Redmine利用成熟度モデルによる運用戦略
Redmineを単なるタスク管理で終わらせるな。
全社展開で組織のプロジェクトマネジメント能力を獲得するには明確な運用戦略が不可欠だ。
僕が独自で考えた「Redmine利用成熟度モデル」を提唱し、7段階のステップで現在地から理想のゴールへ導く実践的ロードマップを以下に示す。
【1】今、JTC全体にRedmineを運用推進する立場にあったとする。
その時、どんな戦略を立てて、Redmineを全社の案件に適用し、推進していくべきか?
Redmineを利用していく前提に対し、どんなゴールを目指すのか?
その時に考えるべきモデルが必要だ。
僕は「Redmine利用成熟度モデル」を提唱し、そのモデルを基準として運用戦略を立てる方針とした。
【2】なぜ、Redmine利用成熟度モデルを考える必要があるのか?
そもそも、そんなモデルは役に立つのか?
前提として、Redmineを個別最適化された一つの案件だけでなく、全社に展開し、全ての案件に適用したい立場にある。
すると、Redmineというツールを単に導入するだけの仕事になってしまう。
しかし、本来は何かしらの目的があるはずだ。
そうでなければ、わざわざ、工数やコストを支払ってでもやる必要がない。
Redmineを導入する目的は、Redmineという柔軟なチケット管理ツールを用いて、組織としてのプロジェクトマネジメント能力を獲得したいからだ。
さらには、多種多様なプロジェクトを一つのツール内のタスク管理や進捗管理、コスト管理に収めて、一元管理することによって、全ての案件の健康状態を即座に把握し、管理職層や経営層にエスカレーションし、意思決定できる基盤を提供することだ。
つまり、組織のプロジェクトマネジメント能力を獲得できている状態が目指すべきゴールになる。
そういう組織的能力が身につくからこそ、単なる進捗管理だけでなく、予定工数や実績工数を入力してEVM活用やプロジェクト報告を出力することにより、複数案件をまたいだ要員管理や予算計画のようなコスト管理まで可能になる。
そうなれば、事業部長レベルの意思決定支援にRedmineを有効活用できるようになる。
そんなゴールを目指すためには、組織のプロジェクトマネジメント能力がどのレベルにあるのか、を把握する基準やメトリクスが必要になってくる。
その基準を組織に当てはめることにより、現在地を知り、ゴールに向けて後どれくらいの階段が残っているのか、を見極めて、戦略を練ることができる。
【3】組織のプロジェクトマネジメント能力、具体的にはRedmineの利用レベルがどんな状態にあるのか、それを把握する基準の考え方が、Redmine利用成熟度モデルという概念だ。
ネタバレとして、CMMIやIT経営成熟度モデル、DX成熟度モデルなどを参考にしたが、Redmineの利用状況をより具体的に明確に定義するために、7段階で定義した。
【4】レベル1は、Excelで進捗管理している状態。
案件が順調ならまだしも、3人のチームであっても、突発的な作業依頼や仕様変更、手戻り作業が発生すれば、すぐに破綻する。
まだ、Redmineを運用できていない状態だ。
【5】レベル2は、ガントチャートの工程管理ができる状態。
Redmineを利用して、チケット管理を通じて、ガントチャートの工程管理ができる。
WBSをチケットにすれば、3階層、5階層でも複雑なWBSも実現できる。
ただし、標準プロセスが確立していないので、プロジェクトごとに運用ルールがバラバラであり、ノウハウも共有できていない。
各案件ごとに個別最適化されたRedmineプロジェクトが乱立している状態だ。
この状態が続くと、運用はじきに破綻する。
なぜならば、Redmineを単なるタスク管理としてしか使っておらず、全社でナレッジを共有したり、プロセス改善する仕組みがないからだ。
よって、プロジェクトリーダーの手腕に案件の成功が依存する。
したがって、組織のプロジェクトマネジメント能力が向上できるとはいえない。
【6】レベル3は、最低1タイプの標準プロセスが確立し、各プロジェクトに適用して運用できている状態。
具体的には、全社で使うべきトラッカーの種類が確定し、ワークフローが定められて、全てのPJに適用できている。
たとえば、「タスク」以外にも、「障害」「課題」「カスタマーサポート」などのトラッカーとワークフローが準備されているだろう。
さらに、製造業であれば、ISO9001などの国際規格に準じたプロセスに適用する必要がある。
そんなプロセスの実装手段として、チケットテンプレート、チケットセット、プロジェクトテンプレートのような機能があるだろう。
たとえば、チケットの書き方として、作業内容だけでなく、作業手順や完了条件、資料リンク、対応履歴などの記載をチケットテンプレートとして案件に提供し、記載内容の粒度を揃える。
つまり、LycheeRedmineのチケットテンプレートを使う。
そうすれば、システム監査やISO監査でも、調査しやすくなる。
