ビジネス・歴史・経営・法律

2023/01/09

農林水産業はITと相性がいい

農林水産業はITと相性がいい事例を見つけたのでメモ。

【参考】
りんご栽培の作業を「見える化」 労働生産性の高い農業を追求【もりやま園株式会社(青森県弘前市)】 | 中小企業とDX | J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

記事では、りんご園でりんごの木を1本ずつデータ化して生産性を分析し、そこから労働生産性を低い状況をいかに改善して収益を上げるか、という課題を次々にIT技術で解決していった事例が紹介されている。

僕が興味を引いたのは、2つある。
1つ目は、使ったIT技術は割りと当たり前のテクノロジーであるにも関わらず、農林水産業ではとても強力な効果があったことだ。

膨大な本数のりんごの木をデータ化するには、いくらパートやアルバイトで手作業でやってもとても時間がかかる。
そこで、スマホを使いリンゴの木のデータを登録するシステムを導入してみると、「りんごの摘果の作業に2倍の時間がかかり、しかも収量が3割少ない品種があった。1時間働いて400~800円程度の稼ぎ。これでは最低賃金にも満たない。その栽培のために年間の労働力を何時間も浪費していた。正直、ぞっとした」。
つまり、りんごの木は収益性のバラツキが大きかった。
おそらく、日当たりの良い所、土壌の成分が良い所などの観点で、りんごの木の生育に大きなバラツキが発生していたのだろう。
そういう事実がデータ分析できるだけでも十分に効果がある。

そういう現状が分かれば、生産性の低い木の代わりに他の品種へ変更したり、労働力の配分を変更するなどの打ち手も指せる。
おそらく、農林水産業は労働集約的で無駄なリソースが非常に多いために、IT技術を少し導入するだけでも非常に効果が出やすいのだろう。

特に、スマホ、AI、IOT、ドローンのようなハイテクノロジーを農林水産業のシーンでどう使うと効果的なのか、というテーマは素人でも色んな発想が出やすい。
日々食べる食材で実感があるので、こうしたらいいのでは、というアイデアが出やすいからだと思う。

また、農林水産業の労働賃金は、他業種に比べると非常に安い。
だから、IT技術を使って付加価値をつけて労働賃金を上げる余地は非常に大きい。
つまり、IT技術を使って課題を解決するインパクトは非常に大きいだろう。

2つ目は、IT技術を導入する時に政府の補助金を上手く利用して導入し、そのシステムを他のりんご園にも提供していることだ。

スマホを使いリンゴの木のデータを登録するシステムは、地元の商工会議所が実施したコンテストにソフトウエアの開発を提案して補助金を出してもらい、開発したこと。

また、余計な実を未熟なうちに摘み取るりんごは捨ててしまうしかないが、その未熟なりんごを加工してりんごジュースにする提案をして補助金を出してもらい、加工工場を作ったこと。

つまり、設備投資に政府の補助金を上手く利用していること。
農林水産業では、地方活性化の旗印を作れば公共機関から援助してもらいやすい環境もあるのではと思ったりする。

あるいは、農林水産業の6次化と言われるように、生産加工で付加価値を付けたり、りんご観光などのサービスで付加価値を付けることもできるので、地方の労働者の職を支援する範囲も広がるから、地方自治体にとっても良い影響があると考えてもらいやすいのだろう。

他にも事例があれば調べてみたい。

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過学習に陥った人間や社会の事例は何があるのか

深層学習、機械学習では過学習という罠の事例がある。
では、過学習に陥った人間や社会の事例は何があるのか?
ラフなメモ。

【参考】
学習データに最適化されすぎて本来の目的が達成できなくなる「過学習」と同様の現象はAIだけでなく社会全体で起こっているという主張 - GIGAZINE

失敗の本質―日本軍の組織論的研究の感想: プログラマの思索

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想: プログラマの思索

(引用開始)
Sohl-Dickstein氏は、グッドハートの法則の強力なバージョンは機械学習を超え、社会経済的な問題にも適用できると主張しています。グッドハートの法則の強力なバージョンが当てはまる例として、Sohl-Dickstein氏は以下のものを挙げています。

ゴール:子どもたちをよりよく教育する
プロキシ:標準化されたテストによる成績測定
結果:学校はテストで測りたい基礎的な学問スキルの教育を犠牲にして、「テストに正しく答えるスキル」の教育を進める

ゴール:科学の進歩
プロキシ:科学論文の出版に対してボーナスを支払う
結果:不正確または微妙な成果の公開、査読者と著者の共謀が広まる

ゴール:よい生活
プロキシ:脳内の報酬経路の最大化
結果:薬物やギャンブル中毒になったり、Twitterに時間を費やしたりする

ゴール:国民の利益のために行動するリーダーの選出
プロキシ:投票で最も支持されるリーダーの選出
結果:世論操作のうまいリーダーの選出

ゴール:社会のニーズに基づく労働力と資源の分配
プロキシ:資本主義
結果:貧富の格差の増大
(引用終了)

過学習は人間や社会の方が罠にはまりやすいのではないか。
なぜならば、一度成功すれば、その成功事例や成功パターンに囚われてしまって、成功バイアスから逃げにくくなるから。
成功してしまうと、あえてリスクを選択して、別のやり方を取らなくても成功できると勘違いしてしまうから。

過学習の罠は特に平成時代の日本人や日本社会にすごくよく当てはまるだろう。
昭和の時代に日本が経済No.1になってしまったために、その時の製造業の成功パターンに囚われてしまって、95年から始まったIT革命に乗り遅れてしまって、現在はWebはおろか、クラウド、スマホ、IOT、AIには到底追いついていない。

日本人は「失敗の本質」に書かれているように、第二次世界大戦でも日清戦争・日露戦争の成功体験に囚われすぎて国を破滅してしまったという前科がある。
この前科も過学習という観点で考えれば、とてもフィットするのではないか。

過学習の話で面白いのは、過学習から逃れる手順も既に分かっているいることだ。
具体的には、学習が成功しないようにあえてランダム化して、失敗をある程度許容して、頑健なプロセスを確立することだ。

たとえば、受験勉強に過学習でハマりすぎて、過去問のパターンだけに適合してしまって、新しいテーマの問題に対応できない人であれば、わざと別のテーマを勉強したり、別の分野へ広げるとか。

ある既存ビジネスで成功しすぎた企業であれば、新規事業の種をわざと社内に残し、新規事業を起こせる人たちやチームが活動できるような組織文化をあえて作るとか。

でも、過学習はイノベーションのジレンマと同じタイプの罠かもしれない。
一度成功したやり方でどんどん成功してしまうと、他のやり方を試す事自体がコストがかかるし、現在の成功した状況を危うくしてしまうリスクが大きいからだ。

自分自身も過学習やイノベーションのジレンマに陥っていないか、定期的にふりかえって、我が身を見直すことが大切なのかもしれない。

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2023/01/04

経営戦略とIT戦略をつなぐ鍵は何なのか

経営戦略とIT戦略をつなぐ鍵は何なのか?
考えたことをラフなメモ書き。

【参考】
ITの地殻変動はどこで起きているのか?~今後の課題はソフトウェア事業におけるエージェンシー問題を解決すること: プログラマの思索

【資格】ITストラテジスト試験対策 この時期にすること(BSC) | 三好康之オフィシャルブログ 「自分らしい働き方」Powered by Ameba

【1】外部環境をPEST分析や5Fsで分析し、内部環境をVRIO分析やバリューチェーンで分析できたとしよう。
そして、経営目標が定まり、経営方針として経営戦略が立てられたとしよう。
経営者としては、こういう経営目標を実現するためにこんな経営戦略を実現するんだ、とスローガンをあげる。
では、そこからどうやって、どんなシステムが必要でどんな順番でシステムを構築していくのか?

