日記・コラム・つぶやき

2022/10/02

TwitterやFacebookは人力キュレーションツールとして使う

TwitterやFacebookの使い方がコロナ禍で変わったように思う。
TwitterやFacebookは人力キュレーションツールとして使うべきだ。
ラフなメモ。

【参考】
Twitterは最速のメディア: プログラマの思索

ビジネス特化SNS「Linkedin」から見えるもの~人脈はデータマイニングで作られる: プログラマの思索

Facebookはセルフブランディングの最強ツール: プログラマの思索

MEDIA MAKERSの感想: プログラマの思索

Clubhouseは路上ライブや朗読のためのツールかもしれない: プログラマの思索

「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想: プログラマの思索

たとえば、コロナの情報を知るには、新聞やテレビ、書籍では不十分だ。
なぜなら、まだその知見や真実が最新論文にしか存在せず、それを解説する情報が新聞やテレビ、書籍にはないから。
だから、医療現場でコロナ患者に対応している医者、コロナワクチンを研究している医療研究者、コロナウイルスの流行を予測する疫学者から情報を収集すればいい。
すると、彼らはTwitterで情報を流しているので、彼らを特定してツイートを逐次読めばいい。

実際、武漢ウイルスからデルタ株、オミクロン株へ変異するうちに、コロナの毒性やかかりやすさもどんどん変化している事実が分かったし、mRNAワクチンのおかげで沢山の人が助かった事実もわかってきたわけだ。

また、Twitterのインフルエンサーのうち信頼できる人達を集めてみると、その分野で専門的知識や専門用語を正しく使えて、その専門知識を一般人にもわかりやすく説明できる能力を持っている傾向がある。
また、インフルエンサーで能力のある人は、他人をけなす言葉は言わないし、人格的な面が言葉に出てきている場合が多い。
僕も、専門知識を使えないインフルエンサーはできるだけ排除しようとしている。
つまり、SNSを集合知として扱うメリットがある。

Facebookの友達関係では、ビジネル上の人間関係から発生する事が多く、同じ業界や同じ興味を持つ仲間が多い。
その集団からの情報発信を集めることになる。
つまり、彼らの興味から発信した情報は、自分にも有用であるケースが多いから、Facebookは友人がわざわざ発信した情報を読むだけで最新情報を入手できる。

たとえば、IT業界にいれば、アジャイル界隈の人達とたくさんFacebookの関係を作っておけば、勝手にアジャイルの最新情報は入手しやすい。
税理士、行政書士、中小企業診断士のような士業も、Facebook上でコミュニティを作る場合が多いので、最新のセミナー情報や補助金、お仕事の情報を集めやすくなるメリットがある。

以前は、TwitterやFacebookなどのSNSは無駄な情報が多く、遊びでしか使っていないイメージが多かったが、今は違う。
そんな経緯を踏まえると、TwitterやFacebook、LinkedinなどのSNSは情報収集ツール、人力キュレーションツールとして使うべきだ。

換言すれば、SNS上の人間関係が深い人ほど、最新情報を入手できて、正しい意思決定により近づける可能性もあるのだろう。

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2022/08/28

「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想

「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」を読んで面白かったのでメモ。

【参考】
Twitterは最速のメディア: プログラマの思索

ビジネス特化SNS「Linkedin」から見えるもの~人脈はデータマイニングで作られる: プログラマの思索

Facebookはセルフブランディングの最強ツール: プログラマの思索

MEDIA MAKERSの感想: プログラマの思索

Clubhouseは路上ライブや朗読のためのツールかもしれない: プログラマの思索

Google、それは強大な広告代理店: プログラマの思索

コロナ禍の時代にいかに情報収集&アイデア発散収束のスキルが必要か、経験を交えたノウハウが良かった。

・SNSは2種類を使い分ける
 人間関係重視はFacebook、LINE、Instagramなど
 情報収集はTwitter

・ネットからプル情報を取りに行く
 ∵今は情報洪水の時代
⇒RSSリーダーを使う
 ∵情報源のニュースサイトの新着情報だけキャッチする
⇒キュレーションサイトも活用する

・Twitterを情報収集のツールとして扱う
 例:新型コロナが良い例
 ∵新聞も本も真実が少ない。
 ∵Twitterに流れる専門家の情報が貴重な情報源になる

・Twitterでフォローすべき専門家の選択基準
 その分野の専門家であるか
 専門用語を適切に使っているか
  ∵素人は、特定分野の専門用語を知らない
 乱暴な言葉使いがないか
  ∵中途半端な人ほど断言しやすい
 専門家集団から信頼され評価されているか

・本を読むのも大事
 ∵情報が集約される
 ∵情報が網羅されている
 ⇒多様な視点が持てる
 ⇒アウトライン→観点→全体像の流れで説明してくれる

・Kindleを使え!
 ∵どこでも買える
 ∵テーマの全体像をサクッと得られる
 ∵文章を検索できる
 ∵文章をコピペできる
 ∵リンクからWebサイトへ辿れる
 ∵大きな文字で読める。老眼ならメリットあり。
 ∵本棚が不要
⇒電子書籍が読みにくいのは慣れの問題
 iPad、KindlePaperwhiteを使う

・今読むべき本の基準
 本と自分の相性を知る
 本に対し自分のスキルが足りているか
 向いていない、無理とおもったらいったん潔くあきらめる
 今読んで楽しい本は知肉化する

・本、電子書籍の読み方のコツ
 付箋、ハイライトを使う
 抽象的で難しい部分こそ熟読する
 ハイライト、マーカーした部分はメモアプリにコピペする ∵知肉化する
 何の感銘を受けたのか、短い覚書を残す
  ∵エピソード記憶、連想、言い換え、疑問
 参考文献を元に芋づる式に読みまくる

・読書スタイル
 スキマ時間で2h/日を捻出する
  ⇒1冊/3日で読める
 色んな時間や場所で小刻みに読む
 ⇒ミニマリスト生活に慣れる
  慣れればどこでもくつろげる

・2つの保存方法を使い分ける
 頭の中の保存
  概念化されている
  ストーリー、物語を作る
  記憶容量が狭い
 コンピュータに保存
  容量制限なし
  検索できる
  記憶に強い