たとえば、CADの画面を出図する設計プロセス、製品の部品や役務を購買する発注プロセス、製品の試験や品質保証を規定するプロセスがある。
つまり、各プロセスには、既に定められた手順がある。
その手順をチケット化してテンプレート化すればいい。
LycheeRedmineには、チケットセットという機能があり、標準WBSとして階層構造のチケットの塊をテンプレートとして保持し、コピーすることで使える。
つまり、出図プロセス、発注プロセス、製品試験プロセスの標準WBSをチケットセットで作っておき、必要な時にコピーして案件に取り込めばよい。
たとえば、製品の派生開発の案件に対し、以前の製品開発の案件設定をそのまま流用して使いたい場面が出てくる。
派生製品であれば、カスタマイズする場所は特定できている前提ならば、トラッカーやカテゴリなどのチケット機能、メンバー、WBSなどもそのまま流用したくなる。
あるいは、親PJの設定を子PJへ流用して同様に設定したい場合も多々ある。
そんな実装手段として、LycheeRedmineのプロジェクトテンプレートが使える。
そうすれば、以前のプロジェクト、親プロジェクトをそのまま流用して適用すれば良い。
【7】ここまで到達すれば、Redmineを運用する基盤は整う。
僕の経験上、レベル3に到達するには、一般に、SEPGと呼ばれる「Software Engineering Process Group(ソフトウェアエンジニアリング・プロセス・グループ)」の部門が必要になるだろう。
つまり、ソフトウェア開発の品質向上や業務効率化を目的として、組織の標準的な開発プロセス(進め方)の企画・構築・改善を専門に行うチームや推進者を指す。
SEPGは主に下記3点のミッションがあるだろう。
・プロセスの標準化: 組織全体で一定の品質を担保するため、開発手順やルールを定めた「標準プロセス」を策定。
・プロセス改善(SPI): 現場の課題を分析し、より効率的で安全な開発ができるようにプロセスを改善・更新。
・現場への展開と支援: 新しいプロセスを現場のプロジェクトに導入・定着させるための教育やサポート実施。
【8】ただし、レベル3以上の機能に確実に対応するには、Redmine標準の機能だけでは足りない。
LycheeRedmineのような有償機能の導入が必要になる。
コスト面さえクリアできれば、Redmine利用成熟度モデルに従って、組織のプロジェクトマネジメント能力の現在地に応じて、どこまでのレベルを目指すべきなのか、検討できる。
【9】レベル4では、Redmineに蓄積されたデータを元に定量分析・測定できる状態にある。
具体的には、Redmineに蓄積されたチケット、Wiki、外部リポジトリを集計して、案件のQCDを把握するための情報を測定し、分析し、プロセス改善を行う。
たとえば、Redmine標準ならサマリの機能があるし、LycheeRedmineならダッシュボードがあるだろう。
一般に、SEPGが定量分析・測定を行い、各案件のQCDのメトリクスを出力し、診断レポートを作成し、案件のリーダーやメンバーに配布して、プロセス改善を促す
あるいは、案件のQCDを見える化して、プロジェクトの組織的課題やプロセス観点の課題を抽出し、マネジメント層や経営層へエスカレーションして、意思決定を促す。
これこそが、SEPG本来の仕事になる。
なお、LycheeRedmineだけでなく、Tableauなどの外部BIツールを使ってもいいだろう。
【10】レベル5では、各タスクの予定工数や実績工数を入力し、EVMを出力し活用できている状態になる。
EVMのメリットは、案件の進捗やコストの状況を定量的にリアルタイムに把握できる点だろう。
PMBOKではEVMの定義と計算をやらされるが、実際のプロジェクトマネジメントで適用するのは非常に難しい。
単純なExcel管理では実現できないからだ。
だから、EVMは机上の理論に過ぎないとよく言われる。
しかし、たとえば、僕の経験では、能力の高いプロマネは、ExcelマクロでEVM機能を実装しておき、社内の予算管理システムから予算、原価管理システムから実績工数や実績原価を取得し、Excelマクロに取り込んで、EVMを測定し、独自に分析していた。
EVMのグラフを出力できれば、一目瞭然に案件を傾向分析できる。
彼は、EVMを案件のリスク管理に使っていたわけだ。
一方、2010年当時に「Redmineによるタスクマネジメント実践技法」本を出版した時は、EVM活用はまだアイデア段階だった。
しかし、LycheeRedmineによりついに機能として実装された。
標準プロセスが確立し、予定工数や実績工数を入力する運用を徹底できれば、EVMの出力は簡単になる。
【11】EVM運用できる状態にあるメリットは、リソース管理により、生産性、稼働率を把握でき、負荷計画を立てやすくなることだ。
たとえば、人別の実績工数から、案件の稼働率も把握できる。
製造業にとって、稼働率というKPIは非常に重要だ。