ITアーキテクトが、経営者から提示された経営戦略を元に、これだけの数のシステムの開発や改修が必要です、と言っても、投資効果がなければ経営者は納得してくれない。
数千万円から数億円、数十億円のシステム開発に投資するなら、どれだけの投資効果があるのか、その説明の根拠が欲しいのだ。

【2】では、経営目標や経営戦略からIT戦略までの枠組みはどんな体系図になるのか?
経営目標を達成するために、こういう戦略が必要で、こういうITシステムが必要なのです、するとこれだけの投資額が必要でこれだけのROIが出てきます、という因果関係を表す流れを説明したいのだ。

経営戦略からIT戦略、個別システム開発までの全体の枠組みはこんな感じになるだろう。

経営目標 --> CSFに基づいた経営戦略 --> 業務戦略 --> 全体システム化計画 --> 個別システム化計画 --> 個別プロジェクト計画

一般に、経営戦略は中長期の観点で作られる場合が多いので、3~5年ほどの期間で組み立てられるだろう。
そういう経営戦略の元に、事業にある各業務プロセスが新規で立ち上がったり、業務の効率化を目指す活動が実行される。
そんな業務を支えるためにITシステム、ITサービスがあるから、それらは各事業を支える裏方のシステムが多くなり、一般に基幹系業務システムが多いだろう。
たとえば、販売管理、発注管理、生産管理、会計、債権管理、顧客管理など。
もちろん、顧客を獲得するためのエンゲージメントに注力したシステムやサービス、たとえばECサイトなどもあるだろうが、それと同じくらいの規模のバックエンドのシステムも必要になるし、そちらのシステムの方がより巨大になりやすいからだ。

【3】こういう体系図はバランス・スコアカードで表現できるだろう。
財務>顧客>内部ビジネス・内部プロセス>組織や人の学習と成長 の観点でレイヤ化できるだろう。

すると、各レイヤは業績測定指標というKPIでモニタリングできることになるので、下位のレイヤのKPIが良いから上位のレイヤのKPIも良くなって、最終的に売上向上になり、利益向上につながります、という因果関係で説明できることになる。

つまり、経営戦略とIT戦略をつなぐ鍵は、こういう業務測定指標の因果関係にあるのではないか、と思う。
各レイヤの業務測定指標であるKPIが階層化されていて、下位のレイヤの業務のKPIを上げることで、最終的にKGIという経営目標が達成できる、という流れになるだろう。

【4】では、財務・顧客・業務・成長の観点でどんなKPIがあって、どんな因果関係で結ばれているのか?

財務の観点では、一般的に経営指標だろう。
ROE、ROA、収益性、効率性、安全性など。

顧客の観点では、一般にマーケティング指標だろう。
新規顧客数、RFM分析の指標、顧客満足度、コンタクト件数など。

業務の観点では、業務の効率性を示す指標だけでなく業務を支えるITの観点の指標も含まれるだろう。
一般にはQCDの観点が多いだろう。
品質なら、不良品率、部溜率、稼働率、ライン停止時間など。
コストなら、製品別原価、作業工数、在庫費用など。
納期なら、サイクルタイム、リードタイム、納期遵守率など。
他に、研究開発費、アフターサービスの問い合わせ対応回数など。

学習と成長の観点では、従業員の能力向上やナレッジ蓄積に関する内容が多いだろう。
従業員満足度、従業員定着数、特許数、など。

これらのKPIを組み合わせると例えば、利益向上であれば、下位レイヤーのKPIに分解できるだろう。

利益=売上ー原価
売上=新規顧客数x販売単価
原価=時間単価x作業工数
新規顧客数∝説明会の参加回数x説明会に参加した新規顧客数x営業訪問率x見積依頼率x成約率

説明会の参加回数、説明会に参加した新規顧客数、営業訪問率、見積依頼率、成約率というKPIをリアルタイムに測定するために、CRMのシステムが必要であると判断し、CRMを導入・開発・運用するコストがこれだけかかるが、これだけの売上が見込めるので投資効果があります、という説明の流れになるだろう。

こういう話を考えると、ECサイトで商品購入に至る導線作りと全く同じ。
たとえば、AARRRという指標でECサイトの購入率を分解して、ECサイトの導線となる画面設計を考えるやり方と同じ。

AARRRとは?サービスを成長させるための基本戦略【テンプレート付】|ferret

AARRR(アー)モデルを活用する上で知っておきたいこと | Urumo!

【5】今の自分が経営戦略とIT戦略をつなぐロジックを考えている時、相手を説得できるだけのロジックがなかなか作れずに悩んでいた。
悩んでいた原因の一つは、経営戦略と業務を支えるITシステムの計画の間で、階層化されたKPIによって最終的に経営目標が実現されるから投資効果がある、という説明ができなかったためだろうと思ってる。
自分なりに考えているけれど、思いつきで理由を作ってそれをつなげているから、色んな突っ込みがあるとボロボロと漏れが出てしまうという感じだった。

KPIというツリー構造で考えれば、各指標は各要素に因数分解されて、各要素は下位レイヤーのKPIになるからさらに因数分解されていく、という形式になる。
つまり、経営目標KGIというトップから、下位レイヤのKPIまで数式として分解されるので、一つのロジックツリーという構造で一覧できる。
そういうロジックツリーの構造があるからこそ、KPIを繋いで説明することは数式をなぞるように論理的に説明することと同一になるので、相手も説得しやすくなる、という流れかな。

KPIツリーという考え方はおそらく、フェルミ推定の発想と同じ。
ゴールを達成するために、ゴールを測定するKGIを設定し、それを公式を使って因数分解し、各要素の数値は推定して仮説を立てて、KGIを推定するという流れと同じ。

おそらく既に理解できている人、実践できている人にとってはとても当たり前の考え方なのだろうが、現場で色んな経営課題に対して解決策を提示したり、経営戦略に基づくビジネスモデルを提案したりする時、こういう手法を持っておかないと短時間にそこそこ高品質な提案や仮説が出てこないのだろうと思う。

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2022/12/23

現代日本人の弱点はリーダーシップ不足と生産性が著しく低いこと、そしてリスク許容度が著しく低いことだ

採用基準」「生産性」を読み返したらいろんな気付きがあった。
ロジカルでないラフなメモ書き。

【参考】
「採用基準」の感想~日本の根本問題はリーダーシップの総量が不足していること: プログラマの思索

DXとは組織論である: プログラマの思索

Slack導入がDXに繋がる話: プログラマの思索

諸問題を組織論に持っていくのは目的を手段化していないか: プログラマの思索

ITの地殻変動はどこで起きているのか?~今後の課題はソフトウェア事業におけるエージェンシー問題を解決すること: プログラマの思索

失敗の本質―日本軍の組織論的研究の感想: プログラマの思索

プログラマとスクラムが社会実装を変えていく #Findy_GovTech: プログラマの思索

デジタル庁が解くべき課題とITエンジニアの役割の勉強会の感想~CTOの役割とは何ですか?: プログラマの思索

みんなのPython勉強会#65の感想~社会変革の鍵はIT技術者にあるのかもしれない: プログラマの思索

マッキンゼーの報告書「2030 日本デジタル改革」が手厳しい: プログラマの思索

【1】最近の日本のIT業界を見ていると、主に2つの現象が目につく。
一つは、DXに向いた組織を作ろう、という組織論の話。
もう一つは、DXを実現するためにアジャイル開発をもっと積極的に導入して運用しよう、という話。

この2つの話の背景には、2つの問題意識が真因として隠れていると思う。
具体的には、組織論の話題、アジャイル開発の話題の背後には、日本人はリーダーシップが不足していること、日本人は生産性の意識も言動も非常に低いことだ。

【2】今のビジネス界隈では、DXがバズワードだ。
DXを実現するには、既存の業務であれ、新規の事業であれ、ソフトウェアでコスト削減、さらには売上の創出が求められている。
DXを実現するには、ソフトウェア開発者、そしてそれを取り囲む組織という基盤が必要だ。