・知と知を結びつける
・無意識の領域でコビトが献身的に働くようにする
・コビトに餌をばらまく
 頭の中で概念がふっと思い出されて、コビトが結びつけてくれる
・世界観と知肉が舞い降りる
・脳をクリアな状態にする
 ∵世界観と知肉が舞い降りるには、ゆったりした時間と場所が必要で、脳みそを忙しい状態にしない

・雑務は徹底的に効率化する
 スケジュール管理、タスク管理、道順、請求書発行
 →雑務はアウトソーシングする
  クラウドサービスを使いまくる

・ブラウザは用途で使い分ける
 情報系ブラウザ=Chrome
 雑務系ブラウザ=Firefox、Edge、Safari

・散漫になりやすい
 集中しにくい
 ⇒散漫をコントロールできれば、仕事はいくらでもこなせる

・舞い降り=アイデアは発想を作り出す
 頭をキレイでまったいらな場所を作る
 散漫でいい

・タスク=請求書やパワポ、エクセルで資料を作る
 集中力が必要

・日々のやるべきタスクを分類する
・ネットで情報収集→Feedly+Pocket→スマホ
・書籍や資料を読む→重い本or軽い本、読書メモ→タブレット
・資料を作成→自由な思いでアイデアを練る、アイデアをドキュメントに落とし込む→PC
・原稿を書く→文章の構成を考える、思い執筆→PC
・メールチェックや請求書作成→PC
・息抜き→Youtubeなど→スマホ

・ポモドーロ・テクニック
 事前に仕事のリストを作る
 25分集中+5分休憩が1セットを繰り返す

・自分の最適なインターバルを探す
 3分、5分、15分、25分と変えていい

・もう少しやりたい気持ち、飢餓感を使う
 飢餓感が舞い降りをもたらす

・Bootstrapでやる気を起こす
 PCのOS起動と同じ
 やる気のロードは時間も手間もかかる

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2022/08/09

人類は海辺から生まれた~水生類人猿説が面白い

人類は海辺から生まれたというアクア説(水生類人猿)を知った。
とても面白かったのでメモ。

アクア説 - Wikipedia

河童や半魚人の祖先か?異端の「アクア説(水生類人猿)」を独自に推理する - まいじつ

禁断のアクア説(水生類人猿説)を再評価する ? 橘玲 公式BLOG

人類はなぜ2足歩行なのか?
その単純でありながら奥深い問題に対し、従来のサバンナ説ではやはり納得しづらい。
猿やチンパンジーが地上に出たとしても自然に二足歩行になったとは思えない。

そこで、アクア説が提唱された。
アクア説、水生類人猿説では、人が類人猿に進化する時に、半水生活に適応して直立二足歩行を始めた、という主張を唱える。
この仮説は化石の証拠がなく、最初は半信半疑なのだが、人間の特徴を色々探ってみると、この仮説が上手く当てはまる場面がすごく多い。

アクア説 - Wikipediaにある「仮説の論拠」の画像がすごく分かりやすい。

人もラッコも海に入ると、垂直に直立する姿勢になる。
人類は海辺で進化した」本では、ペンギンと人が地上では二足歩行、水中では水平姿勢で泳ぐ絵があって、こんな場面がペンギンと同じなのか!と驚いた。

人は海に入ると、皮下脂肪がついた。
皮下脂肪があると浮きやすいし体温維持になる。
鯨と同じ。
そして人から体毛がなくなったが、頭は水上に出ているので、頭髪は残った。

鼻の穴が下向きなのは、水上で垂直に立った時、水が鼻に入らないようにするため。
猿や他の類人猿は鼻の穴が正面に向いている。

涙が出る、汗が出るのは、塩分排出の症状。
人類は海辺で進化した」本では、ラッコの母親から子供を取るとラッコが泣くと書かれていて、まるで人間みたいに感じた。

人は対面性交する。
頭から尻まで一直線の姿勢になる。
実はイルカなど水棲哺乳類は、対面性交らしい。
一方、猿や他の動物は後背位を取る。
人類は海辺で進化した」本では、イルカの対面性交のシーンが書かれていて、まるで人間のように感情を持って恋愛している雰囲気を醸し出していたのが興味深かった。
だから、欧米人はイルカを人間と同じように同一視しているから、日本の和歌山でイルカ漁をしているシーンを非難するのではないかと思った。

人間の女性は処女膜を持つ。
水棲哺乳類の鯨にもあるらしい。
たぶん、海水が体内に入らないようにする仕組みなのだろう。

女性の外性器が隠れているのは、体の表面積を減らして体温維持する方が水中生活に有利だから。

水中出産は楽らしい。
人類は海辺で進化した」本では、ロシアの産婦人科では、妊婦に水中出産してもらうと痛みがなく、楽だったという記載があった。
赤ん坊を生み出す時、体内から異物も排出されるが、水中で出産すればその汚物も赤ん坊から洗い流してくれる利点がある。

赤ん坊は泳げるらしい。
実は、赤ん坊は生まれた直後は、手でかくような仕草をするらしい。
水生類人猿説では、赤ん坊が水中出産された歴史に由来するらしい。

女性の乳房が垂れ下がるのは、赤ん坊が母親から乳を飲む時に捕まるため。
人類は海辺で進化した」本では、女性が赤ん坊に乳を吸わせている写真があって、猿の赤ん坊は母親の体毛に捕まることができるが、人間の赤ん坊は母親の体毛がないのでそのままでは落ちてしまう、と書かれていた。
イルカや鯨のような水棲哺乳類も同様らしい。

人間は嗅覚が衰えた。
水中生活では、臭いの感覚は関係ないから。
水中生活から陸上生活に戻った時、ワキガのような部分から体臭を発生させるようになった、とか。

人間は聴覚と発声が発達した。
水中生活では、視覚よりも聴覚や発声が重要らしい。
イルカと同じ。
イルカも会話しているらしい。

人間はバランス感覚が優れていて、柔軟な背骨を持つ。
人類は海辺で進化した」本では、アシカが鼻にボールを乗せた姿と、その横に人間が鼻にボールを載せた姿を載せていて、非常に同じように見える。
水族館のショーで出てくるアシカ、イルカもボールを操れるように、非常にバランス感覚が優れている。
これは、人間も水中生活で、嗅覚や視覚があまり通用しない環境で、空間の感覚を研ぎ澄ましたから、と書かれていた。

