PM理論で読み解く日本人リーダーの弱点
多くの日本人リーダーは、管理しすぎるか放置するかの両極端に陥りがちだ。
その背景には、日本特有の組織文化と育成環境がある。
PM理論とアジャイルの視点から、これからのソフトマネジメントスキルを考える。
【1】組織論の中で、日本人が生み出した唯一の理論がある。
それが三隅二不二のPM理論だろう。
リーダーシップ論に当たる。
定量的に集めたデータを下に統計処理して生み出した社会学の理論だったからこそ欧米でも受け入れられたのだろう。
【2】PM理論が教えるところでは、リーダーシップの傾向には2つある。
タスク志向とメンテナンス志向。
タスク志向は業績重視、仕事重視、成果重視。
メンテナンス志向は、人間関係志向、チームワーク志向。
PM理論はもはや古典的であって、現代では使えない代物と思っていた。
しかし、実は、PM理論は、チームビルディングにおいてリーダーがリーダーシップを発揮する時に使えるのではないか?
その理由や経緯を書いてみる。
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【3】ファシリテーション協会のイベントで、チーム運営のワークショップがあった。
チーム運営では、リーダーは上司であるマネージャの指揮命令系統の配下にあり、メンバーに対して指揮命令できる権限を持つ。
つまり、リーダーはまさに中間管理職に当たる。
そういう指揮命令系統の前提で、あるアウトプットを出す。
では、リーダーはどのようなリーダーシップを発揮して、チーム運営すべきなのか?
ほとんどの日本人はリーダーシップ経験が非常に少ないので、たぶん、両極端になりがち。
つまり、メンバーに細かく指示して管理したがるマイクロマネジメントのタイプ。
または、和を重視して、メンバー内でいざこざを起こさないように事勿れ主義になり、何も指示しない自由放任のタイプ。
マイクロマネジメントのリーダーは、タスク志向だけでメンテナンス志向がない。
メンバーに配慮せず、成果重視、業績重視だけでメンバーに指示する。
資本主義社会で営利企業に勤めている限り、売上重視、利益重視になりがちなので、そういうタイプのリーダーは多いだろう。
日本では、終身雇用や社会保険のためにそういう風習がまだ残っているかもしれない。
しかし、メンバーは口うるさい上司に従っているだけで、心の中では反発しているだろう。
メンバーを配慮するメンテナンス志向が欠落している。
一方、自由放任のリーダーは、マイクロマネジメントに反発しているせいなのか、メンバーに何もしない。
最低限の指示だけであって、助言やフィードバックもない。
すると、メンバーは好き勝手に振る舞うことになる。
メンバーは遅刻しても、勤務中に新聞を読んでも、居眠りしても怒られない。
結果的に、チームとして意味をなさなくなる。
つまり、名ばかりのメンテナンス志向だけであって、タスク志向が欠落している。
よって、PM理論は、タスク志向とメンテナンス志向の両方のスキルが必要だ、と示唆している。
【4】なぜ、日本人のリーダーは両極端になりがちなのか?
ソフト・マネジメントスキル: こころをつかむ部下指導法 | ロッシェル カップを読んでその理由が分かったような気がした。
ソフト・マネジメントスキル: こころをつかむ部下指導法 | ロッシェル カップによれば、日本人は子供の頃から、集団のしつけが厳しい環境で育てられる。
アメよりもムチが多い。
すると自分がムチで育てられてきたので、自分が指導者になっても同様に部下を罰してしまう指導しかできない。
日本人マネージャのマネジメントスタイルは、部下をマイクロマネジメントするか、部下を放置するか、どちらかの両極端になりがち。
その原因は、最初の上司にそのように扱われたために、マイクロマネジメントの方法しか知らないのか、逆にそのマイクロマネジメントスタイルに反発して、何もしない放置プレーに走ってしまうのではないか。
つまり、日本人マネージャは人間関係を通じて部下の行動を変化させるソフトマネジメントスキルを教わった経験もないし、受けた経験もない。
そういうソフトマネジメントスキルがある人も稀にいるが、多分、最初の上司が優れた人だったか、自分自身にソフトマネジメントスキルの素養があったのか、どちらかに限定されるだろう。
採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの | 伊賀泰代でも、日本人にはリーダーシップの能力が決定的に欠けているという指摘があったのを思い出す。
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現代日本人の弱点はリーダーシップ不足と生産性が著しく低いこと、そしてリスク許容度が著しく低いことだ: プログラマの思索
また、日本人の組織は上限関係が強すぎる。
先輩後輩、年長年下、の上限関係は、言葉遣いを見ればすぐに分かる。
日本人は、目上の人に敬意を示す行動は多いが、目下の人、目上でない人へのコミュニケーションが下手だ。
日本人は以心伝心に頼りすぎだ。
腹芸、阿吽の呼吸。
今まで同じ背景を持つ人の組織に慣れすぎている。
だから、フィードバックというソフトマネジメントスキルを通じて、部下を影響させる技術を持っていない。
【5】米国では人事制度や評価制度を整備して、能力がある人には報酬を増やす制度を充実させて、労働者にアメを与える仕組みを整えてきた。
他方、日本では、能力評価制度や実力主義の人事制度は、リストラや賃金カットの手段として否定的に捉えられている。
つまり、日本人は会社の人事制度や評価制度を根本的に信用していない。