しかし、DXに関する組織論のテーマはすごくフワフワとしていると思う。
命令指揮系統ではなくフラットに風通しを良くしよう、心理的安全性が担保されるような組織風土を作りましょう、という組織文化の話題が多い。
だがそういう甘い言葉の背後には、今までの組織文化や事業スタイルを捨てて、新しい事業や新しい組織の関係を作ろうとする原動力が必要なのに、たくさんの壁にぶち当たる怖さが説明されていないように思える。
だから、何となく、現状を批判するだけで何も変わらない、という現象が出ているように思える。

実際は、既存の組織風土を変えるのは、今までの人間関係や組織との関係を変えることであり、自らリーダーシップを発揮して動いていかなければ何も変わらない。
ものすごく自頭の良い人やできる人に従ってやれば問題解決するわけではない。
自らチェンジ・エージェントになり、たくさんの困難な壁にぶち当たるごとに、一つずつ壁を壊したり乗り越えていくパワーが必要になる。

採用基準」では、問題解決には、問題解決スキルだけでなく、問題解決リーダーシップ(Problem Solving Leadership)が必要と主張している。
たとえば、目の前に起こったいじめの問題に対し、MECEやロジックツリーだと言っても何も変わらないし、実際に解決するように行動して初めて、問題解決の方向に動き出す。
それが本来のリーダーシップ。

すると、このリーダーシップの背後には、「自らリスクを取る」という概念が隠れていることが分かる。
自分の思いどおりに変わらない状況に対し、自分と異なる価値観を持つ人を説得して調整したり、自分が持っていない知識やスキルはそいうう専門スキルを持った人たちに働きかけてチームとして問題解決を図ることが必要になってくる。
そういう行動は、思い通りの結果にならないかもしれないリスクに自らチャレンジすることを求める。

しかし、日本人はリスクを取りたがらないと一般的に言われている。
すべてのリスクを回避してリスクをゼロにすることばかりに専念している。
だから、リスクを取ってリーダーシップを発揮するという行為、選択肢が取りにくい人が日本には多いのだろう。

実際、「採用基準」に記載されている通り、日本人はチームプレーでチームに貢献した成果を問われる経験が極端に少ない。
たとえば、小中高校生なら、受験という行動はその人だけの能力測定試験であり、個人プレーにすぎない。
社会人になっても、プロジェクトリーダーや管理職にならない限り、自分だけの仕事の成果しか問われない。
すると、一般職の日本人は一生、チームでの成果を求められる、というリーダーシップ経験を積まずに終わる人が多い。

そんなリーダーシップ経験のない人は、わがままな振る舞いが多い。
チームで成果を出すためにそれぞれの役割を認識せず、自分が一番成果を出しやすい行動に走ってしまいがちだから。
自分が成果を出しやすい個人プレーに走るのは、自分が苦手な場面に行動するリスクを取らないことにも通じる。

そんなことを考えると、リーダーシップ不足という弱点をごまかして隠すことで、組織論というふわふわしたテーマに流れてしまうのだろう。
そしてリーダーシップ不足という日本人論の問題点は、日本人はリスク許容度が低いことに真因があると思う。

【3】アジャイル開発は20年以上前から提唱されているのに日本ではなかなか導入すらされなかったが、ここ最近になって積極的に取り入れようとする流れが出てきた。

アジャイル開発の本質は一体何なのか?
僕は、アジャイル開発とは時間価値を最優先にしたソフトウェア開発だ、と一言で言えると考える。
WF型開発のように、時間も労力もかけて品質を作り込んで、高品質なソフトウェアをリリースするのではなく、小刻みにいち早くソフトウェアをリリースすることで売上もキャッシュも獲得していく戦略を取る。
1年間で1回のリリースではなく、5回リリースできるなら、5回分のフィードバックが得られて、その分、市場ニーズに合ったソフトウェアへいち早く開発できるようになる。
つまり、リリース頻度が5倍多いなら、ソフトウェアの価値も5倍高まるメリットが生まれる。

では、なぜアジャイル開発は日本で受け入れられなかったのか?
アジャイル開発の源流はトヨタ生産方式と言われていて、日本人にも馴染みがあるのに、なぜアジャイル開発は日本人にフィットしなかったのか?
たぶんその最大の理由は、ソフトウェア開発の生産性が低いことが問題だ、という意識が非常に薄いことだと思う。

官公庁みたいな縦割り組織の日本人は生真面目なタイプが多いので、決められたルールに従う方が重要であり、コストや期間を度外視したり生産性を重視する行動に行きやすい。
また、ソフトウェア開発者派遣のような人月ビジネスでは、たくさんの工数がかかるほど儲かるので、生産性を上げるモチベーションがビジネスモデル上生まれにくい。
今の日本の製造業では生産工程の改善により原価低減による付加価値向上を目指すが、3%の生産性向上よりも30%以上、2倍以上の生産性向上を目指すような、イノベーションを取るような行動が生まれていない。

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想: プログラマの思索

生産性が低い現象が問題だ、と考えて、その問題解決を図ることにより、生産性をさらに大幅に向上させるという正のループを作り出せていない。
特に、3%の生産性向上のようなちょっとした改善ではなく、30%や2倍以上の生産性向上を図ろうとすれば、今までのやり方を捨てて、新たなアイデアを試す、といったリスクを取らなければ実現できないだろう。
しかし、今までリスクを取ったことがない人が、いきなりハイリスクハイリターンの選択肢を取るのは非常に難しいだろう。
なぜならば、仕事でもプライベートでも、そういうハイリスクハイリターンの練習を経験していなければ、実践で試すことは難しいだろうから。

日本人の生産性が著しく低い、という点にも、日本人はリスクを取りたがらない、という現象がその問題の背後に隠れている。

つまり、「ソフトウェア開発のように、時間価値が重要な意味を持つビジネスでは、生産性に比重をおいて時間戦略を取るべきだ」という考え方が日本人も日本企業も受け入れられていないからだ。
その真因には、日本人のリスク許容度が低いこと、土建業界やIT業界に限らず自動車業界においても日本のあちこちの業界で多重請負ビジネスがはびこっていることにあるのだろうと思う。

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想: プログラマの思索

【4】リーダーシップ不足や生産性が著しく低いという現象には、リスクを取らないという日本人の気性が出ているのではないか。
あえてリスクを取ることで、大きなリターンを得る、というハイリスクハイリターンの選択肢を最初から捨てている場合が多いのではないか。

リーダーシップがあり、生産性が高い人は、いろんな問題解決に対してリスク許容度が広いので、かなり大きなリスクを自ら選択することができる。
つまり、リスク対応力とその人の問題解決能力は比例しているのだろうと思う。

【5】組織論やアジャイル開発をテーマにしている人たちは、日本人の弱点である「リーダーシップ不足」「生産性が著しく低い」「リスク許容度が著しく低い」という真因におそらく気づいている。
その真因をいろんな角度から、いろんな言葉で、いろんな手段で解決を試みようとしているのだろうと思う。
そういう観点を持って、今のDXにかかわるテーマを取捨選択して聞いてみたいと思う。

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2022/10/02

TwitterやFacebookは人力キュレーションツールとして使う

TwitterやFacebookの使い方がコロナ禍で変わったように思う。
TwitterやFacebookは人力キュレーションツールとして使うべきだ。
ラフなメモ。