人類は海辺で進化した」本では、女性が水中でU字型の流線型で泳いでいる絵があって、イルカやアシカと同じだな、と思った。

人間には潜水反射、徐脈の感覚を持つ。
潜水反射とは、水に潜ると心拍数が減少し、体内に送られる血液量が減り、その結果、酸素消費量も減ること。
人類は海辺で進化した」本では、ラッコ、セイウチ、イルカ、アシカ、鯨のような水棲哺乳類と同じく、人間の絵も載せられている。
人間と他の動物がどれくらいの深さまで水に潜れるか比べると、人間は水に潜らない哺乳類と言われるらしい。

現代人の7%は、今持って手足の指に水かきの跡がある。
これは人間が水中生活していた時の名残り。
ピアニストになるためには、指同士の距離を広げる必要があるから、わざわざ広げるように手術していたことを思い出した。

これだけ状況証拠があるにも関わらず、「アクア説(水生類人猿)」は学会では異端と言われているらしい。

こういう斬新な科学的仮説を読むと、鳥類が恐竜から進化した「前適応」の仮説や、恐竜が隕石衝突で絶滅した事件のことを連想させる。
大量の状況証拠から、仮説を補強するような理論を作り上げて、どんな反論からも耐えられるようにし、最終的には化石や実験によって仮説が証明される、そんな流れを作るのが面白い。

ITの地殻変動はどこで起きているのか?~チケット駆動開発が進むべき道: プログラマの思索

論文作成の技法part2~論文作成の観点: プログラマの思索


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2022/06/14

戦前の日本人の気質はまだ成熟していない青年期と同じだった

【1】「日本人の行動パターン」に書かれた一節が一番心に残った。
アメリカ人は戦前の日本人をこういうふうに分析していたんだな。

日本人は青年期の未熟さの性質を持つ。
ころころ変化する態度、人に応じて異なる感情表現、幻想に陥る現象はパーソナリティ形成が成熟していないことを表す。
社会構造が変化すると、それに対応して素早く変わる日本人は、青年期の発達段階に特有のもの。
日本人の集団はノイローゼにかかっている。集団的神経症、強迫観念に囚われている。

【2】僕が学生の頃は、日本文化論がすごく流行っていた気がする。
日本が経済大国と呼ばれていた時、なぜ日本は小さな島国にすぎないのに、そこまで成長できたのか?
それに答えるために、数多くの論説があった。
割と多かったのは、日本特殊論。
日本人は特殊な気質を持つ、特殊な文化を持つ、という論説が多かった気がする。

確か、E.H.ノーマンの本だったか、ある一節があった。
戦前の日本人の言動を見ると、ある時は激しやすいが、別の時は穏やか。
ある時は頑固なのに、別の時は一瞬にして豹変して環境に順応する。

その原因は、日本人が置かれた社会や政治構造に由来するのでは、という指摘だった。
一言で言えば、日本社会は階級制度であり、日本人はその社会順序を乱さないように、あらゆるところから統制を受けている、と。

日本人の行動パターン」の一節を読むと、それにぴったりな気がした。
明治から昭和にかけて、日本人が急激に近代化できた理由は、たぶん日本人は未成熟な青年期の人間が多かったのだろう。

そして、2022年の現代日本は平均年齢が49歳なので中高年世代が最も多いから、青年期ではなく老年期に入っているのでは、と思ったりする。

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2022/04/18

物理学を攻略するためのマップ

物理学を攻略するためのマップを見つけたのでメモ。

初心者向けガイド - 物理 攻略 Wiki

物理学は一つの認識論: プログラマの思索

数学や物理は背景にある思想を知らなければ理解できない: プログラマの思索

『ものづくりの数学』の感想 #もの数: プログラマの思索

理系脳かどうかの分かれ道は、物理学が好きかどうか、物理学を習得できているかどうか、だと思う。
なぜならば、いくら数学ができたとしても、その数学テクニックを実際の自然科学の場で使えなければ意味がないからだ。
化学や生物学などの根底には物理学の理論があるので、最終的には物理学がわかっている必要がある。
物理を習得できれば、小難しい数学の理論を実際にどのように使っているのか、理解しやすい。

たとえば、微積分なら微分方程式を使いこなすことだろうし、微分方程式を使いこなせれば、古典力学の現象をほぼすべて表現できる。
解析力学がその最終到達点になるだろう。
たとえば、線形代数やベクトルは、電磁気学、相対性理論、量子力学などで実際に使えば分かる。

しかし、高校物理では微分方程式を扱えないので、古典力学や電磁気学などでは、やたらと公式を覚えざるを得なくなる。
だから、高校物理の受験問題にフィットしすぎると、本来の物理が理解しにくくなると思う。

その現象はちょうど、私立中学受験で鶴亀算のテクニックを極めすぎて、連立方程式や線形代数の理解を妨げるのと同じだ。

また、理論物理学の範囲は非常に広く、さらに奥深いので、なかなか習得しにくい。
量子力学を習得する前に解析力学も必要になるように、前段の理論や知識を習得しておかないと前に進めない。

そんな時に、物理学を攻略するためのマップを見つけて、こういうマップを事前に知っておけば良かったと思った。
なぜならば、物理学を制覇するためにはどんなルートを通る必要があって、どれくらいの難易度があるのか、を物理攻略マップからある程度概観できるからだ。

僕個人の考えでは、理論物理学を習得したいならば、量子力学と相対性理論はマスターする必要があると思う。
換言すれば、量子力学と相対性理論という2代巨峰を習得できれば、その他の物理の専門分野は理解しやすいだろう。
ちょうど、量子力学と相対性理論という2代巨峰から、その他の山々を見下ろす感じみたいに。

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2022/04/10

『ものづくりの数学』の感想 #もの数

今朝、講演会『ものづくりの数学』に参加してきた。
感想をラフなメモ。
全くロジカルでないメモ。

【参考】
講演会『ものづくりの数学』 - connpass

講演会のテーマは、『ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法 | 松谷茂樹』の著者の先生に、企業の技術者と理論物理・純粋数学の科学者という2つの立場から、ものづくりの現場に現代数学をどのように導入して効果を上げるべきか、という内容だった。
内容は相当難しいと思う。

