製造業の工程管理の課題とアジャイル化の壁
米中の製造業がアジャイル開発を推進して躍進する一方、なぜ日本の製造業はアジャイル化に苦しむのか。
自動車や半導体装置の事例から見えたのは、機能別組織による工程分断という組織構造の呪縛だ。
次世代のものづくりに向け、製品アーキテクチャと組織の壁を越え、アジャイル変革を成し遂げる突破口を探る。
【参考】
【1】僕は、製造業でもアジャイル化すべきだと思う。
実際、イーロン・マスクのTesla、SpaceXは、製造業でアジャイルを実践している企業だろう。
しかし、日本の製造業は従来の工程管理、WF型開発に固執し、最先端を行く米国企業、中国企業に追いつけてない。
【2】では、日本の製造業の工程管理の実態は何か?
彼らの工程管理では、どんな課題があるのか?
製造業の業界にもたくさん種類があり、各メーカーごとに工程も異なる。
ここでは、僕が経験したメーカーとして、自動車OEMメーカー、半導体製造装置メーカー、防衛宇宙メーカーの事例を通して考えてみる。
【3】1点目は、各メーカーの工程管理の実情は、製品軸の事業部内でも機能別に部門が担当し、工程を跨いだ連携が困難になる。
つまり、機能別組織が工程管理の分断を生んでいる。
SIerでは、PJ単位に、1つの事業部が見積もり~運用保守までの工程を全て管理しているだろう。
つまり、SIerの事業部内には、PM、PL、SE、PGがいて、彼らが各案件を担当する。
とはいえ、インフラ部隊、セキュリティ部隊は専門家集団なので、全社共通の機能別組織として存在し、各案件で必要な時だけ顔を出して作業する。
また、事業部制組織なので、事業部には、管理部門がある。
SIerでは、管理部門が事業部ごとに散在し重複した機能を持つので、無駄は発生しているが、案件優先なので良しとしているだろう。
よって、SIerでは、1つの事業部が全てのリソースを把握して、複数案件を管理する構造になるから、WF型開発であっても、全工程で担当者は密に連携する特徴がある。
【4】一方、製造業では機能別組織が中心なので、SIerとは組織観点が大きく異なる。
製造業では、メカ・エレキ・ソフト・生産計画・製造・品質管理などの部門は、独自の専門知識が必要であるため、専門家集団として統率する方がメリットがある。
しかし、その弊害も大きい。
たとえば、自動車OEMメーカーでは、試作車を作り、それを元に設計し試験して、設計仕様を固める。
その後、量産準備に入り、大量の部品を期日通りに発注し入荷して、工場で量産し、販売会社に渡して出荷する。
デメリットは、設計部門、生産計画部門、調達部門、製造部門、販売部門のように、専門分化されているために、各工程間の情報連携が悪いことだ。
だから、トヨタなど大手OEMメーカーでは、車種ごとにプロダクトオーナーのような人やチームが存在して、エンジン・ブレーキ・シャーシ・サスペンションなどの専門家集団へ必要な機能要件を提示して納入させて、独特な優れた車を生み出していた。
つまり、ある意味では、Scrumのような組織体制や運用を回していたわけだ。
しかし、組織構造としてはマトリクス型組織になるので、作業者にとっては、2ボス体制になるので、2ボスの優先順位が異なると混乱する。
また、専門部署の作業者も1つの案件に関わるわけではなく、複数の案件の開発に関わるケースも多いので、複数案件の担当になる。
よって、メンバーの作業負荷に繁忙期が発生しやすく、リソース管理が非常に難しくなる。
これが、マトリクス型組織の弊害だ。
【5】たとえば、半導体製造装置メーカーでは、TSMCやサムスンなどの大手半導体メーカーに製品を出荷する。
半導体製造装置も機種単位に作られ、基本は派生開発が中心になる。
AMSLのような大手であれば1機種500億円もするし、他の工程担当のメーカーでも1機種数億円から数十億円はするので、月産台数は100台にも満たない。
しかし、自動車並みに部品点数が多く、顧客ごとにカスタマイズした機能要件で設計する必要があるので、典型的な特注品の受注生産になる。
彼らも設計部門が非常に重要であり、設計工程で仕様が確定し、その仕様に基づいて発注や製造が行われる。
設計部門は派生開発を担当するので、複数の機種を担当するために、マトリクス型組織になる。
同様に、2ボス体制やリソース管理の問題が発生する。
【6】たとえば、防衛宇宙メーカーでも、同様の工程が存在する。
こちらも典型的な特注品の受注生産になる。