【参考】
Twitterは最速のメディア: プログラマの思索

ビジネス特化SNS「Linkedin」から見えるもの~人脈はデータマイニングで作られる: プログラマの思索

Facebookはセルフブランディングの最強ツール: プログラマの思索

MEDIA MAKERSの感想: プログラマの思索

Clubhouseは路上ライブや朗読のためのツールかもしれない: プログラマの思索

「現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全」の感想: プログラマの思索

たとえば、コロナの情報を知るには、新聞やテレビ、書籍では不十分だ。
なぜなら、まだその知見や真実が最新論文にしか存在せず、それを解説する情報が新聞やテレビ、書籍にはないから。
だから、医療現場でコロナ患者に対応している医者、コロナワクチンを研究している医療研究者、コロナウイルスの流行を予測する疫学者から情報を収集すればいい。
すると、彼らはTwitterで情報を流しているので、彼らを特定してツイートを逐次読めばいい。

実際、武漢ウイルスからデルタ株、オミクロン株へ変異するうちに、コロナの毒性やかかりやすさもどんどん変化している事実が分かったし、mRNAワクチンのおかげで沢山の人が助かった事実もわかってきたわけだ。

また、Twitterのインフルエンサーのうち信頼できる人達を集めてみると、その分野で専門的知識や専門用語を正しく使えて、その専門知識を一般人にもわかりやすく説明できる能力を持っている傾向がある。
また、インフルエンサーで能力のある人は、他人をけなす言葉は言わないし、人格的な面が言葉に出てきている場合が多い。
僕も、専門知識を使えないインフルエンサーはできるだけ排除しようとしている。
つまり、SNSを集合知として扱うメリットがある。

Facebookの友達関係では、ビジネル上の人間関係から発生する事が多く、同じ業界や同じ興味を持つ仲間が多い。
その集団からの情報発信を集めることになる。
つまり、彼らの興味から発信した情報は、自分にも有用であるケースが多いから、Facebookは友人がわざわざ発信した情報を読むだけで最新情報を入手できる。

たとえば、IT業界にいれば、アジャイル界隈の人達とたくさんFacebookの関係を作っておけば、勝手にアジャイルの最新情報は入手しやすい。
税理士、行政書士、中小企業診断士のような士業も、Facebook上でコミュニティを作る場合が多いので、最新のセミナー情報や補助金、お仕事の情報を集めやすくなるメリットがある。

以前は、TwitterやFacebookなどのSNSは無駄な情報が多く、遊びでしか使っていないイメージが多かったが、今は違う。
そんな経緯を踏まえると、TwitterやFacebook、LinkedinなどのSNSは情報収集ツール、人力キュレーションツールとして使うべきだ。

換言すれば、SNS上の人間関係が深い人ほど、最新情報を入手できて、正しい意思決定により近づける可能性もあるのだろう。

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2022/09/10

アトキンソン氏の中小企業再編成論、生産性向上は処方箋を提示していると思う

新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝 | デービット・アトキンソンを読んだ。
アトキンソン氏の中小企業再編成論は、生産性向上は、解決策となる処方箋を提示していると思う。
アトキンソン氏のロジックを理解した内容で書く。
気づきをラフなメモ。

【参考】
「中小企業の生産性向上」が日本を救う根本理由 | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

【1】日本経済が30年以上低成長である問題とその原因について、色んな有識者が数多くの意見を述べてきた。
アトキンソン氏の主張は簡単だ。

日本は少子高齢化社会で人口が増えないどころか減少する時代に入ったのに、従来と同じ仕事のやり方で生産性を上げてこなかったから、GDPが伸びない。
今後の日本は、GDPを増やすよりも、少なくなった人口で生産性を高めて賃金や収入を増やす方向へ変換すべきだ、と。

ロールモデルとなる国は、先進国で唯一人口が増えている米国ではなく、1億人に満たない中堅国である欧州諸国だ。
なぜならば、欧州諸国は人口規模が小さいので、GDPという規模では米国や中国に負けるが、1人あたり生産性、1人あたりGDPではトップクラスにあるから、と。

一方、アトキンソン氏の中小企業再編成論を批判する - 同友館では、中小企業診断士または商工会議所の立場から、アトキンソン氏が主張する中小企業政策を批判しているが、重箱の隅をつついている感じを受けた。

また、アトキンソン氏の「中小企業は再編すべき」という説を徹底検証 | 識学総研でもアトキンソン氏の主張を批判しているが、重箱の隅をつついている感じは同じだった。

【2】アトキンソン氏の主張の一つは、労働参加率は頭打ちなので、労働生産性を高めるべきだ、という内容。
1人当たり生産性は下記の公式で因数分解できる。

1人当たり生産性=GDP/総人口=GDP/生産人口 x 生産人口/総人口=労働生産性 x 労働参加率

労働参加率は失業していない人の生産量に貢献する。
なぜならば、生産人口=総人口-高齢者-子供-失業者(専業主婦や女性なども含む)だから、総人口が減っても、生産人口を増やせば、GDPに貢献する。

たとえば、安倍政権のもとで女性活躍推進政策、70歳までの高齢者の雇用努力政策などを進めることで、女性や高齢者を勤労者として流入させてきた。
しかし、日本の労働参加率は世界的に見てもトップクラスであり、これ以上増やすことは難しい。

一方、労働生産性は働いた人の生産量に貢献する。
つまり、労働生産性は労働者1人当りの年収、時給に相当する。
日本の時給、年収は、先進国の中でも低いレベルなので、伸びしろがあり、ここにテコ入れする価値がある。

アトキンソン氏によれば、2050年頃の日本の経済を今のレベルで維持するには、最低時給は2500円まで上げる必要があるだろう、と書かれていてビックリした。
今のサラリーマンの残業代の時給は正直3千円程度だろうから、それくらいまで増やすべきなのだ。

安倍政権の頃から続く最低賃金引き上げの政策は、会社経営の問題ではなく、経済政策の問題である、という認識を持つことが重要だ。
経済政策であるという認識が、今の日本の経営者にはない。
なぜならば、労働者の収入を増やすことで、労働生産性を高めて、最終的には生産性を高めるべきだからだ。

【3】アトキンソン氏のもう一つの主張は、日本経済が低成長である真因は中小企業が多すぎる点だ。
これが日本病の正体だ、と言う。

実際、中小企業白書を見れば分かるが、企業数の99%、労働者の70%は中小企業に属する。
だから、今までの日本政府は、中小企業を弱者とみなし、数多くの補助金、税制上の優遇政策などを実施してきた。
しかし、その効果があまり出ていないどころから、足を引っ張っている。

【4】中小企業が多いと、経済にどんな悪影響があるのか?

たとえば、会社規模が小さく、財務基盤が弱いので、設備投資しにくい。
工場の新たな機械に投資しないから、生産性は上がらない。
社員教育に投資しないから、社員の能力は伸びないし、社員の給料も上がらない。
ITシステム投資をしないから、消費税の納税、インボイス制度、電子帳簿制度に反対する。
特に、中小企業がIT投資しにくい点は、今後大きな問題になるだろう。

中小企業は会社規模が小さいので、輸出しにくい。
なぜならば、輸出するには一定の資金、ある程度の設備、ある程度大人数の能力ある社員が必要なのに、会社規模が小さく、社員数が少ないので対応できないからだ。
輸出できなければ、外貨が稼げないので、GDPに貢献できない。
特に、2022年度現在、記録的な円安なのだから、もっと輸出していくべきなのに、輸出できる基盤を持つ中小企業が少ないので、その機会を活かせていないのだろう。

【5】中小企業が多くなる原因は何なのか?