改めて『ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法 | 松谷茂樹』を読み切ってみると、読者の対象は、大学で純粋数学や理論物理、理論化学を学んだ後、社会人では一般企業の技術者や管理者、IT業界の技術者になった人だろうと思う。
大学の理論研究の経験と一般企業でのビジネス経験の両方がなければ、この本の意義は理解しにくいだろうと思う。

なぜなら、『ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法 | 松谷茂樹』の内容はすごく抽象的だからだ。
実際、数式は出てこないけれど、現代数学がメーカーの製品開発の背景にあるという経験がなければ腑に落ちないだろう。
また、ポパーの反証主義、トーマス・クーンのパラダイム論やフッサール現象学、ソシュールの記号論などの概念がふんだんに引用されるので、なぜこの知識が必要なのか、という意図がつかめないだろう。
専門の科学者集団はパラダイムに囚われすぎているという先生の指摘は斬新ですごく面白かった。

僕が感じた感想は3つある。

【1】今の日本の弱点は、ハードウェアに付加価値をつける点では新興国の韓国・台湾・中国に追い越され、ソフトウェアやシステムで付加価値をつける点では、米国に負けてしまっていること。
その問題を解決する時に、現代数学が役立つよ、という主張だった。
その製品開発のフェーズに現代数学を使ってモデル化を図って、理論の裏付けを持った技術に育て上げるような方向性だろうか。

だが、ハードウェアの付加価値に差別化を図ろうとする場合、より尖った製品を開発するのは困難だろうと思う。
そのマーケットがそもそも売上や利益が出るような規模なのか、そこにマーケティングを実施して掘り起こせるのか。
その市場で売上を確保できる期間が十分にあるのか。
今の時代は、世界の工場である中国にほとんど製造拠点を持って行かれているので、日本も米国のように、おそらくAppleのように安いハードウェアにソフトウェアやブランドという付加価値を付けて高値で売るようなビジネスに行かざるを得ないのではないか、と思った。

すると、ソフトウェアやシステムで付加価値をつけるフェーズで、現代数学とコンピュータサイエンスを組み合わせて、技術の差別化やビジネスモデルの構築を図る、みたいな方向性が王道になるのではと思う。
しかし、日本から世界に通用するプラットフォームビジネスを生み出せるのか。
日本で現代数学も使えるようなIT技術者を育成できるのか。

先生のお話を聞くと、日本の大学という制度はもう時代に即していないんだなと改めて思う。
明治から昭和までのやり方を未だに大学で続けようとしているが、令和の時代では違うでしょ、みたいな感じ。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「今聞いているけど面白い。今の日本の大学という制度は時代に即していないと先生が言い切るのがすごいね。大学もお金を集めないとやっていけない現状、理論の専門家が企業に必要なのに大学が人材供給できていない現状とか色々あるだろうな。#もの数 講演会『ものづくりの数学』 https://t.co/8ijd5ko08g」 / Twitter

【2】先生のお話で面白かったのは、純粋数学や理論物理などの科学者の専門集団はパラダイムに囚われすぎていて、彼らだけに通じる基準と運用で維持し続けられているが、常にその存在意義の正当性を問われているという指摘だった。
自分も大学で数学の研究に従事していた時があったので、その雰囲気がそういう観点で見られているのが斬新だった。

ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法』にかかれているトーマス・クーンのパラダイム論の解釈を読むと、科学者という専門集団は真理を追いかけているように見えるが、すごく閉鎖的な集団なんだよ、という意見に聞こえてしまうのが不思議だった。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「問題解決者よりも問題定義者が重要。学会はパラダイムに囚われすぎている。ビジネスの現場で抱えている問題は既存の学会や理論で解決できるとは限らず、むしろ無い場合が多い。現場の問題に忠実に認識してその問題を数学で分解して定義し、その一つを大学へアウトソースして解決してもらうとか #もの数」 / Twitter

一方、ビジネスマンは企業の現場で解決したい問題がすでにある。
その問題は理論や学術面で意義は小さいかもしれないが、その現場ではすごく価値がある。
そういう問題を解くのに現代数学という理論を使うとより効果的だよ、と。
そして、大学での理論研究と企業の現場の違いを認識して上手く利用したほうがいいよ、と。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「ビジネスと理論のような大学の場の双方を知るような人材をどうやれば育てられるか?先生曰く。ビジネスマンは大学の弱点や問題点を知るのが大事。そんな話を聞くと、日本の大学は時代に即していない感じがするね。 #もの数」 / Twitter

特に、理論と技術の間にはタイムラグがある。
このタイムラグはいわゆる、死の谷、魔の川、ダーウィンの海に相当する。
すると、理論を研究したり使う時も、その技術がビジネスに使えて実際に威力を発揮できるには、いくつかのハードルを越える必要がある。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「#もの数 フィリップスを作ったカシミールの考え方。科学と技術は違う。資本主義企業が科学を引っ張るというモデルを経営者は持つがそうではない。量子力学が生まれた時、ビジネスとも関係なく、半導体やコンピュータのビジネスに繋がることは誰も知らなかった。」 / Twitter

【3】なぜ現代数学の理論が企業の技術者やIT技術者に求められるのか?
その理由は、現場の問題を解決しようとする時、既に知られている技術や小手先の知識だけでは対処できず、20世紀以後の現代数学の理論を最終的に使わないといけない場面が出てきているからだろう。

例えば、線形代数の利用シーンが連立方程式や固有値計算だけではなく、代数・幾何・解析・確率論などの色んな場面で使われている。
特に、線形代数の理論は、ニューラルネットワークや機械学習のモデルの計算ではよく使われている。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「先生曰く。現代数学は線形代数化している。現代数学は幾何学化している。代数幾何学も線形代数にすぎない。色んな所で線形代数が出てくるのにどの書籍にも解説していない。だから出版した、と。 #もの数」 / Twitter

akipiiさんはTwitterを使っています: 「平鍋さん曰く。行列はAIや機械学習で解きたいデータを表現していて、それを線形代数の理論で解くものと思っていた。なるほど、そういう見方で考えれば画像認識技術にAIが使われる意味が分かる気がする。 #もの数」 / Twitter