その背景には、彼らが上司から粗雑に扱われてきた経緯があるし、会社も内発的動機に働きかける制度作りやその運用方法を知らないし実践できていないからだ。
日本企業は今まで、年功序列に従う賃金報酬、長期雇用の人事制度に頼って、社員を管理してきたと言われる。
でも、僕は、年功序列、長期雇用の保証という組織人事制度は、嘘だろうといつも思っている。
たぶん年功序列の長期雇用の保証制度は、昭和の世代までであって、今までの会社で見たことがない。
年功序列で長期雇用を保証されているから、社員を大切にし、福利厚生を充実させて、社員教育も充実させてきた、と多数の本で言われてきたが、実際の現場で見たことがない。
実際、日本人の大半は中小企業に所属していて、公務員や大企業のような恵まれた環境で働いているわけではない。
たぶん、かなり大手の大企業で羽振りの良い環境に限られていると思う。
日本企業は、年功序列や長期雇用の保証により、社員の忠誠心を保ってきて、それに依存したマネジメントをやってきた。
日本企業は従来のやり方に甘えて、マネジメントスタイルを時代に合わせて変えていく作業を怠ってきた。
しかし、社員が会社への忠誠心を持たなくなった場合、どうやって管理するのか、そのスキルを持っていないだろう。
ソフト・マネジメントスキル: こころをつかむ部下指導法 | ロッシェル カップでは、堺屋太一さんが「米国企業は忠誠心を持っていない会社員を管理する技術を持っているが、日本企業は持っていない。そこで破綻するかもしれない」と言っていたらしい。
実際、日本企業の従業員エンゲージメント調査では、エンゲージメント率が世界的に低いとよく言われる。
たぶんその理由は、日本人マネージャのソフトマネジメントスキルが決定的に欠落していて管理能力が低いこと、日本企業の人事評価制度が従業員の内発的動機に働きかける仕組みや運用になっておらず形骸化していること、があるだろうと思っている。
賃金カットやリストラのための仕組みだと思っているわけだ。
つまり、時代の環境変化に日本企業が追随できていない。
これだけ多様な環境が必要になり、外部環境が激変しているのに、マネジメントスタイルも人事評価制度も日本人に根付いていないわけだ。
【6】僕もそんなチグハグな環境で働いてきた。
IT業界にいる他の人達も同様に悩みながら働いているだろう。
そんな状況の中、IT業界ではアジャイル開発がソフトマネジメントスキルを身につけるのに役立つ技術として認知されているだろうと僕は思っている。
たとえば、Scrumは開発プロセスのフレームワークである一面、スクラムマスターがチームメンバーの内発的動機に働きかけて自律的な行動を促す仕組みを作りだす。
さらに、チームやメンバーを影響させるソフトマネジメントスキルがふんだんに盛り込まれている。
Scrumのコミュニティでは、そういうプラクティス、アンチパターン、事例がたくさん公開されているから、誰もが自分に合ったソフトマネジメントスキルを習得できる環境があると思う。
他にも、日本独特のマネジメントスタイルとして、プロジェクトファシリテーションが20年以上前に提唱されていた。
WF型開発が主流でガチガチな環境の中、日本人マネージャがソフトマネジメントスキルを身につけるためのプラクティス集として公開されていた。
これもそういう流れの一環として捉えることができる。
プロジェクトファシリテーションはIT企業の中間管理職研修みたいだ: プログラマの思索
すなわち、IT業界では、アジャイル開発はソフトウェア開発の単なる一技術ではなく、管理職層のソフトマネジメントスキル習得の一技術として捉えることができると思う。
だからこそ、日本でもアジャイル開発がこれだけ注目されている。
だからこそ、コミュニティで活発にアジャイル開発のノウハウが皆で共有されている。
たぶん、日本人の我々も薄々知っているのだ。
今までのマイクロマネジメントスタイルではやっていけないからこそ、ソフトマネジメントスキルの習得が必要だ、ということを。
【7】では、日本人が身につけるべきソフトマネジメントスキルとは何なのか?
ファシリテーションの本をたくさん漁って読んだ後に改めて、ソフト・マネジメントスキル: こころをつかむ部下指導法 | ロッシェル カップを読み直して気づいたことがある。
身につけるべきソフトマネジメントスキルは、たとえば、コーチング、カウンセリング、ネガティブ・フィードバック、ポジティブ・フィードバックなどがある。
それらソフトマネジメントスキルは、タスク志向のスキルとメンテナンス志向のスキルで分類できる。
タスク志向のスキルは、コーチング、カウンセリングのように、目標達成しようとするメンバーを助言・支援したり、悩みを持つメンバーに対して、求められる仕事の水準や基準を提示して動機づけして成果を出させる。
つまり、モチベーションが高いがスキルが低いメンバーにはアドバイスして後押しして成果を引き出したり、モチベーションの低いメンバーには動機づけして、低レベルの状態から、普通に力を発揮できるレベルへ元に戻し、普通の成果を出させるように助言する。
一方、メンテナンス志向のスキルは、ネガティブ・フィードバック、ポジティブ・フィードバックのように、メンバーの行動に対し問題点や改善点を指摘して是正処置を行ったり、メンバーが良い行動をすれば感謝の気持ちを伝えたりして望ましい行動を促進させる。
そういうソフトマネジメントスキルがリーダーに求められるわけだ。
そういうスキルを言語化して、人を動かすヒューマンスキルが身につけられるわけだ。
たぶん日本人にはそういうソフトマネジメントスキルが足りないと言われているのだろうと思う。


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