設備機械、担当者の稼働率が高いほど、工場にある資源を有効活用できている状態になるからだ。
彼らは月別の稼働率を色んな観点で把握し、遊んで休んでいる設備や人がいないか、いつもチェックしている。
そんな管理作業にRedmineが使える。
たとえば、人別の予定・実績工数より、人別生産性が分かる。
最近では、36協定による労働時間規制が厳しくなったので、メンバーの労働時間を正確に把握する必要がある。
Redmineに実績工数があれば即座に把握できるし、生産性を把握することで、リソース配分のKPIとして使うこともできる。
このやり方を更に発展できれば、複数の案件を一括集計して、部内全体の要員管理にも適用できるだろう。
この観点では、案件リーダーのような一人のプロマネではなく、複数の案件を管理するプロマネないし、課長・部長クラスの仕事になる。
彼らにもRedmineが有効なツールになるわけだ。
【12】レベル6では、Redmineに蓄積された情報から集計出力されたQCD情報を元に、PJ報告を作成し運用できている状態になる。
具体的には、EVM運用できている状態であれば、案件のQは課題や障害チケットを集計すればいい。
案件のDはタスクの進捗率やステータスから把握できる。
案件のCはEVM運用により、予定・実績工数を把握できているので、工数ベースで把握できる。
ここで、LycheeRedmineには経費機能があるので、直接コストを円入力することで、原価ベースで保持できる。
この機能により、Redmine上で週次や月次でPJのQCDを報告する運用が可能になる。
今なら、生成AI機能を使って、Redmineのデータを食わせて、報告文章を自動生成すればいい。
LycheeRedmineでは、PJ報告の機能があるので、週次レベルのPJ報告をバッチ出力させて、週次で書かせればいい。
従来は、案件リーダーがExcelやパワポの週次報告をせっせと作って、管理作業が無駄に発生していた。
しかし、LycheeRedmineを使えば、案件リーダーは週次報告作成のような管理作業は必要無くなる。
Redmine上のチケットが正しい状態であれば、週次PJ報告は精度の高い内容になり、単に案件リーダーだけでなく、マネジメント層や経営層に報告して意思決定する情報を提供できる状態になる。
これこそが本来の組織が持つプロジェクトマネジメント能力を測る指標になるだろう。
ただし、LycheeRedmineのPJ報告機能はビジネスプランでしか提供されておらず、一般に使われるプレミアムプランには入っていない。
その点だけ注意が必要だ。
【13】レベル7では、多種多様なプロジェクトへテーラリングできる状態にある。
たとえば、ScrumやCCPMが相当するだろう。
つまり、Redmineによるチケット駆動開発やWF型開発プロセスだけでなく、他のプロセスを主体的に選択できる状態にあるわけだ。
LycheeRedmineにはCCPM、Scrumに特化した機能が用意されている。
CCPMは、製造業の経営層が大好きなマネジメント理論なので、やりたければ、運用ルールを指定してCCPM機能と使えばいい。
Scrumも、NeoバックログやNeoかんばんの機能を使えば、よりアジャイル開発に即したプロセスで運用できるだろう。
しかも、Redmineには複数プロジェクト機能が標準で実装済みなので、CCPMの案件やScrumの案件を、従来のWF型開発案件と併存して運用するのが非常に簡単だ。
CCPMやScrumの運用ルールと、Redmineに即した機能の運用ルールを事前に検討できていれば、個人的にはそんなにハードルは高くないと考えている。
【14】以上が、Redmine利用成熟度による運用戦略のアイデアだ。
Redmine利用成熟度のレベルに応じて、SEPGが目指すべきゴールを定めて、現在地とのギャップをどのように解決していくか、を個別に撃破していく。
そんな戦略を考えるのに、Redmine利用成熟度モデルが使えると考えている。
実際にこの考え方を適用してみたいと思う。
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コメント
私が対応できていたり、目にできるものは、上級でもレベル2とレベル3の間くらいで、1にも届かない状況のものをどうするか悩んでいる感じです
業務系SIとメーカーの進め方はやっぱり細かさや関連する人数が違う印象です
定期的にいい意味で雑談させてください
投稿: かどや | 2026/07/13 11:48
返信ありがとうございます。
Redmine利用成熟度モデルは、LycheeRedmineの機能から類推してレベル分けしたアイデアです。
確かに、EVM運用までできれば、全てのレベルで運用できる組織的能力はあるでしょう。
WBSすら作れないのに、標準プロセス確立なんて不可能でしょう。
しかしながら、あるべき姿や理想像を提示して、段階的にレベルアップする階段は提示したい。
お互いPMOは大変です。
投稿: あきぴー | 2026/07/25 15:14