先生の話では「位相」という言葉がよく出てきて、どういう意味で使っているのか、当初は理解しにくかった。
ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法 | 松谷茂樹』を読んでみると、いろんな事象を分類する基準、その構造の近さを同値関係で表していると思った。

akipiiさんはTwitterを使っています: 「位相とは何ですか?という質問に先生曰く。数学者は点ではなく部分集合で考える。だから、関数単体で考えるのではなく、関数の集合で考えて、εδ論法でその構造の近さを同値関係で測定して、同じ・違うで分類するわけか。工業化学をやった人はこの考え方が分かってないと言われた。 #もの数」 / Twitter

代数幾何学が楕円曲線をドーナツの形で分類するように、いろんな事象を数学で捉える時、点ではなく部分集合でカテゴリ化して、εδ論法でその構造の近さを同値関係で測定して、同じ・違うで分類するという発想と思えた。
たぶん、現代数学を知らない人向けにそういう意味で使っているのかな、と想像した。

【4】『ものづくりの数学のすすめ 技術革新をリードする現代数学活用法 | 松谷茂樹』はとても良い本と思うけれど、現代数学の知識を適用する場所は、メーカーの現場の問題よりも、経済学に関する問題の方がよりインパクトがあるのではないかと僕は思っている。
なぜなら、数学者や物理などの科学者は1990年代頃から経済学や金融にシフトしていること、数学の理論を使えばIT技術と経済学や金融がすごく相性が良いことが分かってきたからだろうと思う。

講演会の参加者には、データサイエンスに詳しい方が割と多い気がしたけど、その人達のバックグラウンドはむしろ、経済事象やマーケティング事象などの社会科学の方が近い気がする。

IT企業が経済学者を雇い始めた理由が面白い: プログラマの思索

計量経済学における統計上の根本問題: プログラマの思索

みんなのPython勉強会#65の感想~社会変革の鍵はIT技術者にあるのかもしれない: プログラマの思索

経済学は信頼性革命や構造推定により大きく変貌している: プログラマの思索

機械学習で反実仮想や自然実験が作れる: プログラマの思索

経済数学の直観的方法の感想: プログラマの思索

「推計学のすすめ」「経済数学の直観的方法~確率統計編」の感想: プログラマの思索

僕の問題意識はちょっと別の方向にあるかもしれない。

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2022/03/25

世界5大宗教入門の感想~世界の人間は宗教で生かされている

世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門」を読んで、ポジティブシンキングはプロテスタントの予定説から生まれているのではないかという仮説を持った。
ラフなメモ。

【1】以前、キリスト教の聖書の本を読んですごく面白くてハマった。

捏造された聖書の感想: プログラマの思索

しかし、カルヴァン派の予定説の考え方だけはよく分からなかった。
人が生まれた時点で、あなたは天国に行くのか、地獄に行くのか決まっている、と言われて、果たして人は真面目に生きるのか?と疑問に思ったから。

世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門」によれば、予定説の考え方は、あなたが死ぬ時に天国に行くのか、地獄に行くのか、神様が既に決めているが、今は確かに分からない。
でも、天国に行けると信じて、頑張りなさい、と励ましているのだ。

この考え方は、米国人のポジティブシンキングに似ている、という。
君には能力があると信じて頑張りなさい。
すると、本人はそれを信じて頑張ったら、実際に成果が出るようになる。
そうすれば、本人も自信がついて、さらに頑張ろうという気になる。
そういう成長のらせん構造にスムーズに乗っかかれる、と。

【2】キリスト教の聖書のおかげで、欧米人はプレゼン能力が上がっているのではないか、と言う。
実際、聖書の内容は、とてもドラマチックで、小説として読んでも面白い。
だから、他人に聖書を読み聞かせる時に、いかに人を引きつけるか、という観点で、プレゼンできる仕組みがある、という。

確かに、キリストの生涯の話は、波乱万丈でドラマティックだ。
おとぎ話や小説のように読み聞かせるテクニックが生まれる余地があったのかもしれない。

【3】「世界94カ国で学んだ元外交官が教える ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門」を読んだ後、牛尾剛さんのブログを読んで、心の拠り所に宗教を持つのは心の安定を保つための一つの手法なんだなと理解した。

生産性の向上のための孤独感の解消とエネルギー強化|牛尾 剛|note

アメリカに住んでいるとクリスチャンになるととてもいいことが多い話|牛尾 剛|note

人間は政治環境に左右されやすいので、こういう宗教のような価値観や拠り所がなければ、生きていけないのかもしれない。

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「大国政治の悲劇」の感想~現代はパワーポリティクスの歴史に戻ったみたいだ

大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司を読んだ。
まさにロシア侵略のウクライナ紛争のタイミングで読むと、彼らがこの本で書いた通りに行動しているのではないか、と思った。
ラフなメモ。

【1】まず最初に断っておくと、この本は672ページという大著であり、注釈だけでも150ページもある。
論文みたいな本だ。
しかし、内容はとてもロジカルだ。
この本のプランは最初の第1章の最後に書かれている。

【2】まず、なぜ国家はパワーを求めて競争するのか、なぜ国家は覇権を求めるのか、という2つの問題を提示し、この問題が国際政治学で重要な根本問題であることを示す。

数学で言えばwell-defined、論文のお作法で言えば、justifyに相当するだろう。
つまり、この本で提示する問題の正当性を示す。

【3】次に、なぜ国家はパワーを求めて競争するのか、という問題を分析するために、2つのことを行う。
一つは、パワーを定義する。
もう一つは、国家が活動する舞台である国際システムにおいて、5つの仮定を置き、そこから国家がどのような行動を取るのか、を導き、最終的に最初の根本問題を解決する。

数学で言えば、公理系を最初に打ち立てて、そこから命題、定理、系を導くやり方に相当する。

僕はこの本を読んでいて、まるで過去に数学を研究していた時のことを思い出した。
数学のやり方はこういう社会科学、歴史学においても使えるのか、と改めてびっくりした。

この本を読んで、気づいた点はいくつかある。

【4】1つ目は、ミアシャイマーが提唱する理論「オフェンシブ・リアリズム」の結論は、国家は機会があれば覇権を求めて行動するので、世界は必ず対立し戦争が起こる。
ただし、その対立構造には、安定した二極世界、安定した多極世界、不安定な多極世界という種類がいくつかある。

【5】2つ目は、ポール・ケネディの「決定版 大国の興亡―1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争〈上巻〉 | ポール ケネディ」の通り、国家の国力は、軍事力と経済力の2つであり、そのバランスが重要である、ということ。