たとえば、中小企業は税制上の優遇が多い。
交際費は800万円まで経費とみなされるし、接待飲食費の50%は損金として認められる。
また、補助金の種類も多い。
コロナ禍では持続化給付金がよくあがった。

これらの税制の優遇、補助金の支援は、中小企業が規模を拡大していくインセンティブを失わせる。
本来は、最初は中小企業であっても、事業を拡大していけば、規模の経済を活用するように社員を増やし、設備投資して、どんどん会社を大きく成長していくべきなのだ。
しかし、中小企業という小さい規模の方が、今の日本ではあまりにもメリットが大きすぎるために、あえて中小企業になっているケースが多い。

最近よく聞かれるマイクロ法人は、税制上の優遇を使って経費削減するためのノウハウとして活用されている。
本来はそういう仕組ではないはずだ。

【マイクロ法人設立で節税】個人事業主と二刀流のメリット・違法性を解説

すると、企業数が多くなるので過当競争になりやすい。
つまり、低価格競争になりやすいく、労働者の賃金が抑えられて、労働者の年収も増えない。
むしろ、労働者を低賃金で長時間労働させるようなブラック企業をのさばらせることにつながる。

本来は、そういうブラック企業は市場から退出させるべきだ。
しかし、中小企業を破綻させないように延命させる制度を数多く用意しているために、労働者にとっても都合の悪いブラック企業が残り続けることになる。
だから、最低賃金を上げることで、その最低賃金も払えないような企業は市場から退出させるべきなのだ、というロジック。

今後の日本は少子高齢化で、人口も減っていくので、国内市場はどんどん小さくなっていく。
中小企業の数を減らさない政策を続けると、過当競争に陥りやすく、労働生産性を上げることもできない。
だから、中小企業をM&Aなどで統合していく政策が必要になるだろう。

実際、最近の中小企業が自主廃業するケースが増えているために、中小企業庁も、事業承継やM&Aを積極的に推進する政策を取っている。
また、事業承継士のような資格も出てきていて人気があるらしい。

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たぶん、今後20年くらいは、事業承継やM&Aの仕事が多くなるだろうと思う。

【6】アトキンソン氏のもう一つの政策は、観光政策を充実させることだった。
安倍政権のもとで観光政策を推進して、2019年には3千万人以上のインバウンド客を取り込んできた。
このおかげで、特に地方は外貨を稼げるようになったように思う。

観光政策を提唱したのはとても良い案だと思う。
よく知られているように、日本は四季の季節ごとに観光地がたくさんあり、神社仏閣も多く、食事も多彩で美味しいし、観光資源が充実しているからだ。
交通の便利さ、Wifiやトイレの設置、英語などの案内などの設備投資を行えば、観光客がSNSで勝手にマーケティングしてくれるので、相乗効果を得やすい。

コロナ禍で観光政策は下火になったが、2022年に記録的な円安になったから、海外から観光客を呼び込めば外貨を稼げるはず。
しかし、昭和の時代に重工業製品やハイテク製品の輸出で外貨を稼いできたのに、平成や令和の時代は観光政策でしか外貨を稼げないのは情けない気もするが。

【7】アトキンソン氏の意見で興味深いのは、日本人は真面目で頑固なのに突然変化するのはなぜなのか?という問題の原因分析。
たとえば、江戸末期の尊皇攘夷と開国の論争では、明治維新になると突然、文明開化に変わり、近代化を推し進めた。
たとえば、太平洋戦争で鬼畜米英と言っていたのに、戦争に負けたら、突然欧米と仲良くなり、高度経済成長を推し進めた。
なぜ、日本人はそれまで頑固に態度を変えないのに、急に態度を変えてしまうのか?

アトキンソン氏によれば、日本人は面倒くさいと思ったからでは、と言う。
つまり、今までのルールや価値観を変えるのは面倒なので、いくら正論を言われても、なかなか変えられない。
ちょうど、総論賛成各論反対の状況と同じ。

しかし、問題が大きくなって手に負えなくなる事態になると、いくら面倒くさいと思っても、状況を変えないと、どんどん状況が悪化して損をする。
つまり、実際に問題が手に負えない時点になると、急に方針転換して、まるで問題がなかったかのように、急激に物事が変わっていくように、どんどん政策が実行される。

戦前の日本人の気質はまだ成熟していない青年期と同じだった: プログラマの思索

一方、欧米人は原理原則、価値観を重視するので、主義主張がマキャベリストみたいに変わることはない。
だから、欧米人は対立が激化したら、戦争が起きやすいタイプなのだろう。

【8】アトキンソン氏の書籍を読むと、経済政策や財務にとても詳しく、統計データを元にロジカルに説明してくれるのでとても分かりやすいと思った。

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2022/08/23

地政学の考え方~近代以後の世界史はランドパワーとシーパワーの戦いである

地政学(GeoPolitics)について色々読みまくった結果、地政学―アメリカの世界戦略地図が一番わかりやすかった。
地政学の考え方とは「近代以後の世界史はランドパワーとシーパワーの戦いである」と腹に落ちた。
ラフな感想。

「大国政治の悲劇」の感想~現代はパワーポリティクスの歴史に戻ったみたいだ: プログラマの思索

映画「ひまわり」は名作だった: プログラマの思索

【1】地政学(GeoPolitics)の基本的な考え方とは何か?

【1-1】地政学は、世界地理と政治学が合体した学問なので、国同士の地理的環境が大きく依存する。
しかし、マッキンダーの原著「マッキンダーの地政学ーデモクラシーの理想と現実 | ハルフォード・ジョン マッキンダー」も読んでみたが、僕には読みにくかった。
地政学の考え方がよくわからなかった。
地理的環境がどのようにパワーポリティクスと関係するのか、イメージしにくかったから。

一方、地政学―アメリカの世界戦略地図では、マッキンダー、ハウスホーファーから現代の学者に至るまでの主張を時系列に整理してくれていて、彼らの世界観はこうなのだ、と一言で説明してくれているので、地政学の初心者にとって理解しやすかった。
特に、マッキンダーの世界観を表した地図を図示化してくれているのがとても助かった。

【1-2】地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、マッキンダーの考え方では、世界地図を見て、ユーラシア大陸を本島、英国・北米・南米・豪州・日本はユーラシア大陸を囲む島々とみなす。
アフリカのサハラ砂漠をラクダで交通する海のようなものをみなせば、アフリカの南半分は島になる。

すると、本島(ユーラシア大陸)の勢力と、それを囲む島々の勢力が互いに戦うという考え方につながる。
ここから、本島=ユーラシア大陸=ランドパワー、英国・北米・南米・豪州・日本などの島々=シーパワーに分類される。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、コロンブス以後の世界史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史になる。
特に、1870年以後の近代世界史では、鉄道網を持つランドパワーの国と艦隊を持つシーパワーの国の闘争の歴史とみなせる。
つまり、地政学では、交通網の手段によって地理的環境を区別しているように思える。
一方、近代以前の世界史では、強力な騎馬隊を持つ遊牧民族と豊かな穀物を持つが戦争に弱い農耕民族との闘争の歴史になる。

たとえば、19世紀後半は、不凍港を求めるロシア帝国(ランドパワー)を、最大の植民地を持つ英国(シーパワー)が世界各地で対立していた。
そして20世紀後半は、ソ連(ランドパワー)と米国(シーパワー)による冷戦の歴史が続く。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、ランドパワーとシーパワーの対立は相性が悪く、長く続きやすいらしい。

【2】地政学の考え方から何が導かれるか?

地政学―アメリカの世界戦略地図を読むと、いくつかの主張が興味深かった。

【2-1】1つ目は、シーパワーとランドパワーが交錯する部分は紛争地域になりやすいこと。

たとえば、マッキンダーは、欧州大陸をユーラシア大陸から突き出たラテン半島とみなして、ラテン半島の付け根に当たる東欧を制するものが世界を制すると主張した。
この主張を考慮して、現在のウクライナ紛争を眺めると、NATO諸国とロシアの境目に当たるウクライナが紛争地域に該当することになる。

また、朝鮮半島も同様。
ロシア、中国のランドパワーの支援を受けた北朝鮮と、米国、日本のシーパワーの支援を受けた韓国が対立している。

あるいは、パレスチナ地域のように、トルコやイラン、ロシアなどのランドパワーの国々と、湾岸諸国やイスラエルなどのシーパワーの国々が交錯する地域は、紛争地域に該当することになる。

【2-1】2つ目は、シーパワーの大国である米国が冷戦時代にソ連と対決した政策には、封じ込め政策(Containment)があるが、この考え方の背後には、リムランドを制するものが世界を制するという考え方があること。

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、リムランドとは、シーパワーとランドパワーが交錯する地域を指す。
一般に、「危機の弧」(arc of crisis)、「不安定の弧」のことを指す。
具体的には、ユーラシア大陸の縁に当たる朝鮮半島から東南アジア、インド半島、イラン、トルコ、バルカン半島、ウクライナに当たる地域を指す。

不安定の弧 - Wikipedia

つまり、米国は危機の孤であるリムランドは軍事的衝突が起きやすい地域とみなし、それに対する戦略を練っていることになっている。

【3】地政学の観点では、日本はどのような立ち位置にあるのか?