面白い点は、ミサイルやレーダーなどの防衛装置は巨大であるので、倉庫へ配置したり、実際の戦場に配置するために建設部隊が必要になる点だ。
建設工程は、SIerで言えばシステム移行に相当するだろう。
彼らも設計部門が非常に重要だ。
なぜならば、設計部門が基本的にプロジェクトマネジメントも担当し、メカ・エレキ・ソフト、調達、製造、建設部門に指示を出し進捗管理を行っているからだ。
すると彼ら設計部門も、複数の製品を担当するケースが多いので、マトリクス型組織になる。
同様に、2ボス体制やリソース管理の問題が発生する。
以上のように、どのメーカーでも工程管理がしっかりしているが、工程が各組織に分断されているために、情報連携が悪い。
どの部門も複数の製品や案件を担当するので、マトリクス型組織になるので、特に要員管理に非常に苦労している。
【7】2点目は、SIerと比較して製造業は工程が専門的で分断するために、アジャイルな工程管理を実現しづらい点だ。
SIerなら、ウォータースクラムフォールのように、Agileを挟んだWF型開発が主流だろう。
よって、アジャイル開発をスムーズに運用しやすいメリットがある。
明確に要件が固まれば、後は定期リリースの型に当てはめれば、自然にアジャイル開発になるからだ。
しかし、製造業では事情が異なる。
【8】たとえば、自動車OEMメーカーでは、試作工程のテストカーを作る段階は完全にアジャイルだ。
その後の設計、試験も普通はアジャイル開発を実装できるはずだが、単なるバグ修正ばかりやっている。
実際、設計してECUをハードウェアで作り、ソフトウェアを乗せて、山奥の試験場でテストカーを走らせてバグ出しする。
そのサイクルを繰り返すので、アジャイル開発にしやすいはずだが、そうならない。
なぜならば、ハードウェアがなければソフトウェアも載せられない。
つまり、ハードとソフトの間には依存関係や支配関係があり、どうしてもソフトウェアは後回しになりやすく、しわ寄せを受けやすい。
本来は、アジャイルリリーストレインのように、複数のマイルストーンを1スプリント内に設けてハードとソフトの開発を同期させるような仕組みが必要なはずだが、そのようなプロセス設計は結局見られなかった。
そして、量産準備から調達、量産以降の工程は全てWF型開発になる。
大量の部品を期日に従って調達し、生産ラインで量産していくため、どうしても期日通りにWF型開発でやるのが当たり前になる。
しかし、昨今は、戦争や国際政治、地震台風などによるサプライチェーン阻害により、量産工程を期日通りに回す運用が非常に難しくなっている。
よって、WF型開発で量産するという発想をアジャイル開発に切り替える、というアイデアへ変えるべき時に来ているかもしれない。
【9】たとえば、半導体製造装置メーカーでは、特注品の派生開発がほとんどなので、マイルストーン単位の開発をアジャイル開発に置き換えられるはずだ。
しかし、実際は、見積もり工程や設計工程がPLMやERPと連携されておらず、自動車並みに複雑な製品を作っているのに、Excel仕様書で散在しているためにすごく煩雑な作業になっている。
単なる手作業で忙しく回しているに過ぎない。
調達や量産も同様の事象の問題が発生し、期日通りに製造するのが難しい状況にある。
【10】たとえば、防衛宇宙メーカーでも同様に、特注品の派生開発が中心だ。
ここでは、設計部門がプロジェクトマネジメントも担当しているので、彼らが意図的にアジャイル開発を適用してプロジェクト管理できればよいが、彼ら自身がアジャイル開発を知らないし、たくさんの機能部門と調整する作業に忙殺されている。
調達や量産も同様の事象の問題が発生し、期日通りに製造するのが難しい状況にある。
ここでもアジャイル開発を適用できていない。
【11】つまり、製造業では、各工程とその機能別組織に分断されているために、アジャイル開発を適用するハードルが高く、アジャイル開発プロセスをそもそも適用しづらい。
アジャイルリリーストレインのような高度な同期システムが必要になるが、個別の企業ごとに実装するには、検討すべき点が多くて非常に難しいだろう。
【12】そんな状況にあるので、現時点では、日本の製造業アジャイルはAsIsの呪縛から逃れるのが非常に難しいと考える。
しかし、イーロン・マスクの企業はやっているのだから、何かヒントがあるはずだ。
そのヒントを探してみる。








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