【6】3つ目は、ハルフォード・マッキンダーが提唱した地政学の理論に似ているな、という点。

ランドパワー - Wikipedia

シーパワー - Wikipedia

オフェンシブ・リアリズムでは、覇権を求める国家はせいぜい地域覇権しか達成できない。
すると、今の世界地図から見れば、米国や英国のような海側から覇権国家を目指す国家と、ユーラシア大陸で覇権を求めるソ連、中国、ドイツ、フランスなどの国家に分別される。
基本は、大陸国家と海側国家の対決構造が必ずあるように思える。

ここで面白い点は、日本は海側国家の立場になり得たのに、実際は朝鮮半島や中国の一部を植民地化して大陸国家を目指そうとしていたことだ。
戦前の日本は、国際システム上では、当初は明治維新の後、西洋列強の植民地にならないように近代化を果たしたが、地域覇権を目指す方向に自然に活動し、最終的には、米国と戦争を起こすという自殺行為で最終的に破綻した。
「なぜ日本は無謀な戦争を決断して負けたのか」という問題は日本の歴史学でいつも問われるが、オフェンシブ・リアリズムの理論では「国際システム上では、国家は必ず覇権を求める行動を取らざるを得ないから、それから逃れることはできない」という結論になると思う。

また、ランドパワーとシーパワーの境目となる箇所がまさに紛争地になるのだろうなと思う。
だから、欧州大陸ではウクライナがNATOとロシアの中間地帯にあるし、朝鮮半島では、朝鮮半島の南部分はシーパワーである米国の影響力の配下にある、という例になるのだろうか。

【7】4つ目は、以前読んだウォルフレンの本「日本 権力構造の謎〈上〉 (ハヤカワ文庫NF) | カレル・ヴァン ウォルフレン」、ハラリの本「サピエンス全史セット【全2巻】 | ユヴァル・ノア・ハラリ」によく似ているな、と思った。

欧米人の歴史学や社会学の本はページ数が膨大で、その内容は非常にロジカルに書かれていて、自分たちの意見もはっきりしている。
しかも、その意見の正当性を示すために、大量の事例や事実を集めて補強しているし、反論されそうな内容は予め予想していてそれに対する反撃の意見と対症療法まで示している。

大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司でも、米国、英国、フランス、ドイツ、ソ連、日本、イタリアの過去200年間の歴史をふりかえり、膨大な事実を自分の意見の正しさの証明に使っている。
そして、こういうオフェンシブ・リアリズムのような、普通の人間にはあまり心地よくない理論の話には反論したくなるが、それに対して、自分の意見の正当性と正しさを説明するために膨大な文章を使ってロジカルに組み立てている。

僕はこういう本は好きだ。
読むのは割としんどいけれど、メモしながら、ロジックの流れを追いかけてみると、最初の5つの仮定から定理が導かれ、最終的な結論まできちんと抑えられているのが分かる。

論文作成の技法part1~論文の構造: プログラマの思索

論文作成の技法part2~論文作成の観点: プログラマの思索

【8】大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司では、最終章で「中国は平和に台頭できるか?」を設けて解説しているが、内容は悲観的だ。
まあ、オフェンシブ・リアリズムの立場ではそういう論理的な帰結になるだろうと思う。



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2022/03/19

映画「ひまわり」は名作だった

映画「ひまわり」の感想をメモ。確かに名作だった。

ウクライナで撮影された名作映画『ひまわり』全国各地で拡大上映へ|ORICON NEWS|Web東奥

【1】映画を見たきっかけは、舛添さんのツイートで気になったことだった。

舛添要一さんはTwitterを使っています 「1942年夏、ヒトラーはスターリングラードを攻略。ムッソリーニはイタリア軍15万人を派遣。独軍敗北。イタリア軍もまた大敗北し、2万5千人が戦死し、7万人が捕虜になり、祖国に帰還できたのは1万人のみ。この悲劇が伊映画『ひまわり(I Girasoli)』(1970年)の物語だ(続く)。https://t.co/iSyBhp8NPH」 / Twitter

学生時代に既に見たが、イタリア人夫婦の悲恋の物語ぐらいのイメージで、あまり心に残ってなかった。
しかし、今見直すと、映画のシーンにはたくさんの意味が込められていることが分かって、すごく引き込まれた。

自分が理解できたことをメモしておく。

【2】映画「ひまわり」の舞台は今、ウクライナでの戦争地域そのものにある。

タイトルにあるひまわり畑は、ウクライナのヘルソン州にあると言われている。
ウクライナ大使館のHPによれば、そこは今、ロシアが侵攻して激戦地になっている場所のはず。

在ウクライナ日本国大使館:エピソード集(日本語)

平和であるはずのひまわりの畑が今、まさに激戦地になっていると思うと、やりきれない気持ちになる。
だからか、今、日本でも映画「ひまわり」が注目されて、各地で上映されているらしい。

News Up 「戦争とは何か」 ウクライナ侵攻で再注目の映画「ひまわり」 | ウクライナ情勢 | NHKニュース

【3】ひまわりには本当に数多くの意味が込められていることが分かった。

まず、美しく咲き乱れるひまわり畑の下には、捕虜となったイタリア兵やロシア兵の死体が数多く埋まっているらしい。
映画では影絵のようにそのシーンが現れる。
ひまわり畑には墓碑もあって、ご覧なさい ひまわりやどの木の下にも麦畑にもイタリア兵やロシアの捕虜が埋まっています、ここから帰還したイタリア兵はいませんよ、と付添の者からも言われる。
つまり、あのきれいなひまわりは、戦争で亡くなった人たちを養分にして咲いている。
そして、そのひまわり畑でも、現に今同じような戦争が起きて、また死体が積み重なるのだろうと思うとやりきれない。

2つ目は、ひまわりは"あなただけを見つめる"という花言葉だそうだ。
「ひまわり」は女性を表していて、愛する夫(太陽)を追い続ける存在という比喩であるらしい。
つまり、ジョバンナは愛する夫アントニオの存在を異郷のロシアまで追い続けてきたというストーリーにもつながる。
しかし、ジョバンナがアントニオの居場所を見つけた時、彼は自分を凍死状態から救ってくれた若いロシア人女性と結婚して子供まで作っていた、という悲恋が待ち受けていた。