明治維新から第二次世界大戦の敗戦に至るまでの日本の近代史は、地政学の観点から見れば、その政治的意志が非常に理解しやすいと思う。

【3-1】なぜ、明治維新の立役者たちは、あれほど朝鮮半島の進出にこだわっていたのか?

大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司によれば、明治時代に日本の陸軍を支援したドイツ将校は「朝鮮半島は日本の心臓を突き出す短剣である」と言ったらしいが、そのような考え方にその頃の日本人は取り憑かれていたわけだ。
実際、山県有朋は朝鮮半島を利益線とみなし、主権線だけでなく利益線も保護するために軍備拡張が必要と主張したわけだ。

61.日清戦争

たぶん、西欧列強がどんどん植民地を拡大しつつある時代において、近代の日本人は悪戦苦闘していたのだろう。
地政学の観点から見ると、近代の日本の歴史は、シーパワーである日本列島から、ランドパワーの朝鮮半島、満州、中国大陸へ進出していく流れに該当し、その力学から逃れられなかったことになるだろう。

【3-2】なぜ、日本は満州にあれほどこだわったのか?

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー) | 半藤 一利によれば、15年に渡る日本の戦争の背後には「赤い満州がある」と言っていた。
満州には農産物や鉄、石炭などの主要な資源があり、日本の近代化に欠かせないものだったから。
一方、地政学の観点から眺めると、満州が朝鮮半島の付け根であり中国大陸と朝鮮半島の境目に当たり、マッキンダーの主張「半島の付け根に当たる地域を制するものが世界を制する」と合致するからだ。
満州が安定しなければ、朝鮮半島も安定しないし、その余波で日本も安定しない、という理屈を当時の日本人は持っていたのだろう。

【3-3】なぜ、日本は負けると分かっていた太平洋戦争に突入してしまったのか?

地政学―アメリカの世界戦略地図によれば、日華事変でランドパワーの中国まで手を伸ばし、東南アジアや太平洋島嶼部などのシーパワーまで進出しようとして、シーパワーの米国と対立したから、ということになる。
大国政治の悲劇 | ジョン・J・ミアシャイマー, 奥山 真司を読むと、近代の日本が気にかけていたのは安全保障であったが、当初は日本近海に過ぎなかった領土的野心が東アジアや東南アジア全体まで波及して独裁的に侵略していった流れに逆らえなかった、という理屈になっている。

【3-4】現代の日本は地政学の観点ではどのような立ち位置を取るべきか?

パワーポリティクスや地政学の中で日本の立ち位置を見ると、英国が欧州大陸から離れてシーパワーの大国として、大陸諸国間の勢力均衡政策に従事したように、日本もアジア大陸から離れてシーパワーの国として、勢力均衡政策を取るのが望ましいのではないか。

そのような地政学の観点で眺めると、安倍首相が、日米豪印の協力枠組み「クアッド」を創設し、太平洋とインド洋に渡るシーレーンの重要性を主張した点は、先を見通した良い戦略と思う。
具体的には、日米豪印のクアッド(シーパワー)は、中国(ランドパワー)の一帯一路構想に対抗する、地政学上の戦略に対応付けられるだろう。
つまり、ランドパワーの中国に対抗して、シーパワーの日本、米国、豪州とリムランドのインドが連携して対抗するという勢力均衡政策を実現できたからだ。

また、「自由で開かれたインド太平洋戦略 - Wikipedia」という標語のおかげで、クアッドの正当性の根拠に、専制国家と民主主義国家という軸の違いという考え方を裏付けることができたわけだ。

安倍元首相が主導した日本の大戦略を、国際政治の理論から再評価する ? SAKISIRU(サキシル)

中国の覇権を止められる政治家はほかにいない…安倍元首相の死で、インドは国を挙げて一日中喪に服した 日本は「インド太平洋とクアッドの父」を失った | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

米豪印首脳が安倍氏評価 「クアッド創設に尽力」 - 産経ニュース

そんなことを考えると、地政学の考え方は、20世紀までの世界史だけでなく、今後の国際政治にも使える考え方なんだなと思う。

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2022/07/31

製造業の業務にスクラムを適用できるのかという疑問~全てのビジネスモデルにスクラムを適用できるのか?

先日、認定スクラムプロダクトオーナー研修を受けてきた。
その中で最も興味を持ち、そして今も半信半疑で理解できていない話は、「テスラの生産は全てスクラムでやっています」というお話。
ジョー先生から、下記のYoutubeを教えてもらったので見た。
以下、理解できていない初心者のラフなメモ。

【参考】
[日本語と英語] Keynote アジャイルコーチが学んだ「Tesla 真の凄さ」?あなたが学んできたアジャイルとTeslaは何が違うのか? ジョー・ジャスティス - YouTube

認定スクラムプロダクトオーナー研修の感想: プログラマの思索

【日本語訳】A day of Mob Programming Subtitles by Joe Justice [No Audio] - YouTube

なぜ米国企業は90年代に蘇ったのか~日本の手の内は完全に読み取られた~V字回復の経営の感想: プログラマの思索

【1】ジョー先生の認定スクラムプロダクトオーナー研修に出た時に一番興味があり、そして今も完全に理解できていない点は、ジョー先生が話されていたのは、テスラはスクラムで電気自動車を製造しています、という話。

先生曰く、テスラでは調達・計画・製造・品質部門は全てスクラムチームで活動し、すべて生産している。
たとえば、材料や部品を購買するチーム、車体を作るチーム、ブレーキを作るチーム、電池を作るチーム、自動運転ソフトウェアを作るチーム、販売するチームなどがある。
それらスクラムチームをサポートするために、カスタマーサポートのチーム、経理チームなどがあり、他にも、各チームにコーヒーを提供するコーヒーサポートチームもあるらしい。

ジョー先生に、生産計画はどうなっているのか?と聞いたら、そんなものはない。
スクラムチームは生物の細胞(セル)のように自己組織化されているから、と。
各チームはそれぞれの部品を作る責務があり、各チームは他チームに必要な部品や素材を要求するために、各チームのプロダクトオーナーが集まってメタスクラムの中で調整する。
下流工程のスクラムチームから上流工程のスクラムチームへ部品や素材を要求して製造されるので、プル生産になっているので問題ない、と。

他にも色々聞きたかったが、僕が疑問点を言語化できていなかったので、それ以上は質問できなかった。

【2】電気自動車がモジュール化できるだろうと推測できても、本当かなと思うが、たぶん僕が分かっていないだけかなとも思う。
でも、この仕組みで本当に高品質に大量生産できるのか、は別問題と思う。

高品質な規格品を大量生産できる仕組みをどうやってアジャイルに構築して、大量生産できるのか?
単純に考えると、普通の大規模製造業では、相当大規模な資金を使って、工場に設備投資して、生産ラインを作って、部溜まりが安定するくらいに生産ラインの設備機械の稼働率も製造メンバーによる生産プロセスも安定させる必要があるが、それをスクラムで実装できるのか?

