークフローに並列処理を組み合わせたワークロードみたいなものではないか、と思う。

絵で見てわかるマイクロサービスの仕組み」では、サーバレスアプリケーションの基本アーキテクチャは、BaaSとFaaSの2種類があげられている。
BaaSは外部サードパーティのサービスを使うパターン。
FaaSはビジネスロジックをイベントドリブンで実装するパターン。

BaaSはたとえば、Googleアカウント認証やTwitter認証などの外部認証サービス、PayPalのような外部決済サービスがあげられるだろう。
外部サードパーティサービスの方がセキュリティ要件も性能要件もいいならば、そちらのサービスを利用することで、ユーザの利便性も増すだろう。
他方、ユーザ認証やクレジットカード情報を自社システムに持たないデメリットがあるので、顧客情報をより包括的に収集できないデメリットもあるだろう。

FaaSは、BPMNのようなワークフローに並列処理を組み合わせたワークフローに思える。
マイクロサービスをつないで、イベント駆動でマイクロサービスをキックし、一連の業務が流れる感じ。
その場合、並列処理で動くので、商品を購買している間に、検索したり、在庫に問い合わせたりして並列で動かすケースもあるだろう。

サーバーレスアプリケーションはFaaSを想起させる。
AWSならLambdaになるのだろう。
メリットは、アプリケーション開発者はアプリ層のマイクロサービスの実装だけに特化すれば良く、インフラ基盤は考えなくてもクラウド基盤がマネージドサービス等で勝手に管理してくれる、そういうイメージなのだろう。

他方、開発時のデバッグや障害時の復旧はかなり面倒になることが想像される。
複数のマイクロサービスを通したシステム全体テストをやるには、ローカルPCでは無理で、クラウド上に本番同等の検証環境が必要になるだろう。
その分コストも増える。
また、イベントドリブンで連なる一連のマイクロサービスのうち、途中のマイクロサービスで障害が発生して、データの同期が取れなくなった場合、データのロールバック処理は複雑になるだろう。
本来は、データ復旧や障害復旧もクラウド基盤が勝手に自動で上手くやって欲しいが、手作業で設計して入り組んだ複雑なワークフローになっていると難しいだろう。

そんなことを考えると、全てがバラ色の世界ではないだろうと思う。

【7】マイクロサービス設計は従来のアーキテクチャ設計と何が違うのか?

違いの一つは、マイクロサービス設計では、インフラ基盤をクラウドのマネージドサービスで自動化したり、APIで監視サービスやコンテナオーケストレーションを実装できる点にあるだろう。

つまり、従来のオンプレ環境のインフラ基盤は、アプリ開発者の手によって操作できるようになった点が違いになるだろう。
アプリ層からインフラ層まで全て、アプリ開発者がコントロールできるようになったこと。
そんな開発者はフルスタックエンジニアと呼ばれるのだろう。
また、DevOpsとは、そういうフルスタックエンジニアがアプリ層からインフラ層までコントロールして、開発も運用も一体化するプロセスを指すのだろう。

| | コメント (0)

« 2023年12月 | トップページ | 2024年2月 »