3つ目は、ひまわりはロシアの国花だそうだ。
日本なら桜に相当するだろうか。
このひまわり畑の上でロシアが戦争しているのを見ると、因縁みたいなものを感じる。

ひまわりとは関係ないが、ウクライナとロシアの戦場は、ドニエストル川やヴォルガ川付近だ。
この辺りの地域は、インドヨーロッパ語族の祖国に当たると言われている。
つまり、今の英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などを話すヨーロッパ人は、この地域から移動してきた祖先の子孫に当たる。
そんな祖先の故郷で今まさに戦争が起きているのを見ると、欧米人の因縁、業の深さ、原罪みたいなものがあるのかなと想像してしまう。

【4】独ソ戦の過酷さを念頭に置いて映画を見直すと、あまりにもリアルに感じる。

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書) | 大木 毅によれば、第2次世界大戦の独ソ戦は、日本人の戦争体験よりも遥かに凄絶だ。
太平洋戦争で日本人約8000万人のうち戦死者は約400万人で5%だが、ソ連側は約1.8億人のうち戦死者約3000万人で約20%近く、ドイツ側は約7000万人のうち戦死者約800万人で10%以上が死んだ。
なぜなら、独ソ戦は通常の限定戦争ではなく、絶滅戦争の性格を持っていたために、相手側の領土を奪うだけでなく、そこに住む人を徹底的に根絶やしにするほどの凄絶な戦いだったからだ。
しかし、ロシアの過酷な冬で、ナポレオンのフランス軍も、そしてドイツ軍も破れた。

ジョバンナの夫アントニオは過酷なロシア戦線に送られるが、たぶん、スターリングラード攻防戦にも関わったのでないか。
スターリングラード攻防戦はドイツ軍とソ連軍の戦いと思っていたが、スターリングラード攻防戦 - Wikipediaを読むと、イタリア軍も含まれている。
この事実は僕も知らなかった。
舛添さんのツイートが正しいならば、イタリア兵15万人が送られて、戦死者2.5万人ものぼり、祖国に帰還できたものはわずか1万名だから、90%以上のイタリア人兵士は死んだか、行方不明になったことになる。
スターリングラード攻防戦は、ドイツ軍もソ連軍も合わせて死傷者200万人を越えるひどい戦場だった歴史をふりかえると、映画の舞台の過酷さが分かる。

実際、映画のワンシーンには、雪の中の丘に突然翻る赤旗と、ソ連軍の落下傘部隊、スキー部隊、雪上車部隊による戦闘シーンが影絵のように流れる。
画面いっぱいに翻る赤旗は、配送する枢軸国の兵士に対するソ連軍の圧倒的な勢いを表し、戦場に流された多くの兵士たちの血をイメージしているらしい。

映画のシーンには、深い雪の中で敗走を続けるイタリア兵士たちが疲れ切った姿で歩き続けていて、最後には、アントニオがもう歩けず雪上に倒れて友を見送る場面がある。とてもやりきれない。

【5】映画には伏線となるシーンがたくさんばら撒かれていて、最後にその意味が分かる。

ジョバンナが持っていた、夫の写真。
彼女はこの写真を片手に、異郷のロシアで夫を探す。
しかし、彼女が夫を見つけた時、夫には、彼を凍死状態から助けて介助してくれた女性と子供まで作っていたことを知って、列車に乗って逃げる。
そこに、彼女が落としていった夫の写真の裏には、愛するジョバンナへ、アントニオより、と書かれていた。
彼は、この写真を手に取り過去を思い出すことで、イタリアの母親の死に際に会いたいという理由でイタリアに戻り、ジョバンナに会おうとするアクションのきっかけになる。

映画のクライマックスのシーンでは、いくつかのアイテムが伏線として回収される。
その点が分かると、この映画がとてもロジカルに作られているのが分かる。

アントニオから新婚旅行で贈られたイヤリング。
ジョバンナは、アントニオが来ると電話で聞いて、十数年ぶりにそのイヤリングを付ける。
一度は会うのを拒んだのに、愛する夫にきれいに見せたい、あるいは、あなたが新婚旅行で贈ってくれたイヤリングを付けているのよ、と言いたい気持ちなのか。

ジョバンナは、自分の赤ん坊の息子の名前にアントニオを付けていた。
自分が愛した男の名前を付けていたわけだ。
ジョバンナがアントニオへの愛を忘れていなかったことを暗示している。

アントニオはジョバンナに毛皮をプレゼントした。
映画のプロットポイント1のシーンでは、アントニオがロシア戦線に向かうときに、「すぐに帰ってくる。毛皮を土産に」とジョバンナに言った場面がある。
彼は、十数年ぶりにその約束を果たしたわけだ。
彼はジョバンナを愛していたからこそ約束していたことを忘れていなかったことを暗示している。

【6】この映画では列車が重要な意味を持っている。
実際、印象的なシーンには必ず列車が使われている。

・戦地へ旅立つ夫アントニオを乗せた列車。
・帰還を信じて夫の写真を手に列車を待つジョバンナ。
・夫アントニオに妻と子がいる事を知り、ジョバンナが逃げるように飛び乗った列車。
・夫アントニオと再会しても、お互いに妻子がいて感情がすれ違い、永遠の別れとなる列車。

愛する男女の仲は、列車という自分たちの意思ではコントロールできないものによって、引き裂かれてしまう、という意味を暗示しているのだろうと思う。

プロローグやエンドロールで流れるクラシックなテーマ曲(名曲!)とともに、画面いっぱいに広がるひまわり畑の美しさが鮮やかで、また悲壮感が漂う。

この映画では一貫して主要な場面では、このクラシックなテーマ曲が流れる。
この曲のフレーズが映画のシーンに絡められて、人々の記憶に残るのだろう。

【7】映画「ひまわり」は名作と思う理由の一つは、喜怒哀楽のユーモアや緊張感が単調ではなく激しい起伏があって、感情を呼び起こすから。

プロローグでは、ジョバンナとアントニオが陽気なイタリア人らしく、キスしたりやたらベタベタする場面がある。
そして、アントニオの徴兵を回避したいために、ジョバンナとアントニオは、徴兵されるときに結婚したら、結婚休暇が12日間もらえることを理由に、彼らは結婚式をあげて、わずか12日間だけの夫婦で新婚生活を楽しむ。
卵30個以上のオムレツづくりとか、コミカルな場面が多い。