一方、ソフトウェア開発は結局、人依存であり、メンバーのスキルや能力に品質が比例するし、技術の習熟度合いも比例する。
ソフトウェア開発には設備は殆どいらない。
ソフトウェア企業での規模の経済は所詮、開発者という人員と拠点となる作業場くらいなので、簡単にスケールできる。
しかし、ハードウェア製品の規格品を作る場合、人だけでなく、膨大かつ大量資金の設備が必要であり、それをすり合わせるのが難しいはず。
テスラが自動運転などのソフトウェア技術が優れているのは理解するが、ハードとして本当に実現できているのか?

【3】製造業の業務にスクラムを本当に適用できるのか?
僕の疑問はこれに尽きる。
この疑問を自分なりに分解してみる。

1つ目は、ジョー先生の話を聞くと、製造業のバリューチェーンにある各機能、つまり機能別組織をそのままスクラムチームに単純にマッピングしただけに思える。
一般に普通のメーカーであれば、仕入→計画→製造→販売という主活動のバリューチェーンがあり、購買部、生産計画部、製造部、販売部のような機能別組織で構成されている。
また、総務・経理・人事・企画などの支援活動のバリューチェーンもあり、総務部、経理部、人事部、企画部という機能別組織が構成されている。
ジョー先生の話を聞くと、機能別組織をスクラムチームに編成するだけで、各チームは自己組織化されるように聞こえるが、それら組織は会社として全体最適化されるのか?

たぶん、普通の会社の機能別組織をそのままスクラムチームにマッピングしても、有機的な触媒が簡単に起きるとは思えず、おそらく何らかの前提条件が数多くあるのではないか、と思う。

2つ目は、製造業の生産ラインで重要な点は、生産プロセスを標準化生産に当てはめて安定化させることだが、スクラムを適用してもそれを実現できるのか?
一般に、トヨタ生産方式でもっとも重要なポイントは、需要の変動をなくして、在庫があまり増減せず一定の範囲に落ち着くように、また、設備の稼働率が大きく変動することなく、設備機械が高い稼働率で安定して動かすために、生産量を標準化するように生産計画を立てる。
そういう生産計画なしで、単に、機能別組織を置き換えたスクラムチームだけで、安定的に生産できるのか?

普通に考えると、各機能の組織は個別最適化するように動いてしまって、ボトルネック工程に数多くの在庫を作り出してしまう罠が発生しがちだ。
なぜなら、生産部門の中で、部品加工を行う部署は、高額な設備機械を持ち、部品加工を効率良く行うための手順を持つので、自分たちの生産性を最大限に上げるように動きがちだから。
スクラムチームは生産プロセスを全体最適化するように自然にバランスを取ってくれる保証はあるのか?
もしそれが実現するならば、どんな原理によって実現されるのか?

おそらく、製造業の業務というビジネスモデルの中でも最も複雑な問題をスクラムで解決できるならば、それなりに何らかのノウハウがあるのではないか、と思う。

【4】とは言え、テスラは自動車業界で最も注目されていて、2022年現在の時価総額がNo.1である。
ジョー先生は、テスラの時価総額は、トヨタなどの日本メーカー、アメリカのビッグスリー、ドイツやフランスや韓国のメーカーの時価総額の合計に等しいくらい大きいです、と言っていた。

注目されている理由は、いくつかあるだろう。
以下は自分の推測。

1つ目は、電気自動車という「移動能力を持ったスマホ」という製品がビジネスとして大きなインパクトと可能性があることだ。
電気自動車というハードウェアを一度所有すれば、自動運転ソフトウェアやユーザインターフェイスがスマホみたいに定期的にバージョンアップされるので、いつでも最新の機能を維持できる。
つまり、従来のメーカーによる製品売り切りではなく、バージョンアップされるソフトウェアのサブスクリプションで売上を確保するようになる。
どこかの話では、アップルやテスラの粗利益率が30%以上もあると聞いていて、その理由は、こういうソフトウェアのバージョンアップというオプション、つまり付加価値がとても大きいからだ、という話を聞いた。
つまり、ビジネスモデルとしては従来の自動車メーカーよりもはるかに財務体質は良いことになる。

テスラが従来の自動車メーカーと異なるところ - Togetter

テスラが従来の自動車メーカーと異なるところは工場までソフトウェア化すること: プログラマの思索

2つ目は、他の自動車メーカーにも大きな影響を与えているように見えることだ。
たとえば、ドイツのフォルクスワーゲンは、自動車のソフトウェア化では、テスラよりも劣っているが、日本のメーカーよりも遥かに先に進んでいると聞いたことがある。
その理由は推測だが、フォルクスワーゲンなどのドイツ自動車メーカーはディーゼルエンジンの不正により大打撃を受けたので、従来のガソリンエンジンは捨てるしかなく、電気自動車に賭けるしかなかった、ということではないか。

また、テスラがベルリンに製造工場を作った事件もドイツ自動車メーカーに影響を与えているのではないか。
なぜなら、ドイツ自動車メーカーの工場の生産性よりもテスラの製造工場の生産性の方が圧倒的に大きかった、と聞いている。
すると、テスラを見習って、単に電気自動車を製造するだけではなく、電気自動車の付加価値を高めるソフトウェア基盤の開発が重要なはずだ、と考えて、その方向に一気にカジを切ったのではないか?

【5】そんなことを考えると、他業界のビジネスモデルにもスクラムを適用できるのではないか?と思える。

製造業という数多のビジネスモデルの中でも最も複雑な業務にスクラムを適用できるならば、小売、卸、サービス業、官公庁の業務にも適用できるはずだ。
単純に連想すると、経営コンサルタント業務のように、高度な専門知識を持った人が集まって、少人数のチームを形成してアウトプットを出す業務には、スクラムはすぐに適用できるはずだ。
なぜなら、ソフトウェア開発チームの特徴にコンサル業務がとてもよく似ているからだ。
設備はほとんど不要で、必要なものは、各メンバーに高度な専門性を持つ技術があるかにかかっているからだ。
つまり、コンサル業務のチームにスクラムをそのまま適用すれば、今の大規模スクラムのノウハウをそのまま適用するだけで、コンサルビジネスもスケールできるはずだろう。

製造業でスクラムを適用できるならば、小売スーパーや飲食店、理髪店やネイル店、旅館などの中小企業が多いサービス業の業務にも簡単にスクラムを適用できるはずだ。
特に労働集約的な業務には、スクラムチームで編成し直して、メンバーの生産性を高めるように持っていけるのではないか。
スクラムチームはプロダクトオーナー、スクラムマスター、チームメンバーの3つの役割だけから構成されていて、少人数なチームで構成されるので、それらのサービス業のメンバーにも適用できるのではないか。

この辺りも単純なアイデアに過ぎないけれど、たぶん既に他の人達がやっているに違いないと思う。
色々事例を探してみたいと思う。

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2022/06/14

戦前の日本人の気質はまだ成熟していない青年期と同じだった

【1】「日本人の行動パターン」に書かれた一節が一番心に残った。
アメリカ人は戦前の日本人をこういうふうに分析していたんだな。

日本人は青年期の未熟さの性質を持つ。
ころころ変化する態度、人に応じて異なる感情表現、幻想に陥る現象はパーソナリティ形成が成熟していないことを表す。
社会構造が変化すると、それに対応して素早く変わる日本人は、青年期の発達段階に特有のもの。
日本人の集団はノイローゼにかかっている。集団的神経症、強迫観念に囚われている。

【2】僕が学生の頃は、日本文化論がすごく流行っていた気がする。
日本が経済大国と呼ばれていた時、なぜ日本は小さな島国にすぎないのに、そこまで成長できたのか?
それに答えるために、数多くの論説があった。
割と多かったのは、日本特殊論。
日本人は特殊な気質を持つ、特殊な文化を持つ、という論説が多かった気がする。