しかし、映画の中盤以降は、ロシア戦線の激戦地や過酷な冬のシーン、多数の死んだ兵士や農民が埋まっているひまわり畑、そして、夫を見つけたのに取り戻せないと知ったジョバンナの悲しみ、最後に、お互いに愛が残っていても感情がすれ違って永遠の別れを告げる場面、へ流れるように、一転して、辛く悲しい感情が押し寄せる。
つまり、アップテンポのシーンで上げておいて、後半では辛く悲しい場面を流すことで感情の起伏を故意に作っている。
実際、後半では、イタリア人の陽気さの雰囲気が全く出てこない点が、感情の落差をもたらし、人々の印象に残る仕掛けになっているのだろう。

【7-2】また、映画「ひまわり」は名作と思うもう一つの理由は、脚本の三幕構成で上手く作られていること。
一般に、三幕構成の理論では、序盤・中盤・終盤の3つで構成されるが、上映時間を4分割した時に、序盤は最初から1/4まで、中盤は1/4から3/4まで、そして終盤は3/4から最後までで時間配分されている。
序盤と中盤の境目はプロットポイント1という区切りの事件、中盤と終盤の境目にはプロットポイント2という区切りの事件が設定されて、三幕構成のストーリーの質が劇的に変わるように仕組まれている。
また、中盤の真ん中のシーンにはミッドポイントが置かれて、この映画が最高潮に印象付けられるシーンが配置される仕組みになっている。

映画「ひまわり」では、プロットポイント1は、夫アントニオがロシア戦線に向かう列車をジョバンナが見送るシーンになっている。
つまり、序盤は甘い新婚生活の流れだったが、ここでそれまでの流れは断ち切られて、中盤の重苦しい独ソ戦の悲劇、行方不明となったアントニオを探すストーリーへ映る。
実際、プロットポイント1は映画の上映時間の1/4辺りに置かれている。

ミッドポイントでは、ジョバンナがロシアでマーシャの家を見つけてその経緯を知り、アントニオと再開できるが、妻子がいることを知って、ジョバンナが列車に逃げ込むシーン。
このシーンはこの映画で一番感動的なシーンとして、Youtubeでもたくさん流れている。

最後にプロットポイント2は、アントニオがイタリアに戻って、ジョバンナと再開するために会いに行くシーン。
ここから、2人の関係は、お互いに愛が残っていても、お互いに家族がいることが分かり、最後に、夫がロシア戦線へ出征する時に見送った時と同じ駅で、妻が夫を見送るラストシーンへつながる。
つまり、最後の感動的なラストシーンというクライマックスへつながる事件として、ジョバンナに会うためにイタリアへ行くきっかけの事件がプロットポイント2で設定されている。

すなわち、プロットポイント1・2、ミッドポイントというシーンを三幕構成に合わせて配置することで、映画のストーリーがコンポーネントのように上手く組み立てられていて、感情の起伏もそれに合わせるように人々の感情に働きかけるように作られているわけだ。
こういうロジカルな構成が名作と言われるどの映画でも構成されていると分かると、映画を見るのがより楽しくなってくる。

【8】映画「ひまわり」は1970年公開とあって、映像自体は今よりも遥かに素朴で洗練されていない。
しかし、各場面のシーンを後から見直すと、ここに以前使った伏線が使われているのか、とか、映画のストーリーがロジカルに作られているのが分かる。
すべてのシーンが映画の主テーマである男女の愛を戦争が引き裂いた悲劇のストーリーに沿っている。
たぶん、映画を作った監督も、ロジカルに組み立てる意思を強く持って、ストーリーとシーンを作り込んだのだろうと思う。


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2021/10/24

いいねをもらえなくて鬱になる負のインセンティブが働くという事象

いいねをもらえなくて鬱になる負のインセンティブが働くという事象についてメモ。
適当なラフなメモ。

えとみほさんはTwitterを使っています 「Netflixの「監視資本主義」が面白かった。 「いいねを作った時は愛を広げたかった。いいねをもらえなくて鬱になっていく10代の子や政治的な二極化は予想外だ」 作り手たちも困惑するSNSの現状。北米のトレンドは2?3年遅れで日本に来るが、この流れもきっちりやってきた。 https://t.co/K8jCUnt22s」 / Twitter

監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

akipiiさんはTwitterを使っています 「後で読む。いいねは愛を広げる設計なのに、いいねをもらえなくて鬱になる負のインセンティブもあるのか」 / Twitter

2021年という時代では、SNSから離れた生活は非現実的。
単に人と繋がりたい、という単純な気持ちだけでなく、SNSに最新の情報やニュースが流れている。
TVや新聞の方が情報は正しいと言われているが、実際は彼らも、Twitterの最新の動向や流行ををキャッチして、そこから記事を書き起こしているな、と思う時も多い。

すると、ほとんどの人たちは、自分の時間の何十%かをSNSに吸い取られていることになる。
その危険性は、特に成長過程の子供に大きな影響がある点なのだろう。

小さい子供、特に小さい男の子は、無意味な万能感を持って夢を語る場合が多かった。
しかし、現代では、SNSで簡単に現実を見れるし、そこから自分のリアルな状況を直視して比較評価されるので、そういう無意味にな万能感は他人からも自分からも訂正されてしまう。
結局、他人に認められてもらうために、みんなが同じような価値観や基準に収斂されることになる。

その世界では、いいねをもらなくて鬱になり、自信をなくす人が多くなる。
万人の競争を経て評価を確立できていない人が大多数になるのだから、多数の敗者が生まれる。

以前なら、海外の子供やビジネスと比較する必要もなかったが、今は違う。
世界中の食材も商品も簡単に手に入り、人々の交流が増えるにつれて、日本人の子供も欧州や米国の子供だけでなく、中国や韓国の子供と学力を比較されることになるだろう。

単純にいいねをもらえず鬱になるだけでなく、全世界の子供と比較評価されて、自分が上から何番目にいるのか、を簡単に評価されてしまう時代になってしまったのかもしれない。

SNSから離れて、自分1人だけの世界に閉じこもって、自分だけの能力を磨くことが難しい時代なのかもしれない。


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