確か、E.H.ノーマンの本だったか、ある一節があった。
戦前の日本人の言動を見ると、ある時は激しやすいが、別の時は穏やか。
ある時は頑固なのに、別の時は一瞬にして豹変して環境に順応する。

その原因は、日本人が置かれた社会や政治構造に由来するのでは、という指摘だった。
一言で言えば、日本社会は階級制度であり、日本人はその社会順序を乱さないように、あらゆるところから統制を受けている、と。

日本人の行動パターン」の一節を読むと、それにぴったりな気がした。
明治から昭和にかけて、日本人が急激に近代化できた理由は、たぶん日本人は未成熟な青年期の人間が多かったのだろう。

そして、2022年の現代日本は平均年齢が49歳なので中高年世代が最も多いから、青年期ではなく老年期に入っているのでは、と思ったりする。

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2022/06/05

「大人の学びパターン・ランゲージ」の感想~知識と経験を行ったり来たりするタイミングを大切にする

「大人の学びパターン・ランゲージ」はリスキリングの参考になると思った。
IPAの同じWebページにある「学び続けている実践者の方からお話を伺いました。」というインタビュー記事もとても良い。
読んでみて、自分の中で色々考えるものがあった。
ラフなメモ。
間違っていたら後で直す。

【参考】
大人の学びパターン・ランゲージ(略称まなパタ):IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

変革への道:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

知識は経験よりも大切か、経験は知識よりも勝るのか、SECIモデルは相互作用を語る: プログラマの思索

実践した後に勉強するのがエンジニアの本来の道: プログラマの思索

【1】社会人になって「学ぶ」とはどんな意義や問題点があるのだろうか?

日本人なら大学へ入る18歳までは受験勉強という公式な体制の元で勉強させられる。
学びとは何なのか?という基本的な問いを考える作業は、この期間は無意味だ。
むしろ、希望大学に入学することが自己目的化している人ほど、受験競争の勝者になる。

一方、社会人になると、急激に能力を伸ばす人と、停滞する人の2種類に差別化される。
案件に揉まれて技術やマネジメントの経験を身に着けて、どんどん昇格して、社会的地位が上る人もいれば、職を転々としながらも何も変わらない人もいるし、同じ企業の中でずっと何も変わらずに仕事している人もいる。
人はそれぞれの目的を持って生きているように仕向けられる。

そういう状況の中で、現代という時代では、20代で身につけた知識や技術がすぐに陳腐化するリスクに常につきまとまれている。
特に、IT技術を身に着けても、それは10年後には当たり前になり、差別化できる要因ではなくなる。

すると、30代、40代、50代と年齢を経るごとに、自分が活躍できるステージをどんどん変えていく必要性が出てくる。
単純な専門的知識で差別化するよりも、チームや組織、企業を回すようなマネジメント、経営への領域へ移す人達も多い。
人との関わりという部分で差別化しようとする。

しかし、20年経てば1世代変わるので、人も社会も価値観が変わり、人間関係をコントロールするマネジメントスタイルも急激に変わる。
昨今では、米国でのマネジメントの最新知識、たとえば、心理的安全性、ファシリテーション、ティール組織、などいろいろな手法を身に着けなければ、今の社会で自分の存在意義を見つけるのは難しいのではないか。

【2】ビジネスで結果を出そうとする時、知識と経験の2つの両輪が必要になる。

自分の数少ない経験では、知識を経験に変わるタイミング、経験が知識に変わるタイミングを自分なりにつかんでおくことが重要と思う。
なぜならば、知識だけ脳みそにたくさんあっても使いこなせなければ現場では無意味だからだ。
経験をいくら積んでも、その経験を自分なりに解釈して抽象化した知識に変換して、他人に説明できなければ、現場では無意味だからだ。

知識を実際の現場で使おうとする時、他人から教わった知識、本から得た知識は、自分の現場の問題が発生する環境とギャップがある。
環境がもたらす制約条件を考慮しながら、問題を解決する方向へ知識を利用する。
その知識が問題をうまく解決するときに使えたタイミングで、その知識の有効性とその知識が使える範囲を自分なりに理解できる。
この時が知識が経験に落とし込めたタイミングだ。
このタイミングはすごく重要で、そのタイミングを意識しなければ、何事もなく通過してしまって、自分の腹に落とし込めたものにならない。
その知識には、自分にとって再現性がなくなるからだ。

一方、色んな経験をして来た後で、本を読んで気づいたり、コミュニティや大学で色んな人と議論して気づいたりするタイミングがある。
たとえば、初めての案件で初めての役職で仕事して試行錯誤したり、デスマーチ案件で日々苦しめられたり、ルーチンワークに追われて何も考えないまま過ごしたりした後で、なぜこんな状況を自分で解決できないのか、という疑問や問題意識を強烈に持つ。
自分の能力の限界を知り、自分で環境を変える要因をつかみたいと思う。
そんなときに、本や動画、ネット、他人との会話という数多くのチャネルを通して、知識やフレーズに触れたときに、ぴーんと来る時がある。
この時の知識が、経験から知識を抽出して、自分なりに理解できたタイミングだ。
このタイミングは重要で、自分でそのタイミングを意識しなければ、経験は単なる時間的浪費にすぎない。
いくら年齢を取ったとしても、同じ時間という量は質が大きく異なる。

知識と経験を行ったり来たりするタイミングを自分なりに意識して習得することが必要であると最近感じている。

【3】知識と経験を行ったり来たりするタイミングやその活動は、たぶんSECIモデルで表現されるだろうと思う。

知識を経験に変えるタイミングは、形式知から暗黙知に変換する活動に一致し、それは「内面化」に相当すると思う。
経験を知識に変えるタイミングは、暗黙知から形式知へ変換する活動に一致し、それは「表出化」に相当すると思う

つまり、内面化や表出化のタイミングを自分なりにいつも意識して、その瞬間を忘れないようにすること。
そうすれば、以前の自分からなにか一つ殻を破れた、という感覚が得られると思う。

そのためには、表面的な知識を色々自分なりに考えて、どういう問題ならうまく適用できるのか、どんな制約条件を考慮すべきか、実はあまり効果がないのでは、と試行錯誤して考える必要がある。
その作業は、形式知同士を組み合わせて新たな形式知を得る「連結化」という作業が必要になるのではないか。

また、案件でたくさんの経験を得たとしても、その経験から何が問題だったのか、何が足りなかったのか、どんな環境要因があったのか、試行錯誤して考える必要がある。
その作業は、暗黙知の内容を整理して暗黙知のレベルを高める「共同化」という作業が必要になるのではないか。

【4】知識と経験を行ったり来たりする作業は意識的にやる必要があると思う。
特にビジネスマンになれば、いろんな場面で初めての問題に遭遇し、常に問題解決や再発防止を迫られる。
そんな状況で何らかの成果を出すには、常に知識と経験を行ったり来たりする技術を持つ必要があると思う。

以前「実践した後に勉強するのがエンジニアの本来の道」というツイートを読んで、ソフトウェア開発はまず実践して経験した後で知識を習得するのが一番の近道、という内容を思い出した。
実践した後に勉強するのがエンジニアの本来の道: プログラマの思索

また、ビジネス経験を積んだ後でMBAを取得する話をよく聞くが、たぶん、一度経験した内容を知識として再構築する必要性を感じているのだろうと思う。
「あるMBAコースの人(元銀行員で支店次長)が僕にこう言っていた。MBAっていうのは、サラリーマンが20年間で覚えることを圧縮して教えるものだと。マネジメントのエッセンスを短期的に学ぶことで管理職、役員レベルの視点を持つことを目的にするということなのかもしれない。」という内容は心に残った。

企業経営アドバイザー - hmiyau ページ!

MBA | 猫好きのブログ

まなパタにはそのヒントが隠れているような気